2011年06月24日20時27分掲載  無料記事
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米国

肥満の研究  麻薬依存との関連

  アメリカで肥満を起こす脳の解明が進んでいる。最近、アメリカの研究者たちはドラッグ依存と肥満には共通する原因があるとネズミの実験から推測した。以下はアメリカ国立の麻薬依存に関する研究施設、NIDA(National Institute on Drug Abuse) のレポートである。 
http://www.nida.nih.gov/NIDA_notes/NNvol21N4/neuropeptide.html 
  レポートによると飢えや渇き、睡眠などの生命維持活動をつかさどる脳の視床下部の神経細胞からオレキシン(orexin、またはhypocretin ともいう)という「神経ペプチド」(神経が分泌するホルモン)が作られる。このオレキシンこそ麻薬依存や肥満を引き起こす張本人だという。 
 
  ネズミの実験ではオレキシンの機能を人工的に抑えた場合、ネズミの麻薬依存行動が大幅に減少した。研究者はオレキシンの減少がネズミの麻薬への渇望を減らしたと推測した。同時にオレキシンは飢餓や渇きを引き起こす原因物質であると研究者たちは考えている。そして、実際に視床下部のオレキシンを産出する神経細胞が活発化するとモルヒネ、コカイン、さらに甘い食べ物への嗜好が促進された。食欲とドラッグ依存、両者が緊密にオレキシンに結びついていることが確かめられたのである。 
 
  オレキシンがそもそも「依存」に関係があることが知られるようになったのは睡眠障害のナルコレプシーの患者がドラッグへの依存を起こしにくい事実からだった。なぜなのか?ナルコレプシー患者を調べたところ、オレキシンの産出が通常の人よりも少ないことがわかったのである。そこでオレキシンが活発に産出されれば依存が深まるという何らかの関係があるのではないか、と医療者たちは考えるようになったという。 
 
  脳の視床下部には2つのオレキシンを生み出す神経細胞群がある。片方は睡眠や覚醒をつかさどり、片方は食欲やドラッグへの渇望、報酬への渇望をつかさどる。これらのルートを研究し、オレキシンの量を適切に調整することができれば麻薬依存にも、肥満にもより効果的な治療法が開発できるのではないか、とアメリカの研究者たちは考えているようだ。オレキシンは快楽、快感という「報酬」を求める脳のシステム上で重要な機能を果たしている。この報酬を求める脳内システムにはもう一つの物質、ドーパミンも大きな役割を果たしている。 
 
  アメリカでは肥満との戦いがテロとの戦いと同時にますます重要になりつつある。その一方で薬物依存も広がっている。近年、この両者が脳の共通のプロセスから生じていることが突き止められてきた。その結果、これまでそれぞれ別々に分かれて研究してきた施設が統合されつつある。 
 
  今、アメリカでは「我慢」とか「根性」とは違ったアプローチで肥満や依存への治療が本格的に進められている。その動機は状況が改善されれば将来の医療費が大幅に軽減されることにある。 
 
■日本の研究者 
 
  以下の桜井氏の研究は睡眠・覚醒と肥満との関係を示唆している。オレキシンによる摂食行動の制御と、睡眠覚醒の制御との関係が興味深い。睡眠が肥満と重要なかかわりを持つことを示唆する。 
http://www.soc.nii.ac.jp/jasso/topics/pdf/topics8_34.pdf 


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