2011年12月28日09時13分掲載  無料記事
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コラム

敵からぶん捕ったフィルムについて  村上良太

  書店に近年、ワンコイン=500円の第二次大戦史ドキュメンタリーシリーズが置かれてあり、その多くを買ってみた。これらのシリーズは「われらはなぜ戦うか?」と銘打たれ、ファシズム国家に対する自由主義陣営の戦いの正当性を訴える内容になっている。 
 
  これらは戦争を記録したドキュメンタリー映像であり、戦時特有のものとして、しばしば目を引いたのが敵国からぶん捕ったフィルムの使用である。たとえば北アフリカにおけるロンメル軍団を壊滅させた英国軍の戦いの記録である。基本的に英国の従軍カメラマンが撮影した映像を使用しているのだが、中にはロンメル将軍がベルリンでヒトラーから檄を飛ばされているシーンや戦場で作戦を指揮している映像も編集で組み込まれている。これらはもちろん英国人が撮影したものではなく、戦勝国としてドイツ軍の記録班からぶん捕った映像を使用しているのである。ドイツの映像が少しでも混じることで面白味もプロパガンダの強度もぐっと増すのは間違いない。 
 
  ドイツが英国侵略を企てて大失敗に帰する1940年から翌年にかけての「バトル・オブ・ブリテン」をテーマにしたプロパガンダ映画もまたそうである。この中で、ヒトラーが「英国を叩き潰す」と演説しているシーンや、ドイツ空軍を指揮するゲーリングが前線を見舞う映像、あるいはドイツ軍が英軍の空襲に対して対空攻撃を行う映像などが使用されていた。 
 
  もう65年以上も直接戦争を行わなかった日本から見ると、敵からフィルムをぶん捕って自分たちのプロパガンダ映画に使用するというのは図太い振る舞いに見える。著作権というものは度外視だろう。勝ったから使う。単純明快な力の論理である。戦時中、日本人が撮影していたフィルムも相当量米軍に没収されてしまったのではないだろうか。 
 
  最近の戦争に関して言えば、サダム・フセインのイラク、さらにはオマル師のアフガニスタン、あるいはカダフィのリビアなど、政権が力づくで崩壊させられた国々にも相当量のフィルムが存在していたと思われる。家族を撮影したプライベートな記録もあれば、国営行事を映したものもあるだろうし、国が作った映画もあるだろう。こうした映像記録はその後どうなってしまうのだろうか。戦勝国がずたずたに切り刻んで、勝者の歴史を輝かしくするために再使用されるのだろうか。 
 
 
■没収されたフィルム 
 
  「太平洋戦線は、広島・長崎の原爆投下で終りに至った。日本人カメラマンが、この破滅的な爆発の撮れるだけのものを撮っておいた。しかし、そのフィルムは米軍に没収され、25年を経ても機密情報のリストから除外されてはいない。」 
(創樹社「ノンフィクション映像史」(リチャード・メラン・バーサム著、山谷哲夫・中野達司訳) 


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