2011年11月07日00時19分掲載  無料記事
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核・原子力

【たんぽぽ舎発】大飯原発3号機のストレステスト  茶番以外のなにものでもなし 新知見も取り入れず  山崎久隆

 2011年10月27日、ストレステスト第一弾として関西電力大飯原発3号機の「一次評価結果」が公表された。全体で600ページを超える文章量だが、実態は薄っぺらいものでしかない。詳細な分析は今後行うとして、一通り読んでみて感じたことは「茶番劇」。 
 
○ 茶番以外のなにものでもなし 
 
 特にすごいのは津波についてだ。もともと3.11福島第一原発震災を受けての「緊急対応」として『福島第一発電所の設計津波高さが平成14年評価値(5.5m)に対し、実際は15m(その差9.5m)であったことから、大飯発電所の平成14年の評価値(1.9m)に9.5mを足した11.4mまで、緊急安全対策としてのシール施工を実施済み。』これにどんな根拠があるというのだろうか。 
 
 福島第一原発(以下フクイチという)と同じ津波波源域に面しているというのならまだしも、地理的にも津波波源の地帯構造も全く関係のない若狭湾の原発で、フクイチの津波波高の差分データにどんな意味があるというのか。論外を通り越して考え方が壊れている。 
 
 さらにフクイチの想定津波高と到達津波遡上高の差分を取り、その値を他の原発に当てはめるということは、相対的に想定津波波高が低い方が解析後の遡上高も低くなるので、低い方が結果的に有利になる(裕度が上がる)という結果になる。本来とは真逆の結果になるわけでそんな解析は聞いたことがない。 
 
 もっとも、11.4mに実際には何の意味も無い。最初に津波に襲われることになる海岸の海水ポンプについてモーター下端の高さが4.65mしかないことに、今回の解析でも違いは無い。津波により一番最初に最終ヒートシンク(崩壊熱の捨て場)が、このポンプの損傷で使用不能になることから明らかだからだ。 
 
 ところが海水ポンプ使用不能の対策が「電動補助給水ポンプまたはタービン駆動補助給水ポンプにより、2次系からの原子炉冷却を継続する」などと、その前に基準地震動Ssのわずか1.8倍程度で使用不能となってしまう程度の脆弱な冷却システムでの危機回避を想定し、海水ポンプ使用不能でも冷温停止出来ることになっている。こんなことはフクイチでも失敗しているので、震災経験の共有になっていない。 
 
 そのうえ驚くことに「最終ヒートシンク喪失から燃料の重大な損 
傷までの事象の過程において、地震、津波等の外部事象による設備への影響は考慮しない。」のだそうだ。何処がストレステストなのか、これでは従来の欠陥安全解析と何ら変わりが無い。イベントツリー図(73Pの図5-(5)-5 )では、失敗したら炉心損傷に至ると読み取れるので、それを読み取れと言うことらしい。 
 
○ 繰り返された津波想定の欠陥 
 
 「大飯発電所 設計津波高さに関する算定根拠説明資料」によると、津波波源域については、主に原発に影響を与えた津波は日本海中部地震(1983年5月26日秋田県能代市沖!)だという。若狭湾で起きる地震や、太平洋側のプレート境界の動きで起きる海底活断層の地震により誘発される内陸巨大地震による山体崩壊など、若狭湾に十数メートルの津波を引き起こした可能性のある原因は何ら考慮されていない。 
 
 歴史地震については、文献調査として『1.羽鳥徳太郎(1984):日本海の歴史津波、2.国立天文台(2009):理科年表、3.宇佐美龍夫(2003):最新版日本被害地震総覧、4.羽鳥徳太郎(2010):歴史津波からみた若狭湾岸の津波の挙動歴史地震第25号、5.渡辺偉夫(1998):日本被害津波総覧、6.気象庁(2007):平成19年8月 地震・火山月報(防災編)、第1号』を引用したとしているが、これらはいずれも一次資料ではなく「若狭湾に津波被害があったとは書かれていない」研究者の調査報告である。著者や機関の見解であってイコール歴史的事実ではない。 
 
