2012年01月25日09時13分掲載  無料記事
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コラム

養殖にされる人間    村上良太

   西部劇の時代にエイリアンが飛来する、という奇想天外なハリウッド映画「カウボーイ&エイリアン」を見た。奇想天外なのは宇宙人がはるばる銀河の彼方から金を採掘に来る、というその動機であり、さらに驚くのは人間を生け捕りにする彼らの動機が金鉱で強制労働させることにあるのではなくて人間を養殖にして彼らの食料源にするところだ。 
 
  人間が生け捕りにされて養殖にされる、というコンセプトはスピルバーグ監督のSF映画「宇宙戦争」でも描かれていた。原作はH.G.ウェルズだが、「宇宙戦争」の怖さにはスピルバーグの独特の感覚が出ていたと思う。地球の食物連鎖の頂点に立った’マスターレース’たる人類が突如出現したさらなる強者の餌食にされてしまう。しかも、生きたまま檻に繋がれ、食べられる日が来るまで恐怖の日々を過ごす。 
 
  スピルバーグの映画の怖さにはナチ時代に’マスターレース’と自称するナチスによって強制収容所に閉じ込められ、殺されるのを待つしかなかったユダヤ人の恐怖が込められているように思われる。スピルバーグ自身もユダヤ系アメリカ人である。その恐怖感はDNAの複製技術を用いて蘇生された恐竜が人間を襲う「ジュラシックパーク」でも描かれていた。 
 
  肉食の恐竜たちが食料源とする人間を探して徘徊する中、子供が息を潜めて物陰に隠れているシーンである。恐竜が近くを通るくだりは息をのまされる。これはナチ時代に何とか生き延びようとするユダヤ人を描いた「シンドラーのリスト」の1シーンとまったく同じ演出だった。ナチスのユダヤ人狩りから逃れるため、ユダヤ人の少年が物陰に隠れて息を潜めているシーンである。その脇をユダヤ人が隠れていないか、ドイツ兵が探しにやってくる。恐竜とナチスが観客に同質の恐怖感を掻き立てる。 
 
  「カウボーイ&エイリアン」も「宇宙戦争」も「ジュラシックパーク」も一見奇想天外なSF映画であり、金をどっぷり使ったハリウッド大作である。しかし、そこにはある種のリアリズムが脈打っている。人類が戦う宇宙人や恐竜たちがどこか人間臭いところである。しかし、人類はなかなかこのようなリアルな自画像を描くことができない。「カウボーイ&エイリアン」もスピルバーグが製作総指揮を執るドリームワークスの製作だったことは後で知った。 
 
■「カウボーイ&エイリアン」 
http://www.cowboy-alien.jp/ 
 
■アジアの時代を予感させる米パロディ短編映画監督フレディー・ワン 
http://www.youtube.com/watch?v=71YsRO6G7Ks&feature=related 
  フレディー・ワンが「カウボーイ&エイリアン」をパロディ超短編にしている。 


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