2011年10月07日12時58分掲載  無料記事
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核・原子力

【たんぽぽ舎発】汚泥処理に伴う放射線量について  横浜・町田市のケースについて検証する

 初めまして。横浜市のE.I子と申します。 五年、三年、二年の小学生と三歳になる子どもの母です。うちの子ども達が通う、横浜市立長津田第二小学校は西約100メートルに町田市の成瀬クリーンセンターがあります。手持ちのSOEKS-01M ver 1.ALとプリ 
ピャチで計測していますが、明らかに高過ぎる数値が出る日があります。クリーンセンターの職員の方々はとても協力的で、力を合わせてなんとかしたいと連絡を取り合っています。最終的には核の処分場をフクイチ周辺へという考えはお互いありますが、まだ先の話です。(たんぽぽ舎「地震と原発事故情報」190号から) 
 
 ドイツの環境研究所で聞いてきてもらった話だと、汚泥を焼却なんてとんでもない。汚泥は原子炉用のバグフィルターがついてる施設へ運ぶべきとのこと。ましてや、そんなところで校庭で授業などありえない、とのこと。学校長、横浜市教委会、PTA、自治会、横浜市会議員、町田市会議員へと、注意喚起をお願いしていますが、3ヶ月たっても何も変わりません。 
 
 クリーンセンターが検査に出している鶴見の同位体研究所の話だと、高温で焼却した放射性物質は周りとくっつきやすくなるのでは?とのこと。逆に細かくなり、マスクでは防げなくなるという話も聞きます。いずれにせよ、線量のモニタリングをして、高い日はマスクを呼び掛けられるようにしなくてはなりません。 
 
 町田市、横浜市共に「ここら辺はクリーンだから対策は必要なし」というスタンスです。煙突からの排出放射線量の測定の指示が6月に出ましたが、湿式でフィルターがありません。敷地内の空間線量は7月半ばより、週に一度木曜日に町田市より貸し出されたDOSERAE2で計測しています。 
 
 職員の方々は、放射性物質が入った脱水汚泥焼却灰を扱っており、線量計も持たされずとても心配です。今、運動会の練習が本格的に始まる前に、なんとかしたいと動いています。 
 
 排出煙の測定をして、数値を出し、だからマスクをして欲しいと話を持って行きたいと考えています。2μSv/hを超えた日もありますが、こちらは素人です。常に高い訳ではないので、成瀬クリーンセンター由来なのか、フクイチ由来なのか、また別の要素なのか判断がつきません。毎日測定して比較してマスクをさせています。 
 
 全てが初めての事ばかりで多くの情報を必要としています。焼却炉の仕組みや松葉の事など、勉強しながらやってる状態です。下水処理施設からの放射性物質飛散の件で、読むべきものがあれば是非お知らせ下さい。 
 
 どうぞ宜しくお願い致します。 
 
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 E.I子様 
 
 たんぽぽ舎の坂東と申します。 
 
 お問い合わせの件についてですが、私が清掃労働者のため、回答することになりました。町田の成瀬クリーンセンターは下水処理場ですが、清掃工場も抱えている問題は同じなので、私の見解を述べさせていただきます。 
 
 焼却炉の形式・規模がわからなかったので調べていて遅くなりました。これについては若林ともこ県議の8月4日の視察レポートがあったのでわかりました。 
 
 成瀬クリーンセンターは町田市と横浜市の境界に近いところに立地しています。 
 
 そこでで使用されている焼却炉は、流動床炉2基(45T、50T)バグフィルターではなく水冷のようですが、小型なので一般的な処理と思います。尚、町田市のHPによれば、成瀬クリーンセンターの汚泥と汚泥焼却灰の値は、5月20日測定で汚泥のセシウム合計626ベクレル、焼却灰のセシウム合計5123ベクレルとなっており、この後の6月30日の焼却灰は合計916ベクレルと推移しています。 
 
