2011年03月28日00時11分掲載  無料記事
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東日本大震災

元東芝原子炉設計部長が語る福島第一原発の今後  「更地にするには数十年かかる」

  一進一退を繰り返す福島第一原発。誰もがこれからどうなるかを心配している。さらに、いまの状況がおさまった後、あの原発群はどうなるのか。元東芝原子炉設計部長が分かりやすいコメントを送信してくれたので紹介する。(池田龍夫) 
 
 
藤林徹(元東芝原子炉設計部長) 
 
◆正しい危機感を持とう 
 
  福島原発について多くの情報が飛び交っています。福島原発の地震と津波の被害による現象はニュースでご承知のとおりです。設計上の耐震強度の2倍の地震と設計で予想した高さ以上の津波に襲われて、冷却に使用する海水ポンプが流されたか損傷してしまったことは、ビルや町が津波に襲われている多くの映像をみるとよく理解できます。現場は時々刻々変化し、また内閣府・保安院などからは、事態が日々悪化していると説明されています。今後どのように推移するか予断は許されない状態です。すなわち現状から悪化する方向か現状以上に悪化しない方向かで、危険性は大きく変わります。 
 
  一方で、東京在住の方々から、このまま東京に居続けてよいのか、雨が降ってきたら被曝するのかといった質問が寄せられています。これらの方々は、デマメールやインターネットからの多くの情報に混乱しているようです。今一番必要なのは、正しい危機感をもつことです。情報の発信元とその根拠を探って、正しい認識をもってください。 
 
  まず、権威のある情報であっても、二つの方向があることを承知してください。 
  一つは、現在と将来を悪い方向に評価した情報です。これは、何が起こっても対処できるように、安全サイドに評価した結果ですから、けっして悪いものではありませんが、安全サイドの度が過ぎる情報をそのまま信じて恐慌状態になります。 
  もう一つは、現在と将来を良い方向に評価した情報です。これは、人々が心の安堵を保てるように、現状以上に悪くならないことを前提とした評価結果ですから、それはそれなりに正しい情報ですが、それだけを信じると楽観的な態度に結びつく危険があります。 
 
  この二つの方向に基づく情報を、自分で正しく判断して、正しい危機感を持つことが重要です。正しい判断をするには、正しい技術的な根拠を理解しておくことが重要です。何も起こらなければ、そのような難しい理論や因果関係を理解する必要はありませんが、福島原発の今の状況は、そのような理解が必要は段階です。わかり難くても、根拠を示すような新聞記事は是非注意して読んでください。 
 
◆冷却できなければどうなるか 
 
  さて、前書きが長くなりましたが、このようなことをベースに私見を次のとおり述べます。 
 
  もしも、福島原発が冷却されて現状が維持または改善される方向であれば、放出される放射能は大きくは増えないでしょうから危険度は低いです。 
  しかしながら、冷却ができない方向であれば、危険度は大きく増えます。すなわち、原子炉にある燃料の、社会で言われている溶融(実際は燃料を包む被覆管の高温腐食)が進んで、燃料は崩れて炉心は崩壊するでしょう。そうなると再臨界になって核分裂反応が始まるのではないかと心配する人もいます。しかしながら、それには核反応をおこす中性子を生み出す水が必要ですし、また中性子を吸収するホウ素が大量に炉心にあるため、再臨界の心配はないと思います。 
 
  このときでも待避した住民は十分に管理された状態にありますから、被曝の危険性は軽微でしょうが、待避できない人、例えば現場で戦っている東電の職員や作業員の方々には重傷者や犠牲者も出てくるでしょう。 
 
  それでも東京都民は安泰です。放射能は大気の流れに沿って拡散して広がり、広がった分だけ薄まりますから、距離が離れれば離れるほど危険度は低下します。例えば発電所の発生点で1時間あたり100ミリシーベルトであった放射性物質が東京方向の風に乗って流れたとすると、1キロ離れていれば1ミリシーベルト、10キロ離れれば0.01ミリシーベルト(10マイクロシーベルト)と低下します。東京は福島から100キロ以上離れていますから、さらに0.0001ミリシーベルト(0.1マイクロシーベルト)以下となり、東京都民のリスクは、10キロ圏内にいる福島県民のそれよりもずっと低いものです。(この距離による低減効果は概念を示す安全サイドのもので、実際は、風向きや風速などの条件でこれよりかなり低くなります。) 
 
  17日の朝日の朝刊に、日本の平均年間被曝量は、自然からと医療などから3.75ミリシーベルトとありました。すなわち、一日あたり10マイクロシーベルト、1時間あたり0.5マイクロシーベルト以下になります。 
  すなわち、発電所で1時間あたり100ミリシーベルトであった放射性物質が毎日24時間、東京方向に向かって365日流れ続けたとしても、東京で受ける被曝量は、これまでの日本の平均被曝量の5分の1にしか相当しません。 
  したがって、東京から脱出するとか雨が降ったら外出しないなどの話は、まったくナンセンスです。でも、心配だったら、外出から戻ったら、花粉症と同じように、コートや帽子を払うとか、寝る前にシャワーで頭を洗う程度のことは実行すれば、さらに低い値になるのでよいでしょう。 
 
  むしろ、人的な影響、例えば危険をあおる報道やデマを伝えるネットやメールによる不安感の方が心配です。これらは人から人へ伝染します。放射能の汚染より、こちらの伝染を心配してください。 
 
◆4基を更地にするには数十年かかる 
 
  福島原発の状況が現状からどちらの方向に向かうかは、今後1週間から1ヶ月しないとわかりません。それは物理的な現象の進展と、行政、東電、国民の努力によって決まります。 
 
  東京電力が自らの災害ではなく国民の災害であることを認識して、自衛隊や消防庁など行動できる行政部隊、他電力のエキスパート、国際的な知能などの協力を仰ぐことができれば、国民が納得できる結果が得られます。 
 
  それで、将来の道筋ですが、それは政府が世論を見ながら決めることです。修復して再起させるのか、解体して更地にするか、あるいはチェルノブイリのように石棺に閉じ込めるのか、半年か1年後に決まるでしょう。でも原子力事業は世論とともに進みますから、おそらく、更地にする道を選ぶと思います。 
 
  更地にするには、まず喪失した原子炉の屋根を回復して、原子炉から燃料を取り出して安全な場所に移動させ、容器や部品を丁寧に除染しながら解体します。 
  それには、5年から10年かかるでしょうから、3ないし4基の原子炉では数十年かかるでしょう。この間にも放射能の問題が付きまといますから、地元の方は長期間の避難か移住が必要になります。その間の生活保障など莫大なお金がかかります。そのようなことから、不名誉な石棺を選ぶことになるかもしれません。 
 
  以上がとりあえずの説明です。東京の人は放射の問題は心配無用です。将来の姿は世論が決めます。これが回答です。 
 
  地震と津波に遭遇した発電所(火力発電所を含め)のうち、使える発電所が復旧して計画停電が軽減されるまで、半年から1年はかかるでしょう。それまで、節電に協力しながら、今後の道を探ることも大切です。どうか、厳しい現場で、命をかけて水を注入している技術者と労働者、それに関係機関の方々の無事を祈ってください。このため、自宅を離れて不便な避難生活をおくられている方々に思いを馳せて、また心にゆとりができましたら、30年から40年の長期にわたって私たちに電気を送り続け、いままさに息絶えんとするプラントたちに、お疲れ様でしたとつぶやいてください。 


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