2011年08月19日15時31分掲載  無料記事
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コラム

原発とサッカー     村上良太

  7月31日付の朝日新聞は興味深い記事を掲載していた。「原発攻撃 極秘に予測」という見出しである。1984年に外務省が日本国内の原発が攻撃を受けた場合の被害予測をしていたというものだ。シナリオは大きく分けて3つあり、〜甘展餐喙此´格納容器破壊 8胸厦Г猟樟槐鵬である。具体的な被害もシナリオごとに試算しており、ばらつきはあるが数万人が攻撃から間もなく死亡する、という予測だった。 
 
  記事によればこの時期に外務省が試算を財団法人「日本国際問題研究所」に委託したのは81年にイスラエルがイラクの研究用原子炉施設を空爆したことに端を発する。欧米諸国ではこうした原発テロを想定した研究や訓練を実践しているという。 
 
  しかし、外務省はこの結果を公表したら反原発運動に力を与える、と考え部外秘にしたうえで50部限定で省内のみで配布し、首相官邸にも原子力委員会にも提出せず、さらに原発施設の安全強化策にもつなげなかった。 
 
  この記事を思い出したのは、河村優監修・清水英斗著「イタリアに学ぶ ストライカー練習メニュー100」(池田書店)を読んでいた時だった。サッカーの日本代表がワールドカップでいかに戦うか。勝ち進むために必要なのは点を取ることであり、ストライカーを育成する必要がある。ということから、多くのストライカーを輩出しているイタリアのサッカーに学べ、というコンセプトで書かれている。 
 
  そこで著者は「テストマッチが日本をダメにする」と指摘している。イタリアでは公式のリーグ戦が1年を通じて毎週組まれていることにより日ごろから真剣勝負を繰り返しているのに対して日本では一部を除けば大半が消化するだけの練習試合を毎週している、というのである。僕は日本のサッカー界に詳しいわけではないのでサッカー界の詳細は不明だが、著者によれば真剣勝負の欠如が勝つことへの執念を失わせ、トップレベルに参画するうえでの障壁になっているというのである。 
 
  たとえば「ボールポゼッション率を上げる」という課題に日本のチームが取り組んだとしても、ただポゼッション率が上がっても試合に勝てなければ意味がない、と著者は言う。その技術を磨くのは試合に勝つと言う目標のための1つの要素に過ぎないのである。そこが試合に勝つことに執念を賭けてくるイタリア選手との差になっているという。常に勝つことを意識してトレーニングを組み立てなくては強くなれないというのである。だから、勝敗にこだわらないテストマッチばかり繰り返していたら、勝つための本物の技術が磨かれないし、強くもなれないというのである。 
 
  話を原発攻撃に戻すと、外務省はいったい何のためにこのような予測をしたのか?ということである。調査を委託するにあたっては一定の予算も計上しただろう。しかし、その結果は黙殺封印されていたのである。外務省にとってサッカーの勝利に匹敵するものは、日本の平和と安全を守ることではないだろうか。原発を推進するか、しないかということが目的ではないはずである。だから調査をしながら、その結果を生かせなかったのでは勝敗にこだわらないテストマッチと言われても仕方がないだろう。ちなみにイタリアは日本の原発事故を見て、ただちに原発全廃に向けて動き出した。 


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