2011年03月06日13時43分掲載  無料記事
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アジア

開発と核廃棄物処理場建設に揺れる台湾東部のアルイ古道を歩く(上)  安藤丈将

  2011年の春節(旧正月)が間近の1月31日、私は台湾南東部にあるアルイ古道(阿朗壹古道)を歩いた。アルイ古道は、屏東県北部に近い台東県の南部の海岸線に約12キロに渡って広がっている。この古道は、台湾最後の自然海岸林として知られている。日本人が台湾を旅行する時には、台北、高雄あたりの高速鉄道沿線の北部〜南西部を訪問するのが一般的である。台湾東部は交通の便が良くないこともあって、日本人の観光客が訪れることは比較的少ない。しかし東部には、大都市とは違った魅力がある。私はそれまで二カ月間、冬の台北に住んでいたが、冬の台北では毎日のように雨が降っていた。アルイ古道の晴れた空ときれいな空気に接した時には、まさに別天地にやって来た気にさせられた。 
 
◆先住の民の苦難 
 
  私は、原発や水問題に取り組むNGOである緑色公民行動連盟の友人たちと一緒に、アルイ古道に近い台東県大武郷に向かった。大武郷は人口約7,000人の小さな町であり、原住民、とくにパイワン(排灣)族が多数居住している。私たちはパイワン族のアラパイさん一家が運営する宿舎に泊まり、翌日のアルイ古道の散策に備えた。私たちは早朝に起床し、先住民に長く伝わる古道の入る前の儀式を受け、アラパイさんのガイドで古道に入っていった。 
 
  古道に入るまでの車の中で、アラパイさんは、アルイ古道周辺のパイワン族の歴史を話してくれた。以前にこの地は「大亀文王国」と呼ばれ、先住民が独自に運営を行っていた。しかしパイワン族が自分たちの土地を守るのは、容易なことではなかった。 
 
  16世紀以降には、アメリカ人、オランダ人、鄭成功、清の兵士が次々とやって来て、パイワン族の独立を脅かしてきた。日露戦争後には台湾を植民地にした日本軍がやって来て、最新の軍艦でパイワン族を降伏させた。アラパイさんの祖父の代には、高砂義勇隊に入れられて、日本軍のために戦うことになったパイワン族もいたそうである。 
 
  土地の権利を奪われていく中で、この地のパイワン族の多くは、伝統的な生活様式をあきらめ、町の低賃金労働に従事することを強いられていった(この辺の聞き取りは、緑色公民行動連盟のダン・ギンリンさんにお世話になりました。詳しくは、ダン・ギンリン「台湾最後の海岸線を守ろう」『ノーニュークス・アジアフォーラム通信』最新号をごらんください)。 
 
◆台湾最後の海楽園の消滅? 
 
  アルイ古道は、「台灣最後的海角樂園(台湾最後の海の楽園)」と呼ばれている。古道を歩く中で、私はこの「樂園」には二つの異なる顔があることを知った。一つは自然が生んだ険しい道のりである。古道の「散策」とは名ばかりで、途中にはロープを使い、足を滑らさないように気をつけながら、登っていかなくてはならない箇所もあった。    天気は悪くなかったが、風が強かったので、油断していると、ふらついてしまうこともあった。私たちを案内しながら、アラパイさんは、道すがら、アルイ古道の草、花、木、岩などの説明をしてくれた。柔らかい草を手に取り、これは古道で用を足した時に、お尻を拭くのに最適だと教えてくれた。彼のアルイ古道に関する豊富な知識は、先住民が古道の自然とともに暮らしてきたことを、私たちに教えてくれた。 
 
  私たちは海辺の歩きにくい岩場を進み、厳しい山道を登り、歩き始めてからだいたい3〜4時間経っただろうか、ついに高台に到着した。ここからは海岸線を見渡すことができ、天気の良い日には、遠く北の花蓮まで見渡すことができるとのことである。この美しい景色こそが「樂園」のもう一つの顔である。私たちは疲れを忘れて、この海岸線の景色を見入っていた。 
 
  ところがこの「樂園」は、現在、消滅の危機にあるそうである。台湾政府は近年、台湾東部の開発を進めていて、その一環としてアルイ古道の近辺にまで「台26線」と呼ばれる公道が延びることになっている。すでに建設は進んでおり、もしこの公道が完成すれば、台北からの車でのアクセスが楽になるが、その一方でアルイ古道は消え去ってしまう。自然海岸林の環境上の価値や先住民の自然と土地に対する権利の観点から、現地ではアルイ古道を守ろうとする運動が立ち上がっている。地元だけでなく、台東、さらには台北など都市の人びとも、古道の行く末に関心を寄せている。 
(続く) 


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