2012年02月02日11時53分掲載  無料記事
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中国

【中国経済開発・ある断面】高効率農業と農的生活のはざまで(上) 農民増収プロジェクト  安藤丈将  

 二〇一一年一二月一二〜一四日、香港の嶺南大学と中国の人民大学の主催で、「持続可能性のための南・南フォーラム」(South South Forum on Sustainability)という会合が開かれた 。この会合の一環として、世界各国からやって来たアクティヴィストや研究者たちは、三つのグループに分かれ、中国の経済開発の現状を見るフィールドツアーに参加した。私は、中国西南部のツアーに参加し、重慶市と四川省を訪問した。 
 
◆三農問題の現在 
 
 中国西南部のツアーは、重慶市の各地を回り、その経済改革の現状を見ることから始まった。重慶市の経済改革は、農村人口が住民全体の約半数を占めるため、必然的に農村対策としての性格を色濃くしている。中国では、農村、農業、農民を指す「三農問題」が、今では国家的な課題となっている。 
 
 一九七〇年代後半の改革開放以降、沿岸部を中心とする大都市が急速な経済成長を遂げる中で、都市と農村の格差が拡大し、農業は生業として成り立たず、農民は社会保障を十分に受けることができないまま、生活難に直面している。とくに重慶のような内陸部の農民は、重慶の都市部、あるいは豊かな沿岸部に出稼ぎに行くことが多い。この「農民工」と呼ばれる出稼ぎ労働者は、労働者としての基本的な権利を保障されず、最低の賃金と労働条件のもとで働いている。こうして農民の不満が高まる中で、胡錦濤は、二〇〇三年に国家主席に就任して以来、「和諧社会」をスローガンに掲げ、都市と農村との間の貧富の差をなくすことを目標にしてきた。 
 
 緊急の課題である「三農問題」の解決策として、重慶市政府は、二〇一〇年二月二一日に、二〇一二年までの三年間で農民の収入を増加させると宣言した。重慶市による経済改革は、「重慶モデル」と呼ばれ、今では中国全土で広く知られるようになっている。 
 
◆資本主義的農業の推進 
 
 この重慶市にある垫江県は、重慶の市街地から北東に一二〇キロ離れた場所にある。私たちは、この垫江県内の普順鎮という小さく、のどかな村を訪れた。この村の「重慶清水湾良種鵞業有限公司」は、二〇〇五年に設立され、重慶市政府の重点支援を受けている。良種鵞業有限公司では、多数のガチョウを飼育しており、このガチョウ工場の中では、約五〇名のスタッフがガチョウを管理したり、専門的な検査をおこなったりしている。 
 
 この会社では、同じ種類のガチョウを、同じ餌を使って育て、同じやり方で病気を防ぎ、同じ方法で販売することを原則としている。こうして画一的に育てられたガチョウは、食用として処理されるか、あるいは卵が市場に売りに出される。普順鎮の住民は、専業協同組合を組織し、自分の都合に合わせて羽化したガチョウの子を持ち出して自分の家で育て、大きくなったガチョウを会社に売っている。このように、ガチョウ工場で仕事をすることのできる人数は限られているが、それ以外の住民にも収入を得る機会がある。 
 
 良種鵞業有限公司のような企業の誘致の成功は、「三農問題」解決の鍵と見られている。それゆえに、重慶市でも、県、郷、鎮といった地方政府の間で、企業誘致をめぐる激しい競争が繰り広げられている。私たちのツアーに同行した重慶市の担当者によれば、地方政府の評価は、基本的にはGDPや歳入といった経済的な指標で決められる。この基準のもとでは、優れた政府とそうでない政府との差は、明らかである。公共部門であろうとも、経済競争から無縁ではいられない。すでに重慶市の増収計画は実を結び、農民の収入が上がっているという報告もなされている。こうした光の影に私が垣間見たのは、上から下まで経済競争の網の目が張り巡らされていくという現実である。重慶市の経済改革は、資本主義的な経済原理が末端まで浸透していく過程でもある。 


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