2011年12月26日10時43分掲載  無料記事
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農と食

「原発事故に立ち向かうコメ農家」再放送のお知らせと原村ディレクターからの手紙

 12月4日放送のETV特集「原発事故に立ち向かうコメ農家」の再放送のお知らせです。再放送日 2012年1月3日(火)午前2時30分(月曜深夜)よりNHK教育テレビにて。 
 
  以下は大野編集長が書いた番組評に対する原村政樹ディレクターの手紙から。 
 
大野様 
  ツイッターでもお礼を書きましたが、字数が限られているので、もう少し書かせてください。 
  私は、今回の番組をスタートさせる3年前、天栄村での耕作放棄田の再生をやはり4月から11月まで追いました。それが縁となって、今回の番組を制作することになりました。農家の人たちは長年、つまり、大げさに言えば縄文時代後期から土を豊かにし、日本に暮らす人たちの命を支える食糧を育ててきたのです。そんなに簡単に自分の土地を見捨てることはできません。 
 
  大玉村の鈴木さんが伊香保温泉で話した時、お墓のことを話す時に、涙ぐみました。彼の怒りは、農地を放射能で汚染(つまり他人の庭にゴミを投げ捨てた)されたにもかかわらず、東電も国も責任を取ろうとしない、むしろ、原発からは放射能は漏えいしないという神話を強固にするためなのか、法律で放射性物質を汚染物質として認めていない、その国の不作為を、たったひとりで問うているのです。 
 
  今までは仲間はひとりもなく、たった一人での行動でしたが、12月に入って、福島県福島市と伊達市で基準値を越える米が出た為、福島県の中通では天栄村などを除く全ての自治体で県から米の出庫をしないよう要請が出ました。そのため、24000軒にものぼる全農家の米の調査に入っていますが、そうした状況になった今、ようやく何人かが鈴木さんと一緒に動く気配も出てきました。 
 
  一方の天栄村は、鈴木さんとは反対の方法論で、国や県に頼らず、自分達で安全な食料を作ろう、つまりまず、米の放射能汚染をゼロにしようと4月から精力的に動きました。そこには、村役場で長年、産業振興課(といっても主は農業)に関わり、自身も兼業農家の吉成課長の存在が大きいのです。これからもできることは何でもやろうという意気込みです。こんな役人は今まで見た事がありません。役人といった概念を超えて、すでに農家と一心同体、だから、土壌汚染が1000ベクレル以上の結構の高濃度汚染地域にも関わらず、県の早期米調査・予備調査・本調査でも中通で唯一と言っていいすべてがNDだったのです(鏡石は別、それ以外のNDの自治体は汚染度合が低い)。こんな人物こそ、地域住民の為に働く本来の公務員といえると思います。このテーマについては今年も追い続けたいと思っています。 
 
  長々と書いてしまいましたが、私も反原発の人々の発言に究極的には賛成ですが、どこかエゴイズムを感じていました。精密な汚染地図を作成した某教授はツイッターで会津を除く福島県の農家は作物を作るな、とまで暴言を吐いています。地質学の専門家かもしれませんが、福島県の農家一人一人のことをどう思っているのでしょうか?いわゆる「とんでも学者」のブログにもそうした記述がありました。都会の消費者はそうした記述に無批判になびいてしまいます。福島原発は設置自治体は別にして、福島県の人たちに全く恩恵のない代物です。まさに、東京電力から電気を供給してもらっている私達、首都圏に暮らす都市住民のためにあったのです。今回の取材を始めた春の段階から、私は原発事故によって人間のエゴイズムを強く認識し続けています。もし、福島県産の食物を食べたくなかったら、黙って食べなければいいのです。もちろん、原発推進派の人たちには怒りを感じています。しかし、反原発の人たちももう少し福島県に暮らす人たちへの思いやりがあってもいいのではないかと思うばかりです(そうした人たちもいて、私は付き合いがあります)。 
 
  長い文章を書いてしまいました。大野様が私の言いたいことを第三者の立場から発言されたことに感謝するばかりです。 
 
原村より 
 
■この地に生きる百姓の思いを描いたテレビドキュメンタリー「原発事故に立ち向かうコメ農家」  大野和興 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201112251259110 
 
■【TV制作者シリーズ【(9)アジアを舞台に農と食、そして人生を撮る原村政樹ディレクター 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201002231352572 


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