2011年09月08日00時15分掲載  無料記事
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アジア

【ブ−タンに遊び、GNH・開発を考える】その2  多様な赤米食文化、しかし赤米以外はインドからの輸入米 近藤康男

  散在・孤立した各地域を結ぶのは、今は車である。多分地域内・村内は徒歩。しかし、大雑把に言えば、車の通れるのは“両側1.5車線”の東西横断道路一本(一部未舗装)+南北数本の支線。従って2週間弱のブ−タン横断の旅も同じ道路を往復、宿泊する街を往路と復路で少し変えるだけの旅だった。しかも雨季には毎日のように土砂崩れ・修復工事・道路封鎖・通航制限が繰り返されるのである。山側は道路拡張と土砂崩れで山肌がむき出し、反対側は数百mの絶壁、四輪駆動で時速30kmの雲上・霧中の旅となった。 
 
  おかげで距離を稼ぐために長時間ドライブをし、夕食の後はホテルの部屋で同行のJICAボランティア氏とブ−タンの行く末を繰り返し議論する。あるいは、各地の拠点都市にある無数の寺院、ゾンと言われるブ−タン特有の行政府、兼宗教拠点、兼(往時の)砦を訪ね歩く旅となる。 
 
  ブ−タンは、国の形を取ってからも群雄割拠の内戦が続き、平和統一国家となったのは1907年である。絶対権力が長期間存在しない歴史、遊牧民の多い国、人口集積のない国、などではうまい料理は期待できないのだが、ブ−タンもこの例外ではないようだ。上述のJICAボランティア氏の招待ビザのおかげで外国人旅行者に課せられる240ドル/日の払い込みをせずに、ホテルは旅行者料金マイナスJICA割引、その他は地元料金で、食事はホテル以外に村・街・街道の食堂でとる旅だった。 
 
  料理の中心は唐辛子とチ−ズを基本とした煮込みエマ・ダツィ(エマ=唐辛子・ダツィ=チ−ズ⇒ブ−タン人の大好物!)、この中に固い干し肉(牛中心で、次が鶏肉、豚の脂身か?)を加えたり、キノコを加えたり、じゃがいもを加えたり、あるいは何も加えなかったり、である。プラス米のご飯と、エゼというコテ−ジチ−ズ入りサラダ様の野菜の付け合わせ。赤米の種類の多様さには驚かされた。そして彼らの米を食べる量は並大抵ではない。しかし赤米以外はインドからの輸入米が主流である。日本人には松茸タップリのスープが有り難い。チ−ズの使い方は参考に出来そうである。 
 
  なかなかユニ−クなブ−タンの旅であったが、落ち着いた社会の雰囲気、人々の穏やかな顔・仕草、落ち着いた礼儀正しさ、そして何よりも子供の礼儀正しさとピュアさと恥じらいを感じさせる表情は感動である。集落に必ずある寺院に参拝している老人の表情も美しい。小賢しさ、大人を気取る、突っ張った、攻撃的な顔を一つも思い浮かべられないのである。英語による教育のおかげもあり、顔を合わせた時には老人でも挨拶の英語程度は通じた感じがするし、子供はほぼ必ず、足を止めつつ目を見て、時にはsirを付けて挨拶を返したりする。 
 
  そして、民族衣装のゴ(男)、キラ(女)が広く着られていることも珍しい。女性の民族衣装が普段着として首都でもそこそこ見られるということで、これまでトップに挙げていた中米グァテマラを大きく上回る普及・定着度であった。公式・宗教的な場・場面での義務付けに加え、学校の制服がゴとキラとされている点も普及・定着度の高さにつながっているのだろう。特に学校の制服、というのは伝統の継承という点で素晴らしい着眼でもある。 
 
  また、独特の仏教のあり様も興味を惹かれる点である。イスラム圏とは微妙に異なるものの、個人の心象や暮らしの中に深く定着していることは驚くほどであるし、最初の2日間付き合ったガイド氏が繰り返し祈りと瞑想、そして他者への思いやりの重要性を語ったことも印象的だった。GNHという概念がかなりの程度国民の心に届いていること、その概念を海外にも発信したことに誇りを持っているように感じられたことなどは、この国の仏教のあり様にも関連しているのではないだろうか? 
 
しかしそれ以上に不思議に感じたのは、世俗と聖の不思議な関係である。チベットのように世俗権力と宗教権力とが一人の人格に体現されているのとは少し異なり、それぞれ別々の権力(権威)としてあると同時に、世俗の権力者(権威)も悟りを通じて宗教的権威を持つ存在とされ、更には英語でGODと表現されているようである。何となく聖と世俗との間に微妙に重なる行ったり来たりする領域があるようで、この点は一神教や他の国の仏教の伝統とは異なるように感じられた。 
 
  快適さ・贅沢を味わう旅は適わないものの、ユッタリとした時間の流れ、穏やかさをしみじみと感じられる極上の旅であることは確かだろう。唯一残念だったのは、雨季であったため、星空を見られなかったことだろうか。 


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