2012年01月12日19時52分掲載  無料記事
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検証・メディア

日本のメディア・出版界に聞く−2 英「エコノミスト」東京支局記者、「日本国民を裏切ったのは・・・」

 英ニュース週刊誌「エコノミスト」東京支局記者ケネス・クキエ(Kenneth Cukier)氏に、東京事務所で話を聞いた。今回はその2(最後)である。(小林恭子) 
 
―3月の東日本大震災の発生で、現地に飛んで取材をしたこと、大きな衝撃を受けながら原稿を書いたことを聞きました。その後、東京に戻ってからの報道はどんな感じになりましたか。 
 
クキエ記者:東京に戻ってからは、震災の影響がどうなっているのかを書くことになりました。その後、私たちは東北に何度も戻りました。トリックス支局長は破壊された都市のほとんどをたずねました。避難所を全部回り、第一原発から2-3キロのところまで行きました。 
 
 今回の震災は、日本の歴史にとって画期的な事件になりましたが、ここで強調しておきたいことがあります。それは、この震災についての最も驚くべきことが、ここ東京で起きていたということです。 
 
 この事務所から霞ヶ関まではタクシーで5分ほどです。その霞ヶ関の愚かさ、政治階級の愚劣さ、日本国民のニーズにこたえることができない無能さが、震災を通じて表面化しました。国民を失望させました。メディアも例外ではありません。国民は官僚、政治家、メディアが自分たちを裏切ったことを知っています。現状に適応することができなく、是正することもできませんでした。この震災は、こうした人々をテストする機会でした。 
 
 日本の中の変化はゆっくりと起きるので、官僚、政治家、メディアが本当に現状に適応できるようになれるのかどうか、明確ではありません。しかし、官僚、政治家、メディアはかなり非情だったと思います。今後、日本国民の期待にこたえることができないとすれば、深刻な問題に発展すると思います。 
 
 また、経済団体はすぐに政治階級に連絡をつけて、エネルギー市場を変えさせないようにするでしょう。独占的状況にあるエネルギー市場は日本国民を裏切っています。日本人は裏切られたことを知っています。若い年代の人たちは、物事を変えたいと思っています。 
 
ー日本に良い意味での変化が起きると思いますか? 
 
 日本は世界の中でも最も重要で、文明が進んだ国の1つです。芸術、文化、国力、知性、優れた先端技術を持っています。こうしたものは消えません。資産を国民全員が平等に共有することはできなくなるかもしれませんが、日本は依然として地球上の文明化の動きの中心的存在ですよ。 
 
―世代が変わらないと、なかなか変化が起きにくいのではないでしょうか。人口構成の要素も影響しているのではないでしょうか。若い層にはなかなかチャンスが与えられていない感じがしています。 
 
 確かに、私もそうは思います。日本社会全体で見ると、それほどいい状態というわけではない。日本は2つの層に分かれる社会になっていくと思いますーもう既にそうなっているのでしょうが、これがもっと進むと思います。ギャップが大きくなる。古い日本と新しい日本に分かれる。新しい日本は現代的で、地球全体につながっており、豊かです。古い日本は貧しく、内向きで、経済もうまく行かない、と。 
 
―前向きの動きが起きていると思いますか? 
 
 起きていると思いますよ。国民は先ほどの既成組織が自分たちを裏切ったと感じています。日本を変えたいと思っています。しかし、おそらく、既成の組織を通して変化を起こそうとしているのかもしれません。 
 
 政治で言えば、政治などどうでもいいと考える人が増えています。企業に関しても、どうせ変わらないだろう、と。しかし、どういう方向で変化を起こしたいのか、日本国民自身がまだ分かっていないのではないでしょうか。 
 
 国民は、変化を起こしたいとは強く思っているーーもっとグローバルに、もっと市場主義の要素を導入し、自分の人生を自分でコントロールするようになりたいと思っている。 
 
 現在の日本では、国民が自分の人生を所有していないと思っているのではないでしょうか。学校に行く年齢のときは、学校が自分を所有している。従業員のときは、雇用主が自分を所有しているのです。 
 
 ただ、地震で日本がいかに変わったかを語ることができるのは、今から10年か20年後になるのかもしれません。いまではない感じがします。私は日本の将来に関して楽観的ですが。 
 
―日本にはどれぐらいいらっしゃるのですか? 
 
 もう4年半です。 
 
―米国のご出身ですか? 
 
