2012年03月28日21時10分掲載  無料記事
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検証・メディア

英大手メディア ソーシャルメディアの活用進む −ガイドライン作り発信

 英大手メディアは、インターネット上で参加者が情報を提供・交換・共有するサービス、「ソーシャルメディア」の活用を活発化させている。ネットが情報収集の大きな場として成長する中で、リアルおよびにバーチャルな友人・知人による口コミが情報の収拾選別の方法として広まってきたことが背景にある。速報性に優れることで大きな注目を浴びる短文投稿サービス「ツイッター」の例を中心に、これまでの経緯やガイドラインをまとめてみた。(ロンドン=小林恭子) 
 
 以下は「新聞協会報」(3月27日付)に掲載された筆者の原稿に若干補足したものである。 
 
―ツイッターで一報 
 
 英国のメディアがウェブサイト上に日記形式の「ブログ」を取り入れたのは2003年頃である。 
 
 翌04年初頭には米国でソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の元祖ともいうべき「フェイスブック」が始まった。これは「友達」であることを互いに承認する形でバーチャルな友人網を作り上げるサービスで、現在までに世界中で8億人が参加する。 
 
 06年、米でサービスを開始したツイッターは、利用者が140字以内の短文で投稿すると、その内容が複数の「フォロワー」(情報を追う人)たちにいっせいに発信される仕組みだ。 
 
 フェイスブックは相互承認を必要とする友人同士という閉じられた空間での情報交換であったが、ツイッターは承認を受けずに、情報発信者を「フォローする」(発信者の投稿内容を自分のサイトに反映させる)ことができ、原則オープンな空間での情報提供・共有ツールだ。 
 
 ツイッターは、情報の収集や発信などジャーナリズムのツールの1つとして、英国では頻繁に使われている。その威力を発揮したのは、昨年夏のロンドンやイングランド地方各地での暴動だった。 
 
 衛星放送スカイ・ニュースのマーク・ストーン記者は、次に暴動が発生しそうな場所の情報を自分の携帯電話の画面から「同僚によるツイッターで知った」。現場に駆けつけ、状況を携帯で撮影し、動画を編集部に送信。撮影から編集部に送信するまでに要した時間は「10分ほどだった」(3月7日、ロンドンのイベントでの発言)。 
 
 同事件の取材で、最初の5日間、現場では「紙のノートにメモを取らなかった」、とガーディアン紙の記者ポール・ルイス氏が語る(同イベントで)。 
 
 ルイス記者は報道の最初の一歩としてツイッターを使うという。「見たことをすぐに発信する。事件が進展するにつれて、次々と細切れに情報を出してゆく」という。「長い記事は後で翌日用に書く」。 
 
―個人と組織の兼ね合い 
 
 個人同士のコミュニケーション進展のための媒体であるソーシャルメディアを、組織で働く記者が利用する場合、「個人による情報発信」という面と、「組織の一員としての情報発信」という面が出てくる。 
 
 2つの面の兼ね合いについて、スカイ・ニュースのストーン記者は、ツイッターでは「記者としての情報を出しており、日常の個人的な生活に関してはつぶやかないので問題がない」と述べた(同イベント)。 
 
 各メディアのソーシャルメディア用のガイドラインを見ると、ガーディアン紙は、ブログやネット上で読者から寄せられた意見について、記者あるいは編集者が「建設的な意見交換に従事する」「事実の根拠をリンクで示す」「事実と意見の違いを明確にする」ように、と規定する。 
 
 同紙ではアラン・ラスブリジャー編集長が率先してツイッターでの情報発信に従事する。内容は主に紙面で扱うトピックに関するものだが、09年には国際石油取引会社による汚染物廃棄をツイッターで暴露した。 
 
 民放チャンネル4のニュース番組「チャンネル4ニュース」では、記者全員がツイッター・アカウントをもち、ブログを書く。 
 
 「自分らしさを維持すること」を記者らに伝えているという(ウェブサイト担当者アナ・ドーブル氏談)。記者のツイートを発信前に確認することはない。指針とするのは、「放送中に言えないことは、ネット上でも言わない」だという。 
 
 スカイ・ニュースの内部向けガイドラインによると、同ニュースの記者としてのアカウントを使用時、「自分が関与してないニュースについてはツイートしない」「他局のニュースを再発信(リトイート)しない」(その情報の真偽が確認できないためと、自局の編集過程を経ていないため)のほか「スクープ情報は最初に編集デスクに連絡し、その後にツイートする」などの規定がある。 
 
 スカイ・ニュースはツイッターで数多くのスクープ情報を出してきた過去を持ち、自局以外の情報源から集めた情報を再発信することで、多くのフォロワーを集めた著名編集者がいることもあって、こうした規定が2月7日、ガーディアン紙を通じて暴露されると、「記者の口を封じる」「自由な情報の拡散を阻害する」などの反発がツイッターやブログ界で多数出た。 
 
 BBCは詳細なガイドラインとソーシャルメディア参加者の名前などの情報をウェブサイト上に公開している。 
 
 ツイッターに関しては、個人用アカウントとBBCニュースの一員としてのアカウントについてのガイドラインが分かれる。個人用のアカウントではBBCの評判を落とすことがないよう、「分別ある」振る舞いをすること、アカウント名にBBCを入れないこと、発信内容は個人の意見であることを明記すること、と定めている。 
 
 公式アカウントの場合、BBCニュースのウェブサイトのコンテンツの1つとなる。所属する部門の上司と相談の上、ソーシャルメディアの専任編集者からアカウント名をもらう。不偏不党のBBCの編集方針に沿ったツイートが奨励される。スクープの場合は、ツイッターで公的空間に流す前にBBCの編集部に情報が流れるようにする、という項目が2月8日、追加された。 
 
 一連の規定は、ツイートによる情報発信の速度を遅らせる(=スクープ発信が遅くなる)、SNSに特有の情報発信者の個人的な視点が阻害される(この点が失われると、ツイートがメディア企業の単なるPRになってしまう)などのリスクがある。 
 
 記者の見立てで瞬時にネット上で情報を発信できるという特徴を持つツール、ツイッターの取り扱いを含め、ソーシャル・メディアのガイドライン作りには、今後、紆余曲折が見込まれる。(ブログ「英国メディア・ウオッチ」より) 


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