2011年08月11日12時00分掲載  無料記事
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反戦・平和

自衛隊任務の膨張とソマリア問題(その2) 〜海外に初の自衛隊”軍事”基地開設〜 池住義憲

  いま、大震災や原発事故の陰に隠れた形で、自衛隊活動・自衛隊任務の「膨張・拡大」がひそかに進んでいます。ソマリア問題 
とも重ね合わせながら、その動きを追ってみました。<その1>では(1)三つの危険な動き、(2)ソマリアの現状、(3)ソマリア沖の海賊問題、について述べました。以下、<その2>です。 
 
4.日本政府の海賊対処 
 
  従来、日本の領海外で行われる自衛隊の警備活動は、自衛隊法82条に基づいた海上警備行動でした。護衛の対象は、日本船籍の船か日本企業が運航する外国船または日本人が乗船している船に限られ、外国船を護衛することはできませんでした。武器使用も憲法9条との関係から、警告射撃、正当防衛、緊急避難、武器防護のためだけに限定されていました。 
 
  ところが、2009年1月、政府(麻生政権)はアフリカ・ソマリア沖の海賊対策のためにプロジェクトチームを発足させ、海賊対処法制定に向けた準備を開始します。政府は海賊対処法成立を待たずに、「当面の応急措置」として現行法(自衛隊法82条)に基づき、海上自衛隊の護衛艦2隻派遣を閣議決定。同年3月から、護衛艦とともにP3C哨戒機2機も派遣して空からの監視活動等を開始しました。 
 
  そもそも自衛隊の任務とは、(1)直接・間接侵略からの日本の防衛、(2)公共の秩序の維持、(3)周辺事態における安全確保活動、(4)国連平和維持活動(PKO)に対する寄与および国際社会の平和と安全の維持に資する活動の四つです(自衛隊法3条)。(3)と(4)の任務は「別に法律で定める」となっています。法が未成立の段階で護衛艦派遣およびP3C哨戒機による監視活動などの海上警備行動は、これら(1)〜(4)のいずれにも該当しません。法律(自衛隊法)違反です。 
 
  海賊対処法は2009年6月に成立し、同年7月24日から施行されました。ソマリア沖への派遣部隊の根拠法は、自衛隊法82条の海上警備行動から海賊対処法に変わりました。海賊対処法では、護衛の対象が日本関係船舶だけでなく他国船舶にも拡大されました。武器使用についても、海賊船が民間船舶に著しく接近し、停船命令に従わない場合、他に手段がなければ船舶停止のための船体射撃もできるようになりました。ソマリアに隣接するジプチ共和国のジプチ国際空港滑走路南側にある米軍基地を無償で借り、そこを拠点として護衛活動・監視活動を続けました。 
 
  武器使用の拡大は、大変重要な問題です。仮に相手が「国または国に準ずる組織」でなく海賊などの犯罪組織であったとしても、「組織的な武器使用」がなされる限り、武力の行使となります。こうした事態、行為は、武力の行使を禁止した憲法9条1項違反となります。 
 
  その後2009年9月に、政権交代。民主党中心政権に替わった後も、政府(鳩山政権)は米国やフランスなど各国の派遣部隊と協力して活動を続けます。2隻の護衛艦で日本関係船舶以外の船舶の護衛と、2機の哨戒機により空からの監視活動です。陸上自衛隊の中央即応連隊からなる統合部隊の派兵も続けられ、東日本大震災後も約550人規模の態勢を維持しています。 
 
  2009年6月の海賊対処法成立時、当時野党であった民主党は、国会の事前承認を主張して同法案採決では反対しました。しかし政権交代後、「国際貢献を重視する」として政策を転換してしまいました。国会で十分な議論をすることなしに、また、国民的議論をすることなしに。 
 
5.ジプチに海外初の海外拠点(軍事基地) 
 
  去る6月1日、日本政府は海上監視活動を行う哨戒機の拠点として、ジプチに本格的な活動拠点(軍事基地)を開設。7月7日には開所式が行なわれました。自衛隊にとって初めての本格的な海外拠点(軍事基地)です。アフリカ・ソマリア沖アデン湾での海賊対策を強化するためとし、派遣の長期化を見越しての判断です。その翌日(7月8日)、政府は海上自衛隊による海賊対処活動の1年間延長を決定。商船などを護衛する護衛艦2隻と、上空から警戒監視に当たるP3C哨戒機2機、人員約580人の派遣規模を維持するとしました。 
 
