2011年09月30日19時43分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201109301943195

イスラエル/パレスチナ

パレスチナの春 駐日パレスチナ常駐総代表大使のインタヴュー 文:平田伊都子 写真:川名生十

 2011年9月27日、オークラホテル平安の間で、サウジアラビア建国記念パーテイーが派手に催された。 イスラム教の掟で酒は出ない。 アラブ風野菜ペーストやアラブ風揚げ物や羊の焼き肉、お寿司なども加えた立食形式だった。「お一人様1万円、計約1千万円になります」と、宴会セールスマネジャーが教えてくれた。 
 サウジアラビアの石油を頼りにしている日本からは、福田元総理大臣、鳩山元総理大臣、枝野現経済産業大臣、平岡現法務大臣、須藤信彦外務委員会理事などが参加した。 
 が、外国人外交官が殺到したこの日の主役は、駐日パレスチナ常駐総代表大使だった。 
 
★アッバス議長の銃とオリーブ 
 
 9月29日に筆者は、そのサウジアラビア.パーテイーの主役を、麹町にあるパレスチナ常駐総代表部でインタヴューした。 「又、ハッカーにやられたよ、、」と、ジーパン姿のワリード.シアム.パレスチナ大使は膨大な紙の資料を整理していた。 
 甘ったるいトルコ風コーヒーをすすりながら、筆者はまず、2011年9月23日にパレスチナ自治政府大統領アッバスがやった<パレスチナ国連加盟申請>の演説から質問した。 
「アッバス大統領の演説はパレスチナ人の心を代弁した真摯で正直なものだった」と、大使はその時の感動を再び噛みしめるように語り始めた。 「アッバス大統領が国連加盟申請書のコピーを掲げた時涙したのは、私だけではない。ガザの住人、西岸の住人、難民キャンプの住人、全世界に散らばっているパレスチナ人たち皆が抱き合って喜んだ。そして 
大統領は故パレスチナ大統領アラファトが同じ国連総会の演壇で1974年に発した<私は右手にオリーブを左手に銃を持っている>という名文句で演説をくくった」 
 
 アッバス大統領に続いたイスラエル首相ネタニアフ演説の感想を筆者が聞くと、大使は次のように切り捨てた。 
「アッバス大統領と対象的で、ネタニアフ首相の演説は不真面目で正しくない。嘘と陰謀だらけだ。我々パレスチナはイスラエルと政治的な平和交渉をしようとしている。が、彼は<イスラエルはユダヤの国>と繰り返し、政治問題をユダヤ対決イスラムという宗教問題にすりかえようとした。宗教問題は交渉できないテーマであることをよく知った上で、ネタニアフは平和交渉を潰そうとしている。ずるい奴だ。 
 ネタニアフはパレスチナが平和交渉に応じないと宣伝工作をしているが、交渉の席につきたくないのはイスラエル側で、パレスチナはいつでもスタンバイしている」 
 
★反発するハマス(イスラム抵抗運動組織)とリーバーマン外務大臣 
 
 アッバス大統領の国連加盟申請演説を受けて、すぐに、ハニーヤ.ハマス首相が反対声明を出した。 パレスチナ大使はそんなハマスの態度を次のように非難した。 「皮肉なことに、ハマスの国連加盟申請に反対する声明の根拠は、イスラエルのそれと表裏一体だ。 
ハマスもイスラエルも夫々の宗教、つまりユダヤ教とイスラム教に固執し、相手の国家的存在を認めない。我々パレスチナ暫定政府は一つの地に2国家が存在できることを認めている。ハマスは今やガザ住民の支持を失いつつあることを認識すべきだ。アラブの春はイスラム原理主義国家を望んでない。パレスチナの春は開かれた自由な国を目指している」 
 
 2011年9月26日、ユダヤ教過激派のイスラエル外務大臣リーバーマンは「加盟申請をやるなと言ったのによくもやってくれたな!きっちり決着をつけてやる!!」と、凄んだ。 
リーバーマンの脅しにパレスチナ大使は怯まない。 「リーバーマンが率いるユダヤ教極右組織は、地中海からイラクのユーフラテス川までイスラエル王国のものだと主張する。彼の仇名はコブラ。ユダヤ原理主義という猛毒でアラブ世界を凌駕しようとしている。彼は、アメリカは子分だと豪語している。 
しかし、一つの地にパレスチナ国家とイスラエル国家が共存するという案は、国連が提案し国際社会が受け入れている案で、揺るぎのない現実なのだ。そして、その数々ある国連決議を承認した国々は、決議の履行に関して責任がある。その観点からしても、イスラエルや欧米大国が<両当事者パレスチナとイスラエルによる二国間だけの交渉>というのはおかしい。国際社会全体が関わる、関わっていかねばならない交渉だ。だからパレスチナは改めて国連に訴えているのだ」 
 
