2012年03月18日12時23分掲載  無料記事
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「アメリカ・ジャーナリズム」(下山進著 丸善ライブラリー)

  文藝春秋社で雑誌の記者をしていた下山進氏は1992年、モービルフェローの奨学生となり、ニューヨークのコロンビア大学ジャーナリズム科に学んだ。現役ジャーナリストとしてある研究テーマを追いかけるための資金を得たのである。 
 
  下山氏が選んだテーマは3つ。.▲瓮螢のメディアの経営的な基盤 ▲Εーターゲート報道以降のアメリカの調査報道 真実と人権のバランスをどうとっているか。アメリカの報道がどう変化していたか。米社会全体がどう変貌しつつあったかがこの本から見えてくる。 
 
  本書が世に出たのは1995年のことであり、冷戦終結からわずか4年だ。だが、早くも下山氏はアメリカ社会の中流層の没落と新聞メディアの衰退との関係を示した。また、その背景が80年代に米社会で起きた一連の変化にあることが示されている。 
 
  「メディアアナリストのジョン・モートンによれば、1950年にはアメリカの家庭は一般家庭あたり1.2紙の新聞をとっていたが、1992年にはこの数字は0.6紙にまで落ち込んでいる。ようするに市場は半分に縮小してしまったのだ。」 
 
  その背景にはダイレクトメールという広告が増えており、新聞広告が減少していたこと、ケーブルテレビの発展といったことも指摘されているが、より深刻だったことは米社会で貧富の二極化が進み、中流が減少していたことがあげられている。 
 
  「80年代という時代に代わったのは新聞だけではなかった。実はアメリカという社会そのものが大きく変わった時期だった。 
  アメリカの労働者の実質賃金を、戦後から現在まで追ってみると非常に面白いことがわかる。アメリカ労働統計局(Bureau of Labor Statistics)のデータによれば、1970年に週給298ドルあったアメリカ人の平均実質給与は、1992年には255ドルにまで目減りしてしまっている(1982年の貨幣価値で換算)。」 
 
  80年代にレーガン政権のもとで規制緩和が次々と実行された。その結果、労働者の実質賃金が大幅に下がり、製造業は海外に生産拠点を移した。職を失った製造業の人々の多くはサービス業に移っていったが、「このサービス業というのは「ウォルマート」といったスーパーマーケット、「マクドナルド」といった外食産業など、これまでなかったビジネスすなわち新産業である。しかし、問題はこの移っていった先の新産業なるものの給料は馬鹿みたいに安い給料であることだった。」 
 
  「こうして、80年代のアメリカの連邦政府の政策転換=累進課税の緩和、規制緩和、貿易の自由化は、アメリカ社会を富めるものと貧しいものに分断していったのだが、この社会地図の変化が、新聞の経営、報道に大きな影響をもたらしたのである」 
 
  下山氏は具体的にそのプロセスがどうだったかを検証しているが、優れたレポートである。 


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