2012年01月11日20時48分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

刑務所内のレイプ  

  アメリカの刑務所でのレイプが深刻な問題になっていることをアリゾナ在住のマクレーン末子氏が寄稿したのは2005年8月である。司法省が出した統計によると、刑務所の受刑者数は約210万人で、そのうち、1年間に刑務所内で行われた性的暴行は8210件に達しているという。その42%は看守からの、37%が入所者による暴行だとされる。しかし、被害者が事実を隠したがる傾向があるため、実際の数字ははるかに大きい可能性があるとマクレーン末子氏は報じている。 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200508051420555 
  ニューヨークタイムズの2005年8月の記事では刑務所におけるレイプの実態を証人を呼んでヒアリングする公聴会の模様が報じられている。http://www.nytimes.com/2005/08/20/politics/20rape.html?pagewanted=all 
  証言している被害者には男性もいれば女性もいる。肉体がダメージを受けるだけでなく、精神的に参ってしまうことを語っている。またHIV感染も深刻となっている。男性刑務所で若い入所者がその日のうちに水にドラッグを混ぜられ、レイプされてしまったケースを語っている。軽犯罪でたった3日間刑務所に入れられたときにレイプされ、一生消えない傷を負ったという人もいた。 
 
  アメリカではこうした刑務所内のレイプを減らすための法律も2003年に制定されている(Prison Rape Elimination Act of 2003)。レイプの件数を発表することもこの法律によって定められている。また、The National Prison Rape Elimination Commission という委員会がこの法律をベースに作られ、実態を把握する試みを行っている。委員長は「たとえ犯罪を犯した人であっても、我々が監禁した人々を守ることは社会の義務です」と語る。 
 
  刑務所内のレイプをなくすために活動している団体もある。JDI(Just Detention International)だ。 
http://www.justdetention.org/index.aspx 
ウェブサイトによると、現在、ロビサ・スタナウ(Lovisa Stannow)という女性がリーダーをつとめる。この人は元アムネスティインターナショナルの広報担当者で、人権擁護活動をこれまで続けてきた人らしい。 
http://www.justdetention.org/en/staff.aspx 
  JDIが設立されたのは1980年。設立者のラッセル・ダン・スミス(Russel Dan Smith)氏は自ら刑務所でレイプをされた体験者だ。体験者が名乗りを上げて活動を始めたのである。同じく経験者のステファン・ドナルドソン(Stephen Donaldson)氏はニューヨークタイムズやUSAトゥデイなどのインタビューを受け、その実態を社会に告知した。 
 
  JDIは米国の刑務所で1年間に起きるレイプ事件は成人・未成年を合わせて20万件以上と見積もっている。司法省の統計数字よりはるかに多い。 
 
  アメリカの作家・ジャーナリストのピート・ハミル氏はニューヨーク・ポストに書いたコラム集「アメリカ・ライフル協会を撃て」の中に、「何が彼らをホモ狩りに走らせるのか?」という一文を書いている。これは刑務所内の悪しき伝統が、出所後のホモ狩りと関係しているとする文章である。 
 
  「現在、アメリカ合衆国の刑務所で服役中の男性は100万人以上。これは先進工業国の中ではダントツの数字のはずである。ニューヨークだけでも、約2万3千人の男性が服役している。おそらく彼らのほとんど全員が、なんらかの形のホモ・セックス行為にふけっていると見ていい。そしてそれを、あたかも経済的な貸し借りや権力闘争の一形態のように見せかけているのだ。」 
 
  ハミル氏によると、刑務所や少年院には支配的な「セックスモラル」がある。 
 
  ・相手にアナル・インターコースを強いる男は、ゲイではない。強いられる男のほうがゲイなのだ。 
  ・自分の性器を別の男に吸わせる男は、ゲイではない。吸わされる男のほうがゲイなのだ。 
 
  このようなモラルによれば、襲う側はゲイではないことになる。 
 
  「彼らはいざ出所すると、だれもが自分のしてきた行為に対する汚辱の念に圧倒され、その憂さ晴らしにゲイ・バッシングに向かうのである。マッチョ的なポーズによって自分の真の姿を隠蔽しようとするのは、なにも彼らだけに限ったことではあるまい。」 
 
■ピート・ハミル著「アメリカ・ライフル協会を撃て」(高見浩訳 集英社) 


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