2012年01月18日14時01分掲載  無料記事
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福島から

【福島・東西しらかわ農協の挑戦】(上)7000か所で土壌の放射線測定、20ベクレル以上のコメは出荷停止した 

 メディアでも報道されず、都市に住むほとんどの人に知られていないが、原発事故と放射能禍の只中で、地域に住むさまざまの人たち、諸組織がそれぞれの場で生きるための懸命の努力を続けている。そのひとつの事例をJA農協にみた。福島県中通りの南に位置する東西しらかわ農協。組合員約7000人、コメ17億円、野菜16億円、畜産5億円を売り上げていた同農協は独自検査をもとに独自の基準を設け、1キロ当たり20ベクレルを超えたコメは出荷していない。そして今、春の作付けに向け、管内7000か所の田畑の土壌の放射線量を計るマップ作りに取り組んでいる。同農協の鈴木昭雄組合長にインタビューした。(聞き手:大野和興) 
 
 
◆放射能は人災なのです 
 
 同じ震災を受けても、福島が宮城や岩手と違うのは、放射能被害です。放射能は怖いものである。そうは言っても、私たち福島の者には、受け入れざるをえない状況にあります。私どもは、ここから逃げるわけにはいきません。どうしたら頭の上の黒い雲を払しょくできるのかということに努力しなければならない。原発事故後しばらくの間の状況を申しますと、4月頃には、「市場に持ってきてくれるな」と言われました。持ってきても全部廃棄するよ、価格は1円だよ、という状況でした。 
 
 福島県の人びとは、何をしたというのでしょうか。放射能は、人災以外の何ものでもありません。生産者のプライドを守るために売らなくてはいけません。売るためには、消費者に分かってもらわなくてはなりません。「何でこんなことになっちまったんだ」と、毎日毎日悩んでいます。安全安心、有機栽培、自然栽培を続けてきたのですが、すべてが福島という名前の前には通用しなくてなってしまいました。 
 
◆自主基準で20ベクレル超えは出荷停止した 
 
 そんな状況を跳ね返そうと、福島の農協は出来る限りのことをやってきました。その上で2012年の作付けに向け、私どもの農協の管内では田畑7000か所で自前の土壌検査などにも取り組みます。みなさまの一番関心の高い食の安全への取り組みから報告させていただきます。 
 
 コメについていいますと、県が旧市町村単位に二カ所ずつ調査しました。私ども東西しらかわ農協管内では四、五十になりますか。それでは不十分だということで、私どもでは三〇〇ヶ所ほど計りました。いずれもND(検出せず)となり、出荷できるということで進めてきました。計測機器は農協でかなり高性能なものを思い切って購入しました。自然界にある放射性カリウム40を分離できるもので、15分かけて20ベクレルまで計れます。 
 
 農協が出荷するものはその範囲までで、20ベクレルを越えて放射能が計測されたものは出荷していません。といっても、農家には生活がありますから、コメ代金は農協が立て替えて農家に払っています。これに加えて、出庫するトラック単位でも計っています。一台のトラックに二品種とか三品種とか積む場合もありますから、その場合は三個体ということで検査します。 
 
◆春耕に向け管内7000か所で土壌検査 
 
 土壌については、この春の作付け向け、管内7000ヶ所の水田、畑で、土壌中の放射線検査をやります。管内には水田が約5000ヘクタール、畑が2000ヘクタールありますから、一ヘクタールに一ヶ所ということになります。測定方法やサンプルの取り方などに関しては東京農業大学の指導を得ながら土壌汚染マップをつくろうという取り組みです。雪が降ったり、土壌が凍結したりという問題はありますが、ぜひ次の作付けには間に合わせたいと考えているところです。 
 
 ほとんどは基準値以下だとは思いますが、生産者の不安は出来るだけ取り除かなければなりません。現に農協に「うちを是非計ってほしい」という声がたくさん寄せられています。これまでの行政の取り組みは、対症療法というか、汚染された場所に駆けつけて処理するということできています。私どもは体質からというか、面的に根本的なところからやっていかなければいけないと思っているのです。(続く) 


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