 私は東京23区の清掃工場等(中間処理)にかかわる仕事ですが、ご承知とは思いますがやはり工場の焼却飛灰に高い濃度で濃縮されているのが判明し、関係部署はてんてこ舞いです。(ちなみに東京23区では今21工場稼働中です。)下水処理場も同じです。 
 
 公害対策として、基本は生物に害のないようにすることなので、希釈する(薄くする)か、害になるものを集めて無害化処理する、のがほとんどです。今は後者が主流です。 
 
 そのため、排ガスに出ないように集塵装置でできるだけ集めて、環境に溶け出さないように処理しています。水に溶け出さない安定した化合物にするとか、キレート剤(かにの爪という意味)で捕まえて逃げないようにするとか、高温で溶かしてガラス状にして閉じ込めるとか。重金属やダイオキシンなどはこの方法で処理してきました。 
 
 しかし今回はこれが裏目に出ています。がんばって集めているのだから濃くなるのは当然です。でも、放射性物質から放射線を出さないようにするのはできないからです。防ぐしかありません。 
 
 もともと、家庭から出るごみや、下水に放射性物質が入ることなど想定していません。あるわけがないものだったからです。周囲のものを集めてくるものですから、この値はいかに私たちの周りや雨が汚染されているかの証拠でしかありません。 
 
 なお、飛灰の扱いは、飛散しないように厳重な保管が義務付けられています。運搬に関してもです。そのため、いまの設備はかなり厳重です。報告の写真を見ると、フレコンパックのような袋に入れて保管しているようなので、破けなければ飛散しないでしょう。保管している灰の近くでは、当然ですが線量は高くなっているようです。作業のあり方、安全性も課題になっています。 
 
 ここで少々技術的・専門的な話となりますが、「焼却灰」による汚染と「焼却した際に排出される排ガス」の汚染の問題、と二つにわけて少々詳しく見て行きましょう。 
 
(1)「焼却灰」の汚染の問題 
 
 都市の場合は、廃棄物(ゴミ)や汚水は基本的に処理施設で処理します。大量に出るため、自然の力で自然に戻すというのが無理なのと、いろいろな化合物やプラスティックのような自然で分解しないものが増えているからです。 
 廃棄物の焼却(汚泥も基本的には同じ)の主目的は衛生的に処理し、カサを減らすということです。 
 
  ◎臭いは摂氏600から650度程度で分解しますし、細菌も死にます。 
  ◎かさは約20分の1になります。 
  ◎ダイオキシンのような有機物も摂氏850度以上でほぼ分解します。 
 
その残った焼却灰を主灰 (燃えがら)と言います。 
 
 新しい焼却炉は大体摂氏900度位で燃やすので、揮発しやすいものはほぼガス化して飛灰として排ガス・煙突方面に流れます。 
 このガスを冷やす (熱をとる) ため、大型の焼却炉はボイラを付けて蒸気を作って発電しています。 
 小型のものは水をかけて冷やします。ちなみに融点の低い重金属はほぼ飛灰となって、ガスと一緒に流れていきます。セシウム(※1)も同じとみています。 
 
(2)「焼却した際に排出される排ガス」の汚染の問題 
 
 燃やした後のガスをそのまま煙突から出すと、細かい灰(ばいじん)がそのまま出てしまうので、いろいろな公害対策設備を通してきれいにして出します。 
 
 現在大型焼却炉はダイオキシン対策のため、いろいろなテクニックを使います。 
 
1.バグフィルター(ろ過式集じん機)に入る前に急激に温度を摂氏150度位に下げる(ゆっくり下げるとダイオキシンを再生成する心配がある)。 
 
2.バグフィルターでちりを落とす(性能は99.5%以上)。落とした灰を集じん灰(飛灰)と言います。これは前出の主灰(燃えがら)と一緒にしてはいけないことになっています。 
 
3.そのあと塩化水素や硫黄酸化物を取り除くために湿式除去設備を通します。水をかけて温度を下げ、苛性ソーダ(水酸化ナトリウムNaOH)と反応させ中和させます。ガス化で残った重金属にはキレート剤を吹き込んで捕まえます。 
 
