2011年05月24日17時52分掲載  無料記事
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東日本大震災

20ミリシーベルト撤回を求めて福島の父母たちが文科省へ  

  「子どもたちは今も被ばくをしているんだ!20ミリシーベルトを撤回してくれ!」…文部科学省が福島の子どもたちの年間被ばく基準値を20ミリシーベルトとし、そこから割り出した学校校庭の安全値を毎時3.8マイクロシーベルトとしたことに対し5月23日、「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク(以下福島ネットワーク)」の父母たちが文科省に撤回を迫った。父母たちが交渉している間、文科省の外では全国から集まった400名を超える市民が文科省を取り囲み抗議をした。(上林裕子) 
 
  文科省と市民団体との交渉はこれで3度目。前回5月2日の交渉では「誰が20ミリシーベルトを基準と決めたのか」との問いに対し原子力安全委員会は「20ミリシーベルトを基準として認めたわけではない。できるだけ低減すべきと考えている」と、自らの責任を否定。文科省は毎時3.8マイクロシーベルト以下であれば問題はない」との考えを変えなかった。 
 
  今回の交渉には福島ネットワークの父母たち約60名が参加した。市民側は「年間20ミリシーベルト」を決めた責任者として高木義明文科相や政務三役に面会を求めたが、いずれも出席を拒否した。 
 
  交渉は屋根もない文科省の新庁舎の入り口前のエントランスで行われ、時間も30分と制限された。親たちは地面にシートを敷いて座り、前回の交渉役だった文科省科学技術・学術政策局渡辺格次長を待った。 
 
  福島ネットワークは渡辺次長に対し「文科省が年20ミリシーベルト、毎時3.8マイクロシーベルトを決めたことで、福島の子どもたちは、校庭によっては毎時数十〜数百マイクロシーベルトという恐ろしいほどの放射線を放つ場所で部活や体育をしている。汚染は日に日に進み、子どもたちは毎日学校で被ばくさせられている」「その原因は文科省が出した子ども20ミリシーベルトという基準である」として以下の被ばく低減策を直ちに行うことを要求した。 
 
(1)今すぐ20ミリシーベルト基準を撤回し、あらゆる被ばく低減策を国が行うこと 
(2)そのために、授業停止や学童疎開・避難が必要なところはちゅうちょなく行うこと。また自主的に避難や疎開を行うものへの経済的支援を 
(3)校庭削土をはじめとする除染作業、高放射線区域の隔離等を急ぐこと。その際集められた放射能は国と東電が引き取ること 
(4)マスク・手洗いの励行のほか、給食食材の配慮など、内部被ばく防護策等の徹底 
(5)これらにかかった費用は国が責任を持って負担し、東電に請求すること 
 
◆文科省「方針として年1ミリシーベルト目指す」と… 
 
  今回文科省渡辺次長は「文科省は20ミリシーベルトを浴びて良いと考えてはいない。低減していくべきと考えている」「20ミリシーベルトは暫定基準値なのでモニタリングし、夏休みまでには方向を出したい」と述べた。父母の中からは「文科省か3.8マイクロシーベルト以下であれば安全と言うから除染もせずに運動会をやった学校もある。撤回してほしい」「子どもはモルモットじゃないんだ。モニタリングをしている時期じゃない」「夏までは待てない。子どもたちは今も被ばくしているんだ。この場で撤回すると言ってほしい」との声が上がった。 
 
  交渉に立ち会っていた議員の1人、社民党党首の福島みずほ議員は「文科省も20ミリシーベルトを安全とは考えていないのであれば、自治体に対しその旨の通知を出すべき。通知を出さなければ地方の自治体は動けない」と20ミリシーベルトの撤回通知を出すことを求めた。 
 
  30分の交渉は1時間半に及んだ。その間に外で文科省を取り囲んでいた市民が交渉を取り巻き、20ミリシーベルトの撤回を迫った。 
 
  最終的に文科省は「20ミリシーベルトは基準ではなく、1ミリシーベルトを目指すのは文科省の方針である」「この件について政務三役に伝え早急に検討した結果を市民団体側に伝える」ことを認め、市民団体側は国の責任で放射能低減策をとることも含めて検討することを求めた。 
 
◆福島から交渉に参加した人たちの声 
 
  交渉後、参議院議員会館においてこの日のまとめを行った。福島ネットワーク代表の中手聖一さんは「私たちがやっているのは運動ではない。ただ、子どもたちを守りたいだけだ。だから私たちは決してあきらめない」と挨拶。福島から参加した父母からは、「文科省の対応にはがっかりしたが、全国の皆さんがこんなに応援してくれていることが分かった。ともに頑張りたい」と語っていた。 
 
  以下は参加した人たちの声 
 
・3歳の娘と妻は妻の実家に避難しているが娘の友達は福島に残っている。自分の子どもだけが疎開しているという罪悪感もある。残っている子どもたちも心配。福島ネットワークで「避難・疎開・保養」を担当している。各地のNGOなどが数日間、数人ずつでも保養を受け入れてくれると、市民側も参加しやすい。除染は国が責任もってやってほしい。 
 
・小5の子どもがいる。福島の中でも自治体によって差がある。二本松市は校庭の除染をし各教室にエアコンを入れたが福島市はエアコンも除染もお金がないのでやらないと言っている。 
・友人からのメッセージ。「子どもが3人いて参加することができない。事故を起こした後になぜ何もできないのか。避難については両親も含めて家族でも意見が違い、毎晩泣いている」 
 
・大変なことだと気付いたお母さんたちは避難したいと思っているが、夫は仕事で忙しく、祖父母は避難なんて大げさだという。正しい情報を共有することが必要。20ミリシーベルトを撤回しないとお母さんたちは動けない。 
 
・3.8マイクロシーベルトの基準が出たとたんに3.1マイクロシーベルトの息子の学校では外で部活をやっている。家では水や食事に気を使い、少しでも内部被ばくを避けるようにしているのに、国はなぜこんな基準を決めたのか。 


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