2011年03月29日13時18分掲載  無料記事
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東日本大震災

放出された放射性ヨウ素はスリーマイル島事故の10万倍以上のおそれ 米国エネルギー環境研究所が警告

  日本の福島第一原発から放出された放射性ヨウ素はスリーマイル島事故の10万倍以上のおそれがある、という衝撃的な分析で始まる《米国エネルギー環境研究所(IEER)のプレス・リリース》の翻訳をピース・フィロソフィー・センターのサイトから紹介する。状況は非常に深刻であり、日本政府と東電は、継続している大量の放射線放出量を公表し緊急時対応策をはからなければならない、と指摘している。エネルギー環境研究所は、反核物理学者として有名なアージュン・マキジャーニ博士が所長を務める研究組織である。(翻訳:乗松聡子) 
 
 
Peace Philosophy Centre 
http://peacephilosophy.blogspot.com/2011/03/ieer-press-release-this-accident-has.html 
 
  日本の福島第一原発から放出された放射性ヨウ素はスリーマイル島事故の10万倍以上のおそれがある。当研究所は日本当局に対し、より徹底した緊急時対応策を求める 
 
  米国は、深刻なリスクを避けるために使用済み燃料をできるだけ乾式貯蔵に移動し、見直し期間中は認可や再認可を保留にするべきである 
 
  メリーランド州タコマ・パーク発 ―損傷した日本の福島第一原発の原子炉は大気中に放射線を発し続けている。現時点で、事故は1979年のスリーマイル島(TMI)事故を大きく上回る放射線を出した。チェルノブイリは放射線を出す元は1か所の原子炉だけであったが、日本の事故現場では7カ所から放射線が出ている。損傷を受けた3つの原子炉と4つの使用済み燃料プールは、チェルノブイリの原子炉に比べ、特にその影響が長引くセシウム137を含む。 
 
  フランスの原子力安全機関であるフランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)は、2011年3月22日までに放出された放射性ヨウ素131は約240万キュリーであると推定している。ペンシルバニア州のTMI事故の一番正確とされる見積もり(15キュリー)の16万倍であり、最大の見積もりである17キュリーの14万倍である。IRSNによると、チェルノブイリ事故の約10%の放出量である。(注1) 
 
  福島から出たセシウム134(半減期は約2年)とセシウム137(半減期は約30年)を合わせて50万キュリーぐらいであり、チェルノブイリのセシウム放出量の約10%である。事故を調査した大統領諮問委員会によると、TMI事故では検出可能な量の放射性セシウムは出なかったという。 
 
  エネルギー環境研究所(IEER)所長のアージュン・マキジャーニ博士は「この事故はスリーマイル島事故のレベルをとうに超えている」と語った。「放出量はまだチェルノブイリより相当少ないが、すでに近辺地域に長期間の影響が出る可能性のあるレベルである。放出された放射線の推量、長引く避難、食品と水の汚染、政府によるその他の対策などを併せ見ても、公式の事故評価をレベル5のままに据え置くのは現実味がなく、誤解を招く恐れがある。」 
 
  ヨウ素131の一番の懸念は甲状腺ガンであり、大人より子どもの方がよりリスクが高い。ヨウ素131を多く摂取した子どもは発育問題や甲状腺の他の問題を抱えることがある。女の子は男の子よりもリスクが高い。同じ被ばく量でも、大人の男性よりも女の乳児の方が甲状腺ガンになるリスクが70倍高い。ヨウ素131は牧草地を含む地面に落ちる。 
 
  汚染された牧草を牛やヤギが食べたらヨウ素131は乳に凝縮される。半減期は8日間であり、大量に放出された後は相当の量が環境に数カ月間残る。セシウム137は非常に低いレベルにまで崩壊するのに数百年かかる。1950年、1960年代に行った大気圏内核実験から出たセシウム137は世界中の土壌にまだある。カリウムのように全身に行き渡るので、放射線によるありとあらゆるガンの原因となる。チェルノブイリの周辺に立ち入り禁止区域(1,000平方マイル=約2、590平方キロメートル)をいまだに維持しなければいけない主な理由が、このセシウム137による汚染である。 
 
  損傷した福島の原子炉から出ている放射性降下物はすでに本州の大部分を覆った。日本当局は、11種類の野菜と、原発周辺地域産の牛乳に法的基準以上の放射線物質が出たことを市民に警告した。子どもと乳児に水道水を飲むことを避けるように勧告した。 
 
  こういった警告に関わらず、日本当局は実際の放射線の拡がり方についてしっかり伝えてきていない。いくつかの報告によると、放射線の放出の仕方は深刻で、急きょ市民の安全を守るために対処しなければいけないものである。この大量の放射線放出、広範囲に渡る避難区域、食品や水の汚染を考慮すると、フランスと米国がそうしたように、事故の度合いはレベル6に引き上げられなければいけない。そうすることで日本の一般市民はより現実的な認識を持つことができ、適切で、より徹底した緊急時対応策を可能にする。 
 
  損傷を受けた原子炉を安定化させるための努力は部分的にしか成功していない。海水での冷却はまた別の問題を引き起こしている可能性がある。燃料棒の間の空間に塩が沈着し塞いで、淡水を注入したとしても冷却水が速やかに流れないおそれがある。通常の冷却ポンプを復旧する作業は大変な技術的、また安全面での問題に直面している。 
 
  「東京電力と日本政府はこれまでの放射線放出量、そして今後どれぐらい放出されるかの予測をなるべく詳細に市民に知らせ、市民を守るための適切な緊急時対応策を打ち出す必要がある。」とマキジャーニ博士は提言する。(注2 ) 
 
  先週、エネルギー環境研究所は米国における使用済み核燃料の事故から生ずる損失は9億ドルから7千億ドルであると予測した。例を挙げれば、バーモント・ヤンキー原発では、福島第一原発の問題を抱える4つの原子炉の使用済み燃料の合計以上の燃料を、その使用済み燃料プールに抱えている。それにも関わらず原子力規制委員会(NRC)はこの燃料を安全に保つための追加策を何ら(この原発に)命じていない。 
http://www.ieer.org/comments/Daiichi-Fukushima-reactors_IEERstatement.pdf 
 
  「原子力規制委員会は米国中にある時間の経った使用済み燃料を全て乾式貯蔵に切り替えることを指示すべきである」とマキジャーニ博士は言う。「長期的安全性の見直しが完了するまですべての認可、再認可手続きを保留すべきである。AP1000といった認定直前の原子炉も見直すべきである。日本の危機が進行中でこの問題からの教訓をまとめる暇もないうちに、原子力規制委員会が今回被害を受けた福島の原子炉と同じ構造を持つバーモント・ヤンキーの原子炉の認可を延長したのは嘆かわしいことだ。原子力規制委員会がバーモント・ヤンキーの時間が経った使用済み燃料を全部取りだし、乾式キャスク貯蔵に移すことを再認可の条件としなかったことに衝撃を受けている。」とマキジャーニ博士は語った。 
(Translated by Satoko Norimatsu) 
 
注1)この注釈は日本語版作成にあたり日本の読者にわかりやすいようにIEERと相談した上で訳者が付けている。この数値はフランスのIRSNの推計 
http://www.irsn.fr/FR/Actualites_presse/Actualites/Documents/NI-terme-source-22032011-tableau.pdf 
にもとづいてます) 
注2)注2)この部分の引用は、原文では誰が言ったかの記述がなかったので、IEERに、マキジャーニ博士の発言であると確認を取った。 


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