2012年01月28日01時14分掲載  無料記事
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小谷賢著「インテリジェンス」(ちくま学芸文庫)

  小谷賢著「インテリジェンス〜国家・組織は情報をいかに扱うべきか〜」は現代のインテリジェンス組織について包括的にレポートした本です。’インテリジェンス’という言葉は最近、巷に出てくるようになりましたが、細かい断片的なエピソードが多く、全体像について書かれた本はあまりなかったと思います。そういう意味で貴重な1冊です。 
 
  映画「007」シリーズなどで出てくるスパイの話は第6章の「秘密工作」に重なりますが、インテリジェンスのほとんどは「オシント」(Open Source Intelligence)と呼ばれる新聞やネット、学会などの公開情報の分析にあると著者は指摘しています。それ以外に人間を介する情報収集である「ヒュミント」や通信傍受などに基づく「シギント」などがあるとされます。 
 
  著者によると、アメリカのインテリジェンスは90−95%をオシントに、残りの5−10%をヒュミントやテキント(シギントなどを含む、技術を用いる情報)に依存しているそうです。しかし、金のかけ方の比率はまったく逆で、5−10%の方に年間500億ドルもの予算と膨大な人員がつぎ込まれているそうです。一方のオシント関連予算は100分の1以下の5億ドル未満だそうです。 
 
  個人的に本書で興味深かった話は第4章の中の「情報と政策の距離」でした。小谷氏はこう述べています。 
 
  「情報分析の正確さを保証するのは、インテリジェンスの政治的な中立性である。」 
 
  この原則が守られないと政争に巻き込まれてインテリジェンスが捻じ曲げられたり、利用されたりすることになります。イラク戦争を垣間見た私たちは近年のインテリジェンスの失敗によって起こされた甚大な被害と惨状を思い出すことができるでしょう。 
 
■小谷賢(1973−) 
防衛省防衛研究所戦史研究センター主任研究員 
2004年には英国王立安全保障問題研究所(RUSI)客員研究員。著書に「モサド」「イギリスの情報外交」「日本軍のインテリジェンス」など(本書の著者紹介より) 
 
■英国王立安全保障問題研究所(RUSI) 
http://www.rusi.org/about/ 
■IAEAのある変化 イラン制裁の推進力 
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