2011年04月10日14時08分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201104101408420

核・原子力

原発か脱原発か、選択を迫られる地震大国イタリア  国民は福島原発事故を注視

  日本同様、地震の多い国イタリアでは、東日本大震災のニュースは切実に受け取る市民が多かった。とくに、福島の原発事故は、ショックと恐怖とともに受け止められている。チェルノブイリ爆発事故の翌年1987年、国民投票で脱原発を選択したイタリアだが、ベルルスコーニ首相の率いる現政権は、2008年に原発の建設再開を宣言。怒った市民や環境団体は署名運動で国民投票を実施させることになったが、政権は何かと理由をつけて国民投票の引き延ばしをはかっている。。(Semi.sotto.laneveより齋藤ゆかり、在イタリア) 
 
  だが、イタリア政府は、3月23日に原発運転再開をめぐる議論を一年間凍結するとは発表したものの、原発依存の政策そのものを見直そうとはしていない。 
 
  イタリアは、チェルノブイリ爆発事故の翌年1987年、国民投票で脱原発を選択。2000万人の有権者(投票者の7〜8割)が、原発を受け入れる地方自治体への援助金を廃止、国による建設地の決定を拒否する権利を地方自治体に認め、イタリア国営電力会社(ENEL)による国外原発建設への参入を不可能にした。 
 
  ところが、ベルルスコーニ首相の率いる現政権は、2008年に原発の建設再開を宣言。「緊急事態」の際にのみ可能な国会審議を通さない特別措置令を発し、2000万人の意思表示を覆す方向転換を図っている。 
 
  これに怒った市民や環境団体は、あらためて国民投票でそれを阻もうと署名を集めて認められ、もう一度国民投票が行われる運びになった。 
 
  しかし、政府は国民投票の実施日を、折しも5月下旬に行なわれる統一地方総選挙の機会には実施させず、6月12、13日に決定。再度投票させて投票率を下げ、有権者の過半数の参加ではじめて有効となる国民投票そのものの流産を狙っっているという。一つには、同時に行なわれる国民投票で、数々の訴訟を抱えたベルルスコーニ首相自身の免罪措置法案の廃止の是非も問われるからでもあるらしい。 
 
  このダブル投票で加算されるコストは、40億ユーロ(約4700億円)ともいわれ、教育、医療などの大幅予算カットが相次ぐ緊迫した財政難の中、非常識との非難を浴びている。 
 
  一方、近年、原子力への回帰を狙っていた推進派は、1990年代初頭に湾岸戦争に賛成する米国世論の形成にも貢献したコンサルタント会社ヒル・アンド・ノウルトン(Hill & Knowlton)社を起用、原発賛成の世論づくりのキャンペーンを大々的に展開。 
 
  また、国営電力会社(ENEL)も各都市で原発の安全性、クリーン、エコぶりをアピールするイベント活動に全力を注いできた。まさか、数ヵ月後に福島原発の事故が、その努力を水泡に帰してしまうだろうとは、予想していなかったにちがいないが。 
 
  はたして日本の惨事は、国民投票という選択の機会に恵まれたイタリアの市民たちを眼覚めさせてくれるだろうか。6月の国民投票のなりゆきが注目される。 
 
付記: 
 
1) 1987年、国民投票により事実上、イタリアの脱原発が決まったことで運転停止を強いられたのは、国内の四か所の原子力発電所のうち最も新しかった北部イタリア、ピアチェンツァ県カオルソの発電所一つ。他の3つの原発は、すでに老朽化していたため、建設中の原発への影響のほうが大きかった。 
 
2) 2010年のイタリア国内の電力消費総量 305.500GWh(うち輸入電力 45.761GWh) 
国内電力生産総量 298.208GWh 
 内訳 火力  219.749GWh (約74%) 
  水力     3.189GWh ( 1,5%) 
    風力・太陽光・地熱など 75.270GWh(約25%) 
(資料:Autorità per l'energia elettrica e il gas su dati GRTN - TERNA ) 
 
Semi.sotto.laneveより。 
資料センター≪雪の下の種≫は、平和・非暴力・環境保護および人権擁護に 取り組んでいるイタリアと日本の市民が、 情報交換や、経験を分かち合うことを通じ、それぞれの活動をより実り多きものに できるようにという願いから、2006年夏、イタリアのピサに設立された ボランティア組織です 
http://www.semisottolaneve.org/ 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。