 例えば1586年の天正地震時に若狭湾で巨大な津波が発生したことを記述した歴史資料として、研究者ならば誰もが知る「京都吉田社の神主、吉田兼見の日記、兼見卿記」や宣教師のルイス・フロイスの書いた「日本史」など多くの一次資料にある若狭湾の津波被害に関する記述は全て「信頼性が無い」として切り捨てているが、その根拠は「内陸地震とされている天正地震が若狭湾で津波を引き起こすとは考えられない」という、仮定に仮定を重ねた「見解」だけなのだ。 
 
 内陸地震であっても震源域が海底に及べば地形変状により津波は起きるし、地震に伴う巨大な山体崩壊などが起きればその影響で津波は発生する。そんな例は世界にいくつもあるし、1792年の雲仙普賢岳噴火に伴う山体崩壊(ただし直接の噴火が原因かどうかは分かっていない)で対岸の熊本県でも5mの津波被害を被った「島原大変肥後迷惑」はあまりに有名。地震津波では無い巨大津波の例としては、もう一つ1741年の渡島西部大津波は対岸の渡島大島の噴火に伴う山体崩壊によるものとの調査報告(島村英紀:2005)がある。地震による山体崩壊の例は、1958年7月9日に米国アラスカ州リツヤ湾で発生した遡上高524mが史上最高とされている。M7.7の地震に伴って発生した山体崩壊が原因だが、リアス式海岸の湾は奥行き12キロ、幅3キロであり、湾内の海水が外に逃げられない構造だったことが巨大津波に発展した理由だった。 
 
 では同様にリアス式海岸が発達している若狭湾はどうだろうか。小浜市のある小浜湾と大飯原発のある大島半島の間は幅約12キロ奥行き約7キロだ。形状として湾口が狭く湾内の水が逃げにくい構造であることはよく似ている。若狭地域においても過去に山体崩壊があったことが知られている。京都と福井県境の舞鶴市と高浜町の間にある青葉山は、正確な年代は不明ながら大規模山体崩壊を過去に経験している。しかもその崩壊し流出した岩石の「流れ山」の先には現在は高浜原発が建っている。 
 
○ 新知見も取り入れず 
 
 太平洋側で起きる巨大プレート境界地震は、日本列島を横断する方向にも大きな応力場を形成し、日本海側と太平洋側を繋ぐ構造線に大きな活動が起きるひずみを発生させる。その結果、日本では最も多い東西圧縮応力場で起きる逆断層型では無く、地震を起こす可能性はほとんど無いとされてきた、引っ張り応力場で起きる正断層型の大きな地震を起こすことを考慮しなければならないという知見が、今回東日本太平洋沖地震の後に誘発されて起きた、福島県いわき市の井戸沢断層や湯ノ岳断層地震でわかったことだ。ならば、動かないと考えている正断層は、この種の特殊な環境において活動する断層であり、その際に大きな地盤変状が生ずると考えなければならない。 
 
 これについては敦賀原発ともんじゅの直下にある敦賀断層周辺の破砕帯が、そのような状況下で大きな地震に伴い活動するのではないかと考えられる。大飯原発の付近にもそういう動き方をする断層群があるのではないか、そういう視点で再調査をすべきであろう。 
また、このストレステストでは津波そのものの破壊力を事実上何にも考慮していない。建屋を水密構造にしたときに津波の破壊力を考慮したかのような記載になっているが、その具体例はない。 
 
○ 無視される津波の脅威 
 
 フクイチと異なり、若狭湾口にある大飯原発は、周辺に大量の危険物貯蔵施設がある。大飯原発にも重油とみられる、大きなタンクが湾口に面して4基ある。これが流されれば原発敷地は大規模火災になる。さらに大量の船舶が航行している若狭湾に十数メートルの津波が襲えば、コントロールを失った数万トン規模のタンカーやフェリーなどの船舶が大飯原発にぶつかってくる事態も考えなければならないだろう。気仙沼や宮古の海がどうなったか、十数メートルの津波に襲われることの真の恐怖はフクイチではなく気仙沼市にある。 
 
