2012年05月05日18時29分掲載  無料記事
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福島から

太陽光発電で女たちの農産加工を! 原発の足元で「原発いらない」を発信、  大野和興 

 5月5日、全国の原発がストップした。各地で原発廃炉に向けてのさまざまの行動が取り組まれているが、同時に地域ではくらしや生産活動の足元から「原発に頼らない」世界をつくろうという試みが地道に続いている。福島県三春町では地元の農村女性グループの“小さな農産加工”を太陽エネルギーでまかなおうという実践が取り組まれ、間もなく発電が開始される。市民グループ「福島・農と食再生ネット」(西沢江美子代表)が村の女たちと取り組んでいるもので、原発の足元からの「原発いらない」の発信となっている。 
 
 三春町は福島第一原発からほぼ50キロの地点にある。阿武隈山系がつくるなだらかな丘陵地帯の一角にあり、郡山市、田村市と境を接している。原発爆発直後の風向きと地形の関係で、近隣地域と比べ放射線量は低いが、それでも農作物や農産加工品は敬遠されて売れ行きは落ちている。 
 
 女性や高齢者の農家がになっている”小さな生産・加工・直売“には観光客の激減というもう一つの打撃が加わった。日本三大桜のひとつである三春の滝桜を訪れる人が激減したのだ。毎年春にはお花見の人たちが数十万人訪れ、農家の女性たちはその観光客を目当てに多種多様な作物やお花を作付けし、それをもちやまんじゅうその他のものに自家製加工して、直売所などで販売していた。花見客の激減でせっかく準備したそれらの産物がはけなくなってしまったのだ。 
 こうした“小さな生産・販売・加工”に取り組んでいるのは60歳代、70歳代の高齢女性が多い。わずかな国民年金と合わせて、暮らしを支えてきていた。その暮らしを原発が奪ってしまったのだ。 
 
 そんな中で「福島・農と食再生ネット」(以下、再生ネット)は、3・11から3週間後、首都圏のNGOや市民グループと手を組みながら、地元の農業女性とのつながりを強め、2011年夏にはこれまでここに生産から直売、加工の取り組んできた女たちが地域を軸に集まり、芹澤農産加工グループ(会沢テル代表)を立ち上げた。中心は60歳代、70歳代の女性とその連れ合い13人で構成されている。72歳になる会沢代表は農村女性の運動の先頭で活躍してきた人で、原発事故の後、それらの役職を引いた彼女は、もう一度地域から同じ農業女性仲間と、地域で生きるための活動を始めたのだ。会沢さんは、この春三春を訪れた「再生ネット」や首都圏のNGOの人たちに次のように語った。 
 
 「原発事故のもとで、目に見えない放射能とのたたかいに疲れ、何もかも投げ出したいと皆が思っていた。しかし、私たちの活動を支える人たちに出会え、この地で、くらしてきた人たちがこの風土の中で生き、歴史を重ねて伝えてきた農のくらし、食の文化を次の世代に受け渡さなければ、と思うようになった」 
 
 放射能のもとでの生産と加工だから、安全性には十分気をつけている。三春町は原発の爆発の直後に町長の決断で40歳以下の全町民にヨウ素剤を配布、服用させた。食品の放射農検査体制もいち早く手をつけ、複数台の測定器を導入、三春を管内に持つJAたむらが導入した検査測定器を合わせ、全生産物を無料で検査し、細かい数字まで本人に知らせる体制をとっている。町の女性グループの要求に沿って、学校給食専用の測定器をいち早く整備した。町が運営し、小さな生産・加工に取り組み地域の女たちが出す生産物引き受けて直売している町運営の「三春の郷」を名付けられた直売所は、昨年の早い段階で1キロあたり20ベクレルを超えるものは販売しない方針で臨んでいる。 
 
 この芹澤農産加工グループの活動を支えるため、「再生ネット」は大型の冷蔵・冷凍庫を支援、続いて農産加工に使うエネルギーを太陽光発電でまかなおうと計画した。「原発に足元で原発に頼らないくらしをつくりたい」とこの構想を提案したのはやはり地元の女たちだった。 