 国籍はそうです。 
 
―日本のメディアについてどう思いますか。例えば米国と比べてどうでしょう? 
 
 どこも完全なメディアを持っている国はないですね。日本人のジャーナリストたちに会うと、皆さん非常に優秀です。自分がやっていることに非常に心を傾けています。 
 
 しかし、組織としてみると、まるで19世紀のやり方をしている感じがします。日本のメディアは日本国民を裏切っているのだと思います。つまり、「自由なメディア」がやることは、権力の監視です。日本のメディアはこれを実行していません。やっているふりをしているだけなのです。自分たちのことを「フリー・プレス(自由な新聞)」と呼ぶなんて、本末転倒といってよいレベルです、偽りの行為です。権力者の速記者になっているだけなのですから。 
 
―この部分はオフレコの発言でしょうか? 
 
 いいえ、違います。喜んで今言ったことを繰り返します。 
 
 といっても、この類に入るのはすべてのメディアではありません。もちろん、例外はあります。個人のレベルでは、どのジャーナリストもすばらしい。優れた報道をしているメディアもあります。しかし、主流のメディアに関しては、「自由なプレス」がその責務として行うような形では、社会に仕えていないと思います。 
 
―何故「エコノミスト」は世界中で部数を伸ばしているのでしょうか。独自の視点を出せる秘密は何だと思いますか? 
 
 まず、第1の要素として、「エコノミスト」は普通のメディアでは適合しないような人を惹きつけます。ジャーナリストだったら、何でも簡単に説明する能力が求められますが、「エコノミスト」は強い好奇心を持ち、簡単に説明してしまいたくないと思う人を惹きつけます。読者に記事を読んでもらうには、物事の複雑さをやや緩和して書くことが必要なことは知っていても、物事の複雑さを楽しみ、きれいに書かれた文章を作るために時間を割き、もっと時間をかけて考える人が集まる場所なのです。 
 
 週刊の発行物なので、すぐに書かなければならないというわけではありません。また、書くスペースが小さいので、簡潔に書かなければなりません。記事は分析記事で、高い水準を維持する必要があります。こうしたことが全てが「エコノミスト」ならではだと思います。 
 
 さらにもっと重要なのは、「エコノミスト」には非常によい同僚たちがいます。家に呼んで家族とともに過ごしたいと思わないような同僚は1人もいません。 
 
―それは珍しいですね。 
 
 本当に珍しいです。私はアメリカ人ですし、オックスフォード大学に行ったわけでもありません(注:「エコノミスト」には同大学の卒業生が多いといわれる)。ほかの会社で働いた経験もあります。典型的な「エコノミスト」のジャーナリストではないわけです。 
 
 聖人君子である必要はありませんが、英国式のマナーがありますよね。たとえ何が起きても、気持ちよく人とつきあうことを重要視する文化です。アメリカ人には同じような考え方はありません。フランス人は反対でしょう。もし自分の気分がくさっていたら、それを表現し、同僚にぶちまけるのが自分の権利だと思っているようです。 
 
 でも、英国は違います。議論をしていて、自分が相手の論旨に同意しないときはどうするか?「多分、あなたの言っていることは正しいかもしれないが」とか、「ほかの意見も聞くに値するのではないか」というわけです。非常に礼儀正しいやり方で、同意しないことを伝えてくれます。 
 
 最後に、署名原稿の形を取らない点があります(注:英米では署名原稿が一般的だが、「エコノミスト」では記事に特定の署名がつかない)。このため、ほかのメディアで働いていた場合に芽生える虚栄心が、少し失せるのです。例えば「ニューヨーク・タイムズ」だったら、たくさんの著作があるコラムニストや、官邸記者、外交問題の記者だったら、自分の名前がついた記事が1面に載るわけですから、自分が特別な人間だと思ってしまうでしょう。 
 
―自分もそうなりたいという気持ちはないのでしょうか? 
 
 ジャーナリストだったら、誰しもがモーチベートされたいと思っていますよね。でも、(無記名の記事を出すことで)そんな感情や虚栄心を昇華させて、もっとより良いことのために書こう思えるようになってくるはずです。自分自身を検証することもできます。自分の名声のために記事を書くわけではないことが分かってきます。ほかの記者や編集者と一緒に一つの原稿を作り上げる過程で、原稿の質が上がっていきます。 
 
 署名を失う代わりに、もっと純粋に書く事ができるのではないでしょうか。誰が書いたかよりも、何を書いたかの方が重要だと思っています。(終) 


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