2011年07月20日16時57分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201107201657413

コラム

英字新聞を読む   村上良太

  ニューヨークタイムズなどの記事を紹介するとき、僕は日刊ベリタの読者を自分より英語ができる人と想定しながら書いてきた。もともとこの新聞の創刊に携わった方の中には新聞社の外信部にいた人もいる。僕よりはるかに語学力があるはずだ。そうした人々が少なくとも読者の一定人数を占めているのである。だから、英文記事のリンクも遠慮なく張ることにしている。自分の拙い訳文よりも原文に目を通された方が早かろうからだ。 
 
  ただ、一方で英語が苦手とか、英語が嫌い、という人も読者の中にいるかもしれない。そういう人にもぜひ英字新聞を一度手に取って読んで欲しい、と思っている。ちょっとしたコツをつかめば英字新聞は誰にでも読めるからだ。そこでおこがましいのだがあえて僕の場合を例に書いてみようと思う。これが必ずしもベストではないだろうが、一例として、である。 
 
  僕は今もって英語が流暢にしゃべれないが、学生時代はもっと苦手だった。そもそも英語に偏見を持っていた。英語をやるのは女子、という思い込みが当時の僕にはあったのだ。お茶、生け花、英語(シェークスピア)というのは花嫁修業だと思っていたのである。そんな意識が変わったきっかけは大学1年の一般教養の英語(リーダー)でトマス・ピンチョンを読まされたことだった。「低地」や「スローラーナー」などの短編が収録されたテキストである。ピンチョンは今や日本でも世界的作家として認識されているが、その頃僕は名前を聞いたこともなかった。中国人かな・・・と思ったくらいだ。しかし、予習で読んでいるうちに1ページ目からなんだか変わった世界だなぁ・・・と興味を持つようになった。ゴミの山を男たちが徘徊する話なのである。 
 
  英語の先生は米文学の専門家で、学生が馬鹿だからといって容赦しない人だった。予習をしないで講義に出て指名されたら、立ったまま汗をたっぷりかかされることになる。そうして汗をかきながら講義に出るうちに辞書を引くことがいつしか習慣になっていた。今思えば先生は学生のレベルに合わせた幼稚な読み物ではなく、米文学の最前線をテキストに選んでくれたのではなかったろうか。先生のそんな厳しさに僕は感銘を受けた。今まで英語をなめていたことを反省させられた。 
 
  英語に目を開かれた僕らに、先生は英語学習の意外なコツを教えてくれた。英語は難しい複雑な構文を頭に詰め込むより、中学の教科書レベルの易しく短い文をたくさん暗記することの方がよほど大切だ、というのである。どんな長く絡み合ったテキストでも、基本的には短い文が組み合わさったものだからだ。中学の教科書がなければ中学や高校の英文法の参考書でもよいのだろうが、そこに例文として出てくる短文を繰り返し口に出して頭に叩き込めば、あとは単語を入れ替えるだけで、いくらでも応用できる。使えない複雑な文よりもすぐにも使える短文を数多く身に着けた方がよい。つまり、頭の使い方を替えよ、というアドバイスだった。 
 
  僕の場合、高校で使っていた「総解英文法」という5cm近い厚さの参考書が残っていたので、さっそくそれを持って夏休みに北米一周旅行をした。グレイハウンドバスの1カ月周遊券を買えば1カ月間、バスは乗り放題である。これを2か月分買った。バスで移動中に例文を暗記し本当に使えるか、隣の乗客に試してみた。いろんな人々とバスで出会った。彼らはアメリカの庶民だ。旅を利用した英語学習の良さは覚えれば覚えるほど異国の旅が楽になることである。馬鹿の一つ覚えのように2か月も繰り返していると総解英文法の例文はどれでもぱっと反復できるようになった。旅から帰って以来、およそ25年間英字新聞を読み続けている。英字新聞を読むのに他にやらなければならないことはない。 
 
  フランス語やスペイン語の語学の参考書もたいがい中学の教科書レベルの平易な例文が並んでいる。その先の読解は語学の問題というより国語力や論理的思考力の問題だと思うのである。だから一定の易しい基本文を頭に叩き込んだら、あとは新聞でも小説でも原文を読みながらトレーニングすればいいのである。学生時代に難しい構文こそ英語と思い込まされ、実戦で使ってみる前に英語が大嫌いになってしまう学生が多いのではないだろうか。一定の文法と単語をマスターしたら早く最前線の面白さを味わうべきだ。そもそも新聞の英語は平易に書かれており、小説や詩よりもはるかに容易に読めるのである。 
 
  そういうわけで後は新聞を買ってきて読むだけだが、最初は写真のキャプションだけ読む、漫画だけ読む、記事の見出しだけ読むといったことでもいいと思う。それを続けていればやがてはどんな記事でも読めるようになるはずだ。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。