2011年03月09日20時08分掲載  無料記事
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外国人労働者

「合格しても帰国する」 インドネシア人看護師候補生が慰労会で涙

  インドネシアと日本のEPA(経済連携協定)により来日したインドネシア人看護士候補生らの「慰労会」が3月5日、インドネシア大使館(東京都目黒区)で開かれた。この日参加したインドネシア人候補生は26人(第一陣の候補生は全部で約90人)。候補生の代表として挨拶に立ったデヴィ・スプティヤスリニさん(永生病院勤務)が、スピーチの途中涙で声を詰まらせるなどの場面もみられ、3年間の苦労がうかがいしれる慰労会だった。(和田秀子) 
 
■涙のスピーチ 
 
「国家試験に合格するために、毎日勉強してきました。家族と離れ、日本人の中で、日本語に苦しみながらの毎日でした。何度インドネシアに帰りたいと思ったかわかりません……。それでも、毎日少しずつがんばって勉強し、国家試験を受けることができました。合格しても、そうじゃなくても、今まで国家試験の合格を目指してやってきたことは、決して無駄なことではないと思います……」 
 
デヴィ・スプティヤスリニさんが涙ながらに挨拶すると、会場の候補生たちからも、すすり泣きの声が聞こえた。 
 
彼らは、EPAによる第一陣の候補生として2008年8月に来日。半年間の日本語研修終了後、受け入れ先の病院で看護助手として働きながら、「3年以内に看護師の国家試験に合格する」という目標に向けて勉強を続けてきた。 
 
2009年、2010と、すでに2回国家試験を受けたが、合格したインドネシア人看護師候補生はたった2人。外国人の合格率は1%と狭き門だった。 
 
そして、先月2月20日、彼らはラストチャンスとなる3回目の国家試験を受けた。合格発表は3月25日。もし不合格だった場合は、原則として帰国しなければならない。 
“原則”というのは、不合格だった場合でも、受け入れ先の病院と候補者双方が合意した場合のみ、「1年間の在留延長」を認める方向で政府は調整を続けているからだ。 
 
■延長はしない、合格しても帰国する 
 
今年は果たして、何人の合格者が出るのだろうか−−。 
ある日本語教育関係者は、今年の合格者を「30人合格できれば上出来だが、事前の模試から予想すると15人くらいだろう」と予想する。 
 
慰労会に参加していた候補生数名にも話を聞いたところ、「今年の国家試験は去年より簡単だったが、平均点が上がれば、合格は厳しい……」という声が多かった。 
 
また中には、「日本人は1分で問題を読めるが、私たちは倍の時間がかかる。せめて時間を延長してほしかった」という意見や、今年から導入された「難解な漢字にルビをふる」「英語表記をする」などの措置に関しては、「漢字で覚えているのでルビは意味がなかったが、英語表記は問題を読むスピードが上がって助かった」という意見もあがっていた。 
 
かりに不合格だった場合、彼らは「一年の在留期間延長」を希望するのだろうか。 
 
あくまでも慰労会の会場でインタビューした限りでは、意外にも「延長はしない」「もし合格していても帰国する」という声が多かった。以下にご紹介する。 
 
「母が早く帰ってきて結婚しないさいと心配している。だから、もし合格しても帰国するかもしれません。母の気持ちを大切にしたいから……」(女性候補生) 
 
「合格しても帰国します。私の日本語はまだまだ不十分ですから、東京の大きな病院で仕事を続ける自信がありません。同じ病院で働いていた候補生は帰国してしまいました」(女性候補生) 
 
「延長するかどうか、まだ病院と話し合っていないので分かりません。でも……、もう一年がんばる気力がないので、帰ると思います。仕事は楽しかったけど、日本語の勉強のことは、もう思い出したくない」(男性候補生) 
 
「合格したら残るけど、不合格なら帰ります。インドネシアで看護師をしながら、現地でもう一度日本の国家試験を受けるチャンスがもらえるとうれしい。日本では試験に合格するまで看護師の仕事ができないから、忘れてしまいそう」(男性候補生) 
 
■付け焼き刃の対策ばかり 
 
しかし、こういったネガティブな意見が出るのも無理はない。 
AOTS日本語教育センター長の春原氏は次のように話す。「彼らは、“3年間で合格”という目標を見据えて、ひたすら勉強に取り組んできた。今さら「1年間延長も可能」と言われても、気力が残っていないのではないか……」 
 
しかも、まだ正式決定されたわけではなく、あくまでも“調整中”なのだ。 
 
ある日本語教育関係者の中からは、「国家試験の点数によって延長許可を出すなど、基準を明確にしなければ不公平感が残る」といった懸念の声も上がっている。 
 
この日、慰労会に出席していた日本インドネシア協会、会長の福田康夫元首相からは、こんなメッセージが送られた。 
「あなたがたのがんばりは私もよく知っている。政府は今、あなたたちが残れるように努力をしている。しかし、合格しても不合格でも、この3年間の経験はきっとあなたたちの将来に役に立つはずだ」 
 
果たして候補生たちの日本での経験は、どのような形で実を結ぶことになるのだろう。 
行方に注目したい。 


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