2011年06月16日00時07分掲載  無料記事
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「核時代を生きる」その2   原発が攻撃されたら

  高木仁三郎氏の「核時代を生きる〜生活思想としての反核〜」(講談社現代新書 1983年出版)の中に、原発が攻撃された場合の想定が描かれている。福島原発事故がなかったら、こうした想定も、よくわからないシチュエーションに思えただろう。しかし、福島第一原発の推移をみてきた我々には想像可能なシチュエーションになってしまった。 
 
■原子炉への攻撃 
 
  「ここでわれわれは当初にふれた問題、すなわちイスラエルのイラク原子炉爆撃のようなことが、運転中の原子炉に対して行われたらどうなるか、ということに立ち戻ろう。・・・ 
  原子力発電所の原子炉格納容器は、飛行機の墜落や内側からの爆発事故に備えて、壁が厚く強固につくられているから、攻撃に対しても強いという意見もある。しかし、米原子力委員会も認めているように、格納容器の堅固さもたかが知れているとみるべきだろう。 
  仮に、原子炉攻撃によって相手国に打撃を加えようと企てる側に立って考えれば、格納容器の堅固さはたいして重要ではない。要するに、原子炉をすでに述べた空だき(冷却水喪失)の状態に一定時間置けば、不可避的にメルトダウン状態が実現する。それは、二次冷却水系、電源、中央制御室などの格納容器外のシステムを破壊し、出現する危機状態に十分対処できないように混乱を持続させればそれで十分であろう。さらに、そのような放射性事故が戦時の混乱下で起これば、平時の事故以上に被害は大きくなろう。」 
 
  しかし、もっと恐ろしいシチュエーションは再処理工場への攻撃だという。再処理工場にある高レベル廃液タンクはほとんど無防備の状態だが、これがもし攻撃された場合、核攻撃と同様の惨状になる、と高木氏は想定した。 
 
■再処理工場への攻撃 
 
  「だが、もっと恐ろしいのは、再処理工場の高レベル廃液タンクへの攻撃である。このタンクは地上の原子力施設の中でももっとも強く放射能をためこんでいる施設であり、しかも外からの破壊に対しては、まったく無防備である。その放射能量は原子炉から取り出して後、時間がたっているのでだいぶ減衰しているが、それでも大型の再処理廃液タンクは1億キュリー以上の放射能を含み、それは何十億人もの人たちの致死量にあたるものである。 
  そんなタンクに攻撃が加えられ、破壊されたとしよう。そのときすでに一部の放射能の放出が始まり、現場は手のつけられない状態になる。爆撃によって高熱が発生するか、そうでなくても少し時間がたてば放射能自体の熱によって、廃液は過熱状態となり、沸騰して蒸発固化し、ついには溶融から揮発を開始する。すなわち放射能の全面放出である。 
  東海村の再処理工場のタンクが最大限の放射能貯蔵状態で攻撃を受け、右のような過程をだどったらどうなるか、ひとつの想定計算の結果を第10図に掲げておく。図は風が西日本を直撃する方向に吹いた場合を想定し、核爆発の場合のフォールアウトと同じように放出された放射能が風下地帯を襲うとした場合の、長期間屋外にとどまる人の被爆する線量を示している。・・・・結果として、何百万の命が失われ、何千万の人々が障害を発生させ、日本は全土的に回復不可能な汚染状態となろう。 
  つまり、再処理廃液タンクの破壊のようなことが起これば、少なくとも放射能に関する限り、核戦争なみの惨事をもたらすのである。この<核>は、しかし核兵器以上にわれわれの社会の内側にくいこみ、少なからぬ核兵器廃絶論者も、その存在を無視するか、「平和な」核といって歓迎すらしていないだろうか。」 
 
  本の中の図では、東海村から大阪向きに秒速5メートルの風を高木氏は仮定している。その場合、東海村から大阪までのざっと本州の真ん中地帯が300レムから1000レムの被爆線量をこうむる。400〜500レムで半数が死亡するとある。 
 
  再処理によって高レベル廃棄物を増やせば、それだけ危険の掛け金を積み上げていくことにもなる。 


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