2011年04月09日08時13分掲載  無料記事
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東日本大震災

地震から30日目  〜核の技術者たち〜 

  地震から30日目。この間、様々な報道があったが、一番打たれたのは「週刊現代」の1つの記事だった。4月16日号に、「福島第一原発は欠陥品です」という見出しで、設計者のデール・ブライデンボー氏が告白している記事である。インタビューを行ったのは大野和基氏だ。 
 
  ブライデンボー氏はゼネラル・エレクトリック社(GE)で、福島第一原発の1号機から5号機で使われている「Mark機廚箸いΩ胸厦Г鮴澤廚靴拭Mark気鮴澤廚靴浸点ではわからなかったが、後継炉のMark兇鉢靴魍発する際に行ったテストで、従来、考えていたよりも大きな負荷が原子炉格納容器にかかることが判明した。そのとき、ブライデンボー氏の脳裏に浮かんだのは過去に設計して稼動しているMark気里海箸世辰拭 
 
  「Mark気蓮地震や津波などの大きな災害によって冷却機能を喪失すると、格納容器に想定された以上の負荷がかかり、破裂する可能性がある。そのことが明らかになったのだ。」 
 
   ブライデンボー氏は、この事実を重視して、NRC(米国原子力規制委員会)やGEに問題を伝えた。欠陥のあるMark気倭犇箸鯆篁澆垢戮だ、とブライデンボー氏は考えた。しかし、もし欠陥を認めたら「将来、新しい原発を売る上で、大きなハンデとなる」とGEで却下された。そのため、ブライデンボー氏はGEを退社した。ブライデンボー氏はエンジニアの立場からこう述べている。 
 
  「百パーセント安全な原発など造れるはずがない」 
 
  この記事を読んでいて、科学者や技術者のありようを考えさせられた。日本では原子力工学の専門家がテレビで盛んに「安全」を強調していた。しかし、こんな基本的な事実に触れた人は少なくとも僕がウォッチしていた間は1人もいなかった。彼らは知らなかったのだろうか?この記事を読んで思い出したのは、原子力の危険性を訴えた科学者や技術者のことだ。彼らは原子力ムラの中では出世の道を絶たれてしまう。大学のヒエラルキーの中で、彼らが進めるのは助手や講師、助教授までのようだ。 
 
  週刊現代の記事で思い出されたのは岩波新書から出ている「核先制攻撃症候群」の著者R.C.オルドリッジ氏である。オルドリッジ氏は核兵器のミサイル設計技師だった。かつてアメリカ最大の兵器会社ロッキード社の技術部門に所属し、ミサイルの設計を行っていた人物である。しかし、オルドリッジ氏がロッキード社を辞める原因になったのはトライデント・ミサイル計画だったという。 
 
  「ペンタゴンの関心が、ミサイルの格納サイロといった「堅固にした」(hardened)敵の発射陣地を破壊できる精確な「第一撃」兵器を手にすることにあるのに気づいた。これは攻撃された時にのみ報復するという政策からの重大な転換であった」 
 
  米海軍が作らせようとしている兵器が表向きの軍縮交渉とはまるで反対だったことにオルドリッジ氏は疑問を持ち始める。 
 
  「1970年4月16日、米ソ間の戦略兵器削減交渉(SALT)がジュネーブで開かれたとき、ポセイドン・ミサイルはその多核弾頭とともに生産段階に近づいていた。ロッキード社と海軍は、SALT交渉の進展が、複数の核弾頭を個別の目標に誘導・命中させる再突入運搬手段(多弾頭個別目標再突入、MIRV)を非合法化することになりはしないか、と憂慮するようになった。そんな制限がついて、ポセイドン・ミサイルの配備が禁じられることになったら、海軍が最新兵器を取り上げられることになるばかりか、ロッキード社にとっては経営破たんとなっただろう。そこで一足跳びに差をつけてしまい、いかなる条約制限にも対応しうるような代替核弾頭システムを開発するとの決定が下された。この目的のために作業グループが編成され、私は設計エンジニア部門の責任者に選ばれた。 
  このSALTの抜け道さがし〜当初は公然とそう呼ばれた〜グループに配属されて間もなく、私は不安を覚えるようになった。上司の部屋で会合していたある日、エンジニア主任補佐が入ってきた。彼は海軍と一緒になって、われわれ作業グループが検討すべき課題としていくつかの選択肢をこしらえてきたのだった。その中で注意を引いたもののうちに、ソ連が探査できないようにミサイルにMIRVを載せる可能性の検討があった。条約をごまかそうとする意図を持ちながら、どうして軍縮に真面目に織り組めようか。これは私がアメリカの政策の裏に真面目さが欠けていることに気づいた最初の機会だった。」 
 
  アメリカが核攻撃を行うのは敵が攻撃してきた場合に限るという表向きの政策とは裏腹に、先制攻撃でソ連の核ミサイル基地すべてを第一撃で叩く兵器を開発していることにオルドリッジ氏は憂慮するようになった。「この情報が一般国民に秘密にされていることに、私は激しい怒りを覚えた」と書いている。新聞などで米ソがなぜ人類を何回も絶滅できる数の核兵器を持つのか疑問を持つ人は多いだろうが、それは第一撃で敵のすべての核ミサイル基地を叩くためだったのだ。しかも、ミサイルが不発だった場合の予備の核ミサイルもそこには含まれている。こうした国々が今も、世界の核政策についてリーダーシップを握っている。 
 
  オルドリッジ氏らを縛るものは潤沢な会社のサラリーや手当て、あるいは大企業に勤めている「誇り」であるとオルドリッジ氏は書いている。そのためには良心にも目をつぶることができる。わが家族やわが子孫のために、といういい訳もありうるだろう。しかし、オルドリッジ家の場合は違っていた。オルドリッジ氏の家庭では子どもたちが大量破壊兵器作りに参画している父親に疑問を投げかけてきたのだという。 
 
  「私が初めて自分の仕事に疑いを持ったのは、数年前、ある夕食後に長女と交わした会話の中でだった。それは翌朝の五時半まで続いた。たいへん熱のこもった討論だった。ベトナムで使用されたナパーム弾を製造しているダウ・ケミカル社に対する学生たちの反戦運動を彼女が説明することから始まった。だが、話はすぐに私がロッキードでしている仕事のことに移った。本当に真剣な表情で彼女は言った。「私、心配だわ、お父さん。もうすぐお父さんたちの仕事に反対してデモがかけられるわ」。それは私の心を動かした。彼女の真剣な悩みは、われわれ二人の間にイデオロギーによる断絶が起るかもしれないと心配したためであったからだ。・・・「誰かがそれを始める勇気を持たなければいけない」。この言葉を私はふり払うことができなくなった。この言葉が私を悩ました。」 
 
  こうした技術者たちは約束された出世や報酬を断念しなくてはならなくなる。それは不況の今、大きなリスクだろう。東京電力の技術者を含め、福島第一原発の原子炉に携わったすべての技術者たちの胸には何があるのだろうか。政治家や経営者なら、政治判断とか経営判断といった言葉で自分の言動を合理化できる。しかし、技術者は技術そのものが仕事だから逃げ場がない。 


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