2011年07月11日08時45分掲載  無料記事
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アジア

マレーシアのデモ、逮捕者は1660人に 政府は催涙弾と放水車で鎮圧

  クリーンかつ公正な選挙を求める非政府組織の連合体「ブルシ2・0」が7月9日、クアラルンプール市内で数万人規模の街頭デモを実施した。警察はこれに対して催涙弾と放水車で応戦し、デモ指導者など1660人以上を逮捕するという強硬措置をとった。(クアラルンプール=和田等) 
 
 デモ実施直前にブルシ2・0のアムビガ議長は、自制を求めた国王の忠告を受け入れ、いったんは街頭デモを中止し、スタジアム内で集会を実施すると発表したが、当局がクアラルンプール市内スタジアムでの集会許可を出さなかったため、街頭デモの実施に踏み切った。「暴動などの混乱を避けるため」との理由で強硬措置をとり、その頑なな姿勢を印象づけたマレーシア政府に対して、ブルシ2・0と共同歩調をとった野党側は、その主張を喧伝する機会を得、得点をあげた格好になった。 
 
 2009年に政権を発足させたナジブ首相は、就任早々、野党の機関紙の発禁措置を解除するなど、ソフトな姿勢を印象づけた。その後も「政府転換計画」や経済面でのマレー人優遇政策の緩和などの政策を打ち出し、改革に向けて取り組む姿勢をアピール、支持率の上昇に結び付けてきた。 
 
 これに対して2008年の総選挙で躍進を遂げた野党側は、3党による野党連合を率いるアンワル元副首相を実質上の指導者とする民衆正義党の内紛と所属議員の離党続出、元副首相の同性愛の罪状による起訴、さらには元副首相と思しき人物と娼婦とのホテル内でのセックスシーンを撮影したビデオが公表されるなど、じわじわと窮地に追い込まれていった。 
 
 これを好機ととらえたナジブ首相は、8月1日から始まるラマダン(断食月)明けの早い時期にも前倒し解散・総選挙に打って出るのではとの憶測が高まっていた。 
 
 不利な状況にあった野党側がそれを打開する一策として計画したのが、このたびの街頭デモだ。ブルシ2・0の前身組織が2007年に5万人規模の街頭デモを実施した後、その勢いに乗って野党側は08年3月に実施された総選挙で、史上最多の82議席を獲得、歴代続いてきた与党の3分の2多数割れに追い込むという躍進を遂げた。 
 
 ナジブ首相はこの再現を恐れたのである。平和的な集会実施に向けた話し合いを求めたブルシ2・0のアムビガ議長の要請を拒否しつづけ、結局は街頭デモを力で抑え込むという強硬措置をとったことで、政権発足当時に醸成したソフトなイメージは雲霧消散、国民はその「強面ぶり」に批判的な目を向けることになった。 
 
 一方で、与党側に有利になっている選挙区の線引き(ゲリマンダー)、票の買収、選挙戦機関中の主流メディアの与党側に偏った報道など選挙システムの改革を訴えた野党側は、このたびの騒動を通じてその主張を幅広い層に浸透させるという当初目的を果たすことができた。劣勢挽回に向けての布石も打てた。 
 
 このたびの街頭デモをめぐる一連の動きの中でナジブ首相が年内総選挙に踏切るのがむずかしくなったとの観測も出てきた。しかし、総選挙の実施時期を先送りすれば、野党陣営にさらに態勢立て直しの時間を与えることになる。首相はジレンマに立たされたといってもいいだろう。 


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