4.そのあと窒素酸化物を減少させるため、温度を上げてアンモニアを吹き込んで触媒脱硝装置に通します(ダイオキシンも分解する)。 
 
5.そのあと勢いをつけて煙突から放出します。 
 
 鉛等、重金属は2.と3.の過程でほとんど取れています。今回問題となっているセシウムもここで取れています。 
 
 ちなみに23区では毎年バグフィルターの前後でばいじんを測り能力の確認をしています。そのため、排ガスにはほとんど混入していないと考えています。 
 
 しかし、現在広い範囲に放射性物質がばらまかれています。高濃度でなくても集めてくるのですから、そのために下水で沈殿させた汚泥や焼却灰、清掃工場の燃えがらや飛灰に濃縮してくるのは当然です。 
 
 もともと日常生活の快適さを守るための都市施設に放射性物質が入ってくるなど想定していません。これこそ「想定外」です。でも原発が事故を起こせばこうなるのは当然の結果です。 
 
 そして、現地近くは高濃度汚染です。対策は全く違うものになります。 
 
追記 
 
 この見解を書いている間に、「10万ベクレル以内の焼却灰等に関しては通常の埋立廃棄を行うといった政府決定がなされた」旨の報道が飛び込んできまし 
た。 
 
 この事についてその問題性について触れておきたいと思います。 
 
 8000ベクレル以上は通常の埋立をしないようにとの暫定の方針でした。では、それ以下はいいのかということですが、8000ベクレ以下は住宅地利用しないことを条件に埋め立てを認める方針を既に示しています。ということで自前の処分場があるところは各自治体の処分場へ今までどうり通り持っていっているところが多いです。まあ、正式の処分場は埋立後も管理が義務付けられ、住宅な 
どには利用しないのでこの条件はクリアします。しかし、今までの例では埋立終了後公園などにしているところが結構あります。適当にばらまくと後で確実に問題になります。 
 
 また、コンクリート固化などするとかさが増えて、(薄めるのだから)結果的に濃度は下がります。で、8000ベクレル以下になったら今でも埋め立てOKです。なし崩しにばらまきで薄めることにならないよう後のことを考えきちんとさせるべきです。 
 
 今、市民が問題にしているのは8000ベクレを超えたからでなく、あることそのものを心配をしているのだから、これを基本に考えるべきです。住宅地に近いところに処分場があるところも多いからです。 
 
 仕方がないから、実態に合わせ基準を変えているのではと勘繰られても仕方ありません。「8000ベクレルを決めたのは」にはそれなりの説明がついていましたた。では10倍を超える今回の件ではどうなるのでしょうか。働く人たちの安全も含め多角的に検討していかなければならないと思います。 
 
 ちなみに、環境省が16都県に対し測定を要請しました。計469焼却施設のうち、7都県の42施設で基準値を超えていることがわかりました。東京、福島、千葉以外に基準値を超えたのは栃木(4万8600ベクレル)、茨城(3万1000ベクレル)、岩手(3万ベクレル)、群馬(8940ベクレル)、等。 
 
 報道によれば、「環境省は27日、東京電力福島第1原発事故で放射性物質に汚染されたがれきやごみの焼却灰のうち、これまで一時保管するよう求めていた放射性セシウムが1キロ当たり8000ベクレルを超えるものについて、10万ベクレル以下の場合は一般の最終処分場での埋め立てを容認する方針を決めた。地下水への汚染防止策などを講じることで、安全な処理が可能と判断した。 
 
 具体的には、焼却灰をセメントで固めたり、屋根付きの処分場を利用したりすることで水との接触を防ぎ、セシウムが流出しないようにする。埋め立て後は、処分場の排水や周辺の地下水の監視などを行う。 
 
 同省はこれまで、8000ベクレル以下を埋め立て可能とし、この基準を超えたものは、処分方法が決まるまで一時保管する方針を示していた。10万ベクレルを超える灰の扱いは、周囲をコンクリート壁で覆った産業廃棄物用の『遮断型最終処分場』への埋め立てを軸に検討する。」と報じています。 


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