○ 無視される警告 
 
 地震断層の再調査についても、このストレステストに関しては何一つされていない。「大飯発電所の基準地震動Ss」の添付 5-(1)-2の図は、2009年に公表された「耐震安全性評価の中間報告書」(追補版)と全く同じだった。例えば熊川断層は陸域の断層だが、さしたる根拠も無く海側のFo−A、B断層との連動はしないことになっている。全部同時に動けば優にM8クラスになりそ 
うな、大飯原発の目の前の断層だ。熊川断層も、想定M7.4程度の揺れを起こす断層だとされているが、これとFo−A、B断層と連動させないことで、開放基板面の揺れは700ガルに止まっている。これを大きく超えることは想定外なのだ。 
 
 これらの断層が連動して大きな地震につながるという警告は、既に東洋大学渡辺満久教授、神戸大学石橋克彦名誉教授から出されている。それは今回も無視された。 
 
○ 最も脆弱な部分が最も重要な装置 
 
 この2009年の基準地震動Ssの評価文書(バックチェック中間報告書)に書かれていた応力と許容値の最小比は「一次冷却管」の1.90だが、今回のストレステストではタービン駆動給水ポンプの「1.81」など、厳しい方向に若干変化したものがある。 
このポンプは先の最終ヒートシンク(核燃料崩壊熱の冷却経路)喪失時に唯一のヒートシンク(冷却装置)とされているポンプなので、一番脆弱な部分が一番重要な設備という実態である。 
 
 他にも1.81またはそれ以下という最低の値になっているものに、ホウ酸ポンプ(原子炉後備停止系統の重要設備)、余熱除去ポ 
ンプ(冷温停止に重要な設備)、高圧注入ポンプ(ECCSに重要な設備)、格納容器スプレイポンプ(格納容器保護のための重要ポンプ)などがあり、地震によりこれらが全て使用不能になる危険性がある。これを共通要因事故という。この場合、深層防護が機能して安全側に推移するかどうかが問われることになるのだが、そもそも共通要因事故を想定していないのだからどうしようもない。 
 
 1.81以下などというのは、安全余裕はほとんどないから、応力解析条件よりも耐力が落ちる経年劣化や想定の誤りによる応力集中点の変化や地震と同時に発生する落下物の衝突など別の要因の応力が追加で加われば、簡単に超えてしまう。許容値と解析値が3以下(安全余裕3倍以下)の装置類は全て地震に耐えられないだろうとみるのが妥当な評価だ。 
 
○ 電源喪失の対策も不十分 
 
 電源設備対策(全交流電源喪失対策)も、呆れるほど「何もない」。電源車など緊急対策で追加配備した設備をつなぎ込むカ所を新設したという程度で、それが電力供給できるから、緊急時対策用冷却装置の運転時間が延び、安全裕度が20倍までに高まるとしてるが、そんな単純なわけがない。 
 
 地震で所内電源設備が全損し、電源回復が実質的に間に合わなかったフクイチのケースは教訓にすらなっておらず、開放基板面700ガルを超える揺れ、ということは地上ないし電源設備の構造物上では1000ガルを遙かに超える揺れに襲われることで起きるはずの、所内変圧器の開閉器を含む電源系統に損傷無しなどあり得ない。少なくても所内開閉所を含む系統は全部使用不能としなければ、ストレステストの解析にならない。電源車はメルトダウン前にフクイチにも到着していたのに、系統に繋ぎ込むこともできず、使用できなかったという事実すら考慮されていないという信じがたいストーリーには言葉もない。 
 
 地震動の解析も、その前提となる想定地震も、津波の想定も全部失格。こんなわかりやすい落第答案を出した関電の姿勢は徹底して批判されるべきだが、そういう視点での報道は今回も見られなかった。 
 
[編集部より] 
山崎久隆氏が文中で指ししめしている「大飯原発3号機のストレステスト」の報告書本文、及び添付文書は以下のサイトからPDFファイルでダウンロードできます。 
 
・発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価(一次評価)に係る報告書の提出について(関西電力株式会社大飯発電所3号機) 
・担 当:原子力安全・保安院 原子力安全技術基盤課 
・公表日:平成23年10月28日(金) 
 
http://www.meti.go.jp/press/2011/10/20111028006/20111028006.html 


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