2011年09月22日11時57分掲載  無料記事
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核・原子力

【たんぽぽ舎発】連載:東京電力による業務上過失死傷罪を告発する その5  槌田 敦

  槌田敦さん(物理学者。核開発に反対する会代表)が、福島原発事故の「解明と分析」をすすめられて、近日、本を出される。そのうちの第3章「東京電力による業務上過失致死傷罪」については展開されている。連載の形で紹介している。今回は第5回になる。(たんぽぽ舎「原発と震災情報」177) 
 
(11)【2−6号機、残留熟除去系から蒸気凝縮系を削除した罪、勝俣恒久】 
 
  2−6号横には非常用復水器はついていない。その代わりに、これらの原子炉には残留熟除去系があり、これに非常用復水器の機能のある蒸気溌縮系が付属していた。これを東京電力は削除した。 
  その理由は、これと同じ構造の浜岡原発で、その配管に水素が潜まり、水素爆発する事故(2001年)があったからである。この問題も前記同様に水素逃し弁を付ければ解決する問題であったが、その改良を怠り、非常用復水器の機能を持つ蒸気凝縮系を削除してしまった。 
  この削除という方法は使わないというだけのもので、これ以上安上がりの変更はなく、重大な過失である。 
 
(12)【1号機で高圧注水系を使用せず、燃料崩壊に導いた罪、吉田昌郎】 
 
  スリーマイル島事故の教訓として、原子炉を隔離する重大事故の場合、ECCSを切ってはいけないことになっていた。東京電力発行の『原子力発電の原状(2008年)』P142には、スリーマイル事故について「運転員がECCS(高圧注水系)を停止したり絞ったりするなどの誤った操作」と記されている。 
  1号横において、非常用復水器の不調にも拘わらず、吉田呂郎所長はECCS高圧注水系を使用しなかったのである。そのため、原子炉を冷却できず、津波が来る前に原子炉の水は失われていた。 
  津波よる高圧注水系の電源喪失の後、蓄電池に電渡を切り替えて、圧力抑制量の水を原子炉に注入していれば、地震発生が3時、午後6時には放射能漏れ、午後9時には原子炉建屋への入室禁止という急連な燃料崩壊にはならなかったと思われる。 
  ECCS非常用復水器が不調だったのに、もう一つのECCS高圧注水横を使用しなかったことは重大な過失である。 
 
(13)【2号横でも高圧注水系を使用せず、海水注水で格納容器を破裂させた罪、吉田呂郎】 
 
  2号機では、ECCSとして隔離時冷却系が存在する。この装置は、原子炉と格納容器の圧力差を利用して発電し、その電力で格納容器(圧力抑制室)の水を原子炉に供給するもので、外部電源不要のECCSである。 
  2号横では、原子炉配管の破断はなく、原子炉の冷却水は維持されていたから、隔離時冷却系だけで、事故後3日間この原子炉は維持された。つまり、この間は電源喪失で原子炉内部が計測できていないとはいえ、事実上ECCS高圧注水系を使用する必要はなかった。 
  このようにして、事故発生後3日間、原子炉を維持できたのであるが、 3月14日11時、隣の3号横で核爆発があった。この衝撃で、2号横の配管が損傷し、原子炉の水は抜け出し、原子炉の圧力と水位は急降下した。隔離時冷却系では冷却水を補充することができないから、これを目的とする高圧往水系の出番である。 
  ところで、吉田呂郎所長は何故か原子炉への冷却水の供給にこの高圧注水系を使用せず、消防ポンプによる海水の注入を決めた。冷却水は格納容器とタービン建屋の復水器に大量に存在するから、海水など使用する必要はまったくなかったのである。 
  しかも、原子炉の圧力がまだ高すぎて消防ポンプでは海水が入らない。そこで逃し安全弁を開いて(ベントという)、圧力を下げ海水注入した。この逃し安全弁を開いたことで大量の放射能を環境に放出することになった。高圧注水系ならば、圧力が高くても、原子炉に水を供給できるのにこれを使用せず、放射能を大量放出結 
果となった。 
  そして、この圧力を下げたことで、原子炉の空焚きがさらに進み、燃料の完全崩壊となり、原子炉内部での水蒸気爆発を換り返して原子炉の底を抜くことになり、格納容器の圧力を高めて格納容器を枚裂させ、逃し安全弁の開放に加えて、格納容器からも放射能が環境に放出されることになった。 
  2号機で、配管破断後、高圧注水系により冷却水を補充していれば、事故は進展しなかったのであるから、重大な過失である。 


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