  拠点は、ジプチ国際空港滑走路の北西側約12ヘクタールをジプチ政府から有償で借りて建設。建設費は約48億円。3機分の駐機場、格納庫、電源室等関連施設12棟、食堂、宿舎7棟などの恒久施設を整備し、運動ができる体育館や日本式浴場もあります。恒久的な事実上の”海外軍事基地”です。これは、憲法に関わる重大な問題です。しかし、ここでも国会での十分な議論と国民への情報開示・説明はほとんどなされませんでした。 
 
  ジプチはアデン湾に面した港湾を持つ海洋戦略上の要衝です。旧フランス領ソマリアであった経緯から、ジプチ独立後もフランス軍は陸海空軍を駐留させ、ジプチ港には海軍基地を持っています。米国は、2001年の「911事件」と2003年3月のイラク戦争開戦を機に、フランスをはるかに上回る最大規模の海軍基地をジプチに建設。現在は対テロ戦争と海賊対策両方の任務をもつ第150合同任務部隊(CJTF-HOA)の重要な拠点となっています。日本の基地は、フランス、米国に次いで三番目です。 
 
6.「集団的自衛権」の行使にあたる 
 
  第150合同任務部隊の実質的な作戦指揮を執っているのは米海軍です。合同任務部隊の主要任務は、”テロリスト”に対する海上安全活動と海上阻止活動。ソマリア沖とその近海では、貧困など経済的理由からの海賊という行為と、政治的意図をもったテロという行為の二つが考えられますが、米国は海賊対策よりも「対テロ対策」を重視して行動しています。 
 
  こうした合同任務部隊に日本は、護衛艦「さみだれ」「みょうこう」や補給艦「とわだ」などが”協力”し、”参加”しています。P3C哨戒機による空からの監視活動で得た情報・データは他国の軍隊と共有されています。しかし、これは大きな問題です。自衛隊が米国と共有したその情報は、米国の「対テロ対策」「対テロ戦争」に活かされることは全く無いと言えるのか。合同任務部隊と”協力”して海賊対策という名のもとで行なわれる活動が、米国の「テロリストに対する海上安全活動」とは全く無関係と言えるのか。 
 
  もしそうでなければ、こうした一連の行為そのものは集団的自衛権の行使となり、米国の対テロ戦争共同推進者となります。他国(米国)の武力行使との一体化になります。2008年4月17日に言い渡された名古屋高裁による「イラク派兵違憲判決」(同年5月2日確定)は、日本が直接「武力行使」を行なわないとしても、他国との共同軍事行動に対する後方支援などを行なった場合は憲法9条1項が禁止する「武力の行使」に該当し、集団的自衛権の行使に踏み込むものである、と判断し指摘しています。この点から、ソマリアへの自衛隊派兵は憲法違反であると言うことができます。 
 
  第1項で述べた政権与党民主党と野党自民党による「PKO五原則の見直し」、「武器使用権限の拡大」、「武器輸出三原則の見直し」、「自衛隊任務の膨張」、「派兵恒久法制定の動き」・・・。これらはみな、米国との同盟関係のなかでこのような役割を日本が行なえるようにしようとする実に危険な動きだと私は思います。 
 
6.おわりに:日本の役割 
 
  軍事力による海賊対策は、一時的に抑え込む対処療法で、なにも解決しない。海賊を生み出している根本要因への対応なくしては、問題は解決しない。第2項「ソマリアの現状」で見たとおり、1991年以降、氏族間の紛争、混乱が後を絶たない内戦状態で経済は壊滅し、中央政府が存在しない破綻国家状態が続いています。 
 
  また、無政府状態が続くなかで沿岸警備隊は消滅し、ソマリア沖では欧米に日本を加えた大型の外国船による大量違法漁獲が行われ、加えて、化学物質や放射性廃棄物などの廃棄により、沿岸部の漁民の仕事が奪われ、生計が立てられない状態にもなっているとの指摘もあります。 
 
  そうしたソマリア国内の壊滅状態が、海賊行為を生み出させています。「海」で起こっている問題(海賊問題)は「陸」の問題。このように原因を考えれば、単に取り締まりや軍事力による殲滅などによって問題が解決しないことは明らかです。 
 
  私たちは、海賊対処・海賊対策を「口実」にしたりする動きや、海賊対処・海賊対策と対テロ戦争を抱き合わせる「戦略」に対して、正しく読み解く目を持つ必要があります。 
 
  9条を持つ日本がなすべきことは、憲法の平和主義に基づき、非軍事による徹底した人道支援協力、経済支援協力、技術支援協力を行うことです。ソマリアの経済、政治、人道、安全面での不安定要因に対処する包括的且つ長期的視野にたった非軍事的対応こそが、ソマリアの混乱終結と復興をもたらし、海賊問題を解決へと導くことに繋がると私は思います。真の「国際貢献」とは、そういうものです。 
 
(完) 


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