2012年04月30日23時02分掲載  無料記事
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福島から

【核を詠う】(番外編)「三春花見まつり」交流会に参加、原発ゼロへの大きな一歩を踏み出す現地農民の自然エネルギー活用の取組みに感動  山崎芳彦

 「脱原発をめざす首長会議」が原発立地地域の茨城県東海村・村上達也村長も含め35都道府県の市区町村長70人の参加で設立された4月28日、まさにその日に、「三春の滝桜」で有名な福島県三春町で意義深い「三春花見まつり・交流会」が開催され、筆者も参加した。 
 
 三春町芹澤農産加工グループ、滝桜花見まつり実行委員会(東京)、福島原発被災地「農と食」再生ネットワークの主催、全国各地の各種団体の協力で開かれた「花見まつり」は、この日を待っていたかのように満開の滝桜や各所に咲き誇る桜を楽しんでから、三春町貝山集会所に集合し、地元の農家女性手作りの昼食をいただき、関東各都県からの参加者(早朝東京駅前からバスで、その他自家用車で現地集合の人、長崎から飛行機で来た参加者もいた)と地元三春町及び福島県内の農業者団体と農民の交流集会を開いた。(正確な参加者数は確認しなかったが百名近かったと思う) 
 
 交流会は大野和興さんの総合司会で進行、自然エネルギーによる農産加工に取り組む「芹澤農産加工グループ」代表の会沢テルさんの歓迎あいさつ、「JAたむら」からの3・11以後の地域農業についての報告、さらに「県有機農業ネットワーク」代表の菅野正寿さんから、政府・農水省が田植直前になって打ち出してきた稲作農家の作付けに関する方針が、実態に合わない無理難題ともいうべき放射能対策の押し付けで、農家の生産意欲を失わせ、農業破壊に及ぶ不条理な内容であることを具体的に指摘し、農水省、関係機関に「作付制限ではなく福島の農家の生産意欲への支援を求める要望書」を提出し交渉を行なっていることが報告され、福島の農業の再生についての苦悩と危機感を感じさせられた。 
 
 福島原発事故、放射能に痛めつけられながらも、懸命に放射能汚染の低減に取り組み、成果を上げつつある農業者に対する政府の姿勢は、TPPとも絡んでの農業政策の本性をあらわしていると、菅野さんの話を聞きながら、筆者は思った。国策として原発を推進し、第一次産業の衰退・破壊をもたらしてきた歴代政府の農政が、福島原発事故に苦しんでいる農家農民に、いまこのとき、さらに農業破壊の政策をむきだしに打ち出していることへの怒りが湧いた。福島の農業だけの問題ではなく全国の農業生産者と、生きるためにその恵みを得ている生活者すべてにとっての問題として受け止めなければならない。 
 
 全体での交流会の後、三つのグループに分かれて各地からの参加者と三春をはじめとする福島の人々との懇談・交流の場も活発な意見交換で理解を深め合い、盛り上がった。 
 
◆自然エネルギーを活用する芹澤農産加工グループの取組み 
 
 この日の「花見まつり」交流会の主催者でもある芹澤農産加工グループの自然エネルギーによる農産加工への取り組みに、筆者は深い共感、期待を持った。 
 
 「原発ゼロ」はスローガンではなく実践の課題であることを見事に明かしてくれている。同グループの取組みの経過は、当日資料として配られた「この一年の振り返り」(西沢江美子・福島・農と食再生ネット代表)に明瞭に示されているが、感動的だ。 
 放射能汚染の実害や「風評被害」に苦しみながら、悲喜こもごも、曲折の経験を経ながら、以前は個人で、あるいはJA女性グループとしてやっていた農産加工の仲間が集まって形成した地域グループが構想したその内容は、質的に豊かで展望のある中身を持つ。 
 
 土に生きる農業生活者が地域を軸につながり、消費者グループや連帯できる団体、仲間を増やして自らの力と支援者との共同の道(資金カンパその他、原発と農・食を考える場)を作り、「原発はいらない」の意思を生産とくらしの足元から具体的な形としてつくり発信しつつある。 
 
 農山村を自然エネルギーの基地として経済活動に結びつけ、農業生産のエネルギーを自給する農民発電(太陽・バイオマス・風車など)のモデル事業として位置付けた実践であり、現地に太陽光発電をエネルギーにする農産加工場をほぼ作り上げている。始動のときは遠くない。 
 
 東京発の参加者は、帰路の途中、農産加工場になる場所を見学したが、広くもなく、民家を少しだけ改造した建物と、小高い位置に据えつけられた太陽光発電パネル(出力5kw/時、余った電気は東北電力に売却)にぎっしり、しかも柔軟に詰まっている知恵と努力を思うと、いま実りつつある果実の豊かさに感動させられた。 
 
 現地の人々も共同者も、誰も大上段に振りかぶった物言いも振舞いもしない。しかし、この一年の道筋を思えば、土とともに生き、命をつなぎ、希望を組織化して進もうとしている現地の農業者と共に、原発の時代を乗り越え、戻らない新しい農業文明への希望を持って全国に語り告げようとしている人々の現在と未来が、三滝の滝桜の輝くように咲き満ちる情景と重なって見えた。 
 
 この花見会は、筆者をも包みこんでくれる明るい明日を、実感を持って見せてくれる会であった。短歌作品を読むだけでなく、つたない歌を詠うだけでなく、もっと何かできることがあるのではないかと、筆者に問いかける声を聞いた思いがした、そんな一日だった。 
(農産加工グループに関する記述のほとんどは、西沢さんのまとめた資料に拠るが、誤った部分があれば筆者の責任である。) 


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