2011年07月12日23時10分掲載  無料記事
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社会

企業スポンサーと研究結果の修正

  福島原発事故以来、原発推進派の「御用学者」が問題視されている。しかし、これは核物理学や原子力工学だけのことだろうか。2004年に日本で国立大学が法人化された。公的資金の削減の中で、研究者たちは互いに競争を強いられ、企業スポンサーの研究資金に依存を深めていると聞く。これは産学共同という言葉でもてはやされたもので、市場が求める研究開発こそ時代のニーズに合っているというのである。 
 
  さらに、こうした現象は日本だけではなかった。 
 
  ジェフリー・M・スミス(Jeffrey M.Smith)が書いた「偽りの種子〜遺伝子組み換え食品をめぐるアメリカの嘘と謀略〜」(家の光協会)は企業スポンサーのために研究者がしばしばデータを修正していることを指摘している。 
 
  「遺伝子組み換え食品の安全性についての研究が、これほど不十分で、危険性はこれほど甚大なのに、立派な研究機関や科学的調査委員会、学術雑誌、はては政府機関までもが、なぜ遺伝子組み換え食品を安全であると口をそろえて擁護するのだろうか。市民の身を守る盾として利用できるかもしれない証拠を、なぜあわてて糾弾するのだろう?・・・ 
   公的な研究費用の不足から、アメリカやヨーロッパの研究者は次々と企業スポンサーに頼るようになり、そのため、研究のみならずその結果までも企業に受け入れられるものでなければならなくなってきた。たとえば、イギリスでトップクラスの大学研究施設では、研究費用全体の80〜90パーセントを私的資金へ依存していることがままあるという。けれども企業の後援に頼ることは、見えない付けとなって返ってくるのである。 
  イギリスで、政府または最近民営化された研究所のいずれかに勤務している研究者500人に対し行われた調査によると、そのうち約30パーセントがスポンサーである依頼主によって、研究結果を修正するように頼まれたことがあるという。」 
 
  大学の研究費が削減され、企業との共同研究が増えればそこでは企業の意向がより反映するだろう。問題は原子力研究にとどまることではないことをこのことは示唆している。大学の研究をどうサポートするか、という問題は今や我々の健康や安全をも左右する問題になっている。スミスはさらにこんなことも指摘している。 
 
  「アメリカでは10年足らずのうちに、企業による研究費の助成が1985年の8億5000万ドルから42億5000万ドルへと跳ね上がった。アメリカの政治評論誌「アトランティック・マンスリー」によると、「助成金は、ますます罠のように紐をくくりつけてやってくるようになってしまった。(中略)いまや高等教育機関において、企業は研究のスポンサーをするだけでなく、研究が行われる条件までしばしば自分たちで管理する」のだという。 
  カリフォルニア大学バークリー校を例にとろう。バイオ企業ノバルティス社は1998年11月、研究のため同大学の植物および微生物学部に2500万ドルを助成した。その対価として、ノバルティス社は同学部の研究結果のうちの約3分の1に対し、そのライセンスについて最初に交渉できる権利を獲得した。これにはノバルティス社が資金援助した研究だけでなく、連邦政府や州の資金援助による研究も含まれる。ノバルティス社はまた、同学部の研究発表を最長で4カ月先まで延ばせる権利も獲得した。これによりノバルティス社は特許出願のための時間を稼ぐことができ、自社の独占情報の活用が可能になる。」 
 
  アトランティック・マンスリーによれば教授の多くはスポンサー企業の株を所有したり、委員会に名を連ねていたり、企業から与えられた地位についていたりする。さらに大学そのものも研究資金を提供する企業に投資をしているというのである。 
 
■「偽りの種子〜遺伝子組み換え食品をめぐるアメリカの嘘と謀略」(野村有美子・丸田素子訳 家の光協会) 
  著者のジェフリー・M・スミス氏は学校給食から遺伝子組み換え食品を排除する法案および、遺伝子組み換え作物の他家受粉による被害から農家を守る法案を提案した。その後、GMO検知研究所のマーケティング担当副社長を務める。インスティテュート・フォー・リスポンシブル・テクノロジーの創設者であり、所長をつとめる。 
 
■インスティテュート・フォー・リスポンシブル・テクノロジー 
(Institute for Responsible Technology 略してIRT) 
  サイトによればGMOの危険性に関する専門家・ジェフリー・スミス氏が2003年に設立した機関である。世界6大陸、30か国で活動している。GMO(遺伝子組み換え作物)がもたらす健康リスクについて情報を公開することを目的としている。メディア関係者やデザイナー、資金集めの専門家なども協力している。 
http://www.responsibletechnology.org/ 
■番組「デモクラシー・ナウ」にジェフリー・スミス氏が登場 
  ウィキリークスによって公開された米外交公電には欧州が米モンサント社製の遺伝子組み換え種子を使わない方針に対してブッシュ政権が報復策を練り上げたことが記されていた。 
http://www.democracynow.org/2010/12/23/wikileaks_cables_reveal_us_sought_to 


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