2011年09月25日18時45分掲載  無料記事
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核・原子力

ホールボディーカウンターの数値を手に、健康相談会に訪れる福島市民

  福島市内に拠点を置く「市民放射能測定所(CRSM)」と「子供もたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」が9月23日、「子ども健康相談会」を福島市内で開催した。6月、7月に続き、今回で4回目となる相談会には、40家族100名(うち、子ども60名)が訪れ、ボランティアで参加した医師ら13名に、健康や生活のアドバイスを受けた。その様子を取材した。(和田秀子) 
 
■ホールボディーカウンターの数値を医師に相談 
 
「数値は思ったより低かったけど、今後子どもに影響が出るんじゃないかと思うと心配で……。水素爆発の直後、水をもらうために3歳の娘を連れて何時間も外で並んでいたんです。4月には、娘は就寝中に大量の鼻血を出しましたし、最近では“じんましん”ができやすくなっています」そう話してくれたのは、福島市内に住む斎藤香さん(仮名・31歳)。この日は、3歳になる理央ちゃんと一緒に健康相談会を訪れた。 
 
 香さんが言う“数値”とは、ホールボディーカウンターの数値のことだ。「市民放射能測定所」は今年8月、「未来の福島こども基金」と「DAYS放射能測定器支援基金」からホールボディーカウンターを寄贈され、今回の健康相談会から導入した。内部被ばく量がすべて分かるものではないというが、現時点で体内に残留しているセシウム137の量を計測することはできるため、一定の目安にはなるとのこと。 
 
 幸いなことに、理央ちゃんのセシウム137の数値は機械の検出限界である300ベクレルを下回っており、誤差値の範囲内だった。 
ただ、だからと言って「安心」というわけではないようだ。理央ちゃんを担当した医師によると、「少量の内部被ばくについてのデータがないので、確かな答えはない。今後も継続して計測し、ずっと検出されなければ心配はないが……」とのことだ。 
 とにかく今できることといえば、「免疫力を上げるためにバランスの良い食事をとること、除染された地区で体をのびのび動かすこと」だという。 
 
 香さんは事故以来、理央ちゃんを外で遊ばせていない。「車で公園を通りかかると、『ママ、ブランコに乗りたい』って言われるんです。でも、『ごめんね、今は外で遊べないのよ」と説明しています」と、香さん。もうひとり子どもを生みたいが、「現状がいつまで続くのか、もし生まれてくる子どもに影響が出たら」と思うと、踏み切れないでいるという。 
 将来のことを尋ねると、「できれば避難したいけど、仕事のことを考えると難しい。国から避難命令を出してほしいですね。それが一番の願いです」と話してくれた。 
 
 その他にも相談会場では、「甲状腺の検査を受けられる病院を紹介してほしい」とか、「夫の数値が思ったより高いが、食事はどう気をつければよいか」といった質問をする母親たちの姿が多数見受けられた。 
 
■心配なのは、今後の蓄積 
 
「市民放射能測定所」で使用しているホールボディーカウンターは、椅子型のシンチレーションカウンター。椅子に腰かけて約3分ほど計測すると、椅子の背部に埋め込まれているシンチレーションが体内の放射性物質を関知する仕組みだ。この機械の“検出限界値”は300ベクレル。検出限界値を大幅に超えた場合は、計測時間を20分くらいまで延長することで、より正確な値がでることもあるという。 
 
「市民放射能測定所」の発表によると、今回、ホールボディーカウンターを受けた100名のうち、機械の検出限界300ベクレルを超える数値が出た人はいなかったという。 
 
「まずは一安心」と言いたいところだが、チェルノブイリの子どもたちを長年支援し、今回はボランティアで相談会に参加していた小児科医の黒部氏は、「心配なのは今後の蓄積だ。晩発性障害は5年後、10年後に起きる」と警鐘をならす。 
 
 また、「こどもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」の代表・山田氏も、「もし今後、高い値が出たとしても、特に対処法がないのが現状」と打ち明ける。現段階では、放射能を体外へ排出するための科学的根拠のある方法はないため、「汚染地域から避難して、なるべく汚染されていない食べものを採るしか手立てはない」のだという。 
 
 この日参加した医師の中には、「このまま黙って子どもたちが被ばくし続けるのを見ていられない。今こそ全国の医師たちが一致団結して、声をあげなければ」と、強い危機感を持って憤る人もいた。 
 
 しかし、彼らのように自ら子どもを守るために行動を起こしている医師は、ほんの一部にすぎない。なぜなら、放射線が人間に及ぼす影響の多くが、まだ十分に解明されていないからだ。 
 とはいえ、チェルノブイリを超えるほどの規模にまで拡大した福島第一原発の事故。いくら臨床データが乏しいといえども、周辺国ベラルーシでは、事故から25年経った現在、健康な子どもがわずか2割しかいない、という現実がある。こうした事実から目を背けることなく、予防原則にもとづいて対処しなければ、子どもたちに被害が及ぶのは免れないだろう。 
 
「放射線市民測定所」と 「子供たちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」では、今後も継続的に健康相談会を開き、子どもたちの様子を注意深く見守っていくという。 


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