★犠牲者はユダヤ人じゃない、パレスチナ人だ 
 
 イスラエル首相ネタニアフは、「ユダヤ人はナチスドイツ大虐殺の犠牲者で、アラブ諸国に包囲された犠牲者で、いまやパレスチナのテロに狙われている犠牲者だ」と、国連やメディアで犠牲者を売り物にしている。 これに対してパレスチナ大使は「何言ってんだ!」と猛烈に反発した。 「ずるい!イスラエルはずるすぎる!!いつまで犠牲者を演じるつもりなんだ?イスラエルは原爆、核兵器、大量破壊兵器なんでも持っている。イスラエルは10番内に入る軍事大国で、10番内に入る武器輸出国なんだ。そのイスラエルが犠牲者だなんて、嘘もいい加減にしろ。犠牲者とは、そのユダヤ人に先祖の土地を奪われ追い出され、高い壁に囲まれた占領地に閉じ込められているパレスチナ人のことを言うのだ」 
 
 イスラエル首相ネタニアフは国連で「ヨルダン川西岸はイスラエルを見下ろす位置にある。そこから侵入してくるパレスチナゲリラにユダヤの民は脅えている」とも言った。 
これに対してパレスチナ大使は、「逆だ。脅えているのはパレスチナの民だ。ヨルダン川西岸のパレスチナ人をぐるっと取り囲む高台に、完全武装したユダヤ人入植者が住んでいる。 
数年後には、パレスチナ暫定自治区は完全な監獄になってしまう。イスラエルはユダヤ国家だと明言するネタニアフ政権はユダヤ教徒以外の人間を追放しようとしている。ネタニアフがいう中東で唯一の民主主義国家というのはまやかしの誇大宣伝だ」 
 
★なぜ国連安保理審議が遅れているのか 
 
2011年9月28日付けのイスラエル新聞ハーレツが「国連安保理に送られてきたパレスチナ国家国連加盟申請書は5週間かけて委員会が再審査する」と報道した。 
「申請書に何か間違いがあったの?記載漏れなどがあったの?」と、筆者はパレスチナ大使に聞いた。 パレスチナ大使は苦笑いしながら答えた。「国連に加盟したいという申請書はどこの国も同じで簡単で間違いようがない。間違いのチェックは国連事務総長の仕事だ。総長が安保理に渡したのだから、書類審査は終了している。南スーダンが出した同様の申請書は一発で通った。コソボも数日後に安保理の承諾を得た。しかし、パレスチナの国連加盟を認めたくない米、英、仏、独の欧米大国は審議引き延ばし戦術を打ち出してきた。その狙いは、仝什澆琉楕殕議長国レバノンが9月末で議長職を終わるので、代わって反パレスチナ国を議長に据える、⇔湘事者に平和交渉を再開するよう圧力をかける、15カ国安保理メンバーの内、パレスチナ国家国連加盟に賛成を表明している国を金と脅しで反対票を投じるよう圧力をかける、などにある。現在、15カ国のうち9カ国が加盟に賛成してくれている」 
「安保理を飛び越して国連総会に直訴できないの?」と、筆者が聞くと、「それはできない。安保理の進言がないと総会にかけることができないシステムなんだ」と大使は首を振った。 
「イスラエルの代理人アメリカは拒否権を使ってでも阻止すると言っているが?」と筆者が畳み込むと、「拒否権を使ったらアメリカはアラブだけでなく、経済界や世界の若者から信用を失ってしまう。だから、安保理メンバーの寝返りを画策しているのだ」と大使は答えた。 「でも結局、安保理は否決するんでしょう?そしたらどうするの?」と筆者が突っ込むと、「その次の日に又もう一度申請するさ。日本も国連加盟申請を4回ほどやった。ポルトガルは6回だ」と、ケロッとして言った。 
 
★パレスチナ、次の外交作戦は? 
 
 「国連加盟申請の他にどんな外交作戦がパレスチナにあるの?」と、筆者が聞くと、パレスチナ大使は余裕の表情で、「イスラエルとの平和交渉をより有利な情況を作って続けていく。入植政策が経済上、国際信用上どんなに高くつくかを教えてやる」と、答えた。 
 「クリントン元米大統領は自分が始めた1993年のパレスチナ.イスラエル平和交渉オスロ合意を復活させようとしているようだが?」との筆者の問いに、大使は「オスロ合意はもうない」と、はっきり否定し、「パレスチナは国連が決めた1967年の国境線を土台にパレスチナとイスラエル両国が共存していく道を歩む。<ユダヤ人と契約しろ>と、イスラム教教祖ムハンマドの教えにもある」と、アッラーの神を讃えた。 
「日本政府に対しての注文は?」と筆者が最後に聞くと、それまでの熱弁がす〜と冷めて 
「日本ね〜、、ODAでお世話になっているけど、はっきり言って中立主義という方便はやめたほうがいいと思う。いつまでもアメリカのお尻を追っかけていてはだめだ。パレスチナ支持を主体的に明言すべき時がきている。中国、ロシア、韓国、それからアジアの国々はパレスチナ支持を打ち出した。パレスチナというあなたの友人があなたの助けを必要としている。友が求める時、救いの手を差し伸べないのは本当の友じゃない。日本がパレスチナの手を必要とする時が、必ずくるんだから、、」 
 
「日本が一日も早くパレスチナ国家を認めるように、そして正式な外交権をくれるように」 
と、ワリード.シアム.パレスチナ大使は忘れずに注文をつけた。 
 
文:平田伊都子 ジャーナリスト  写真:川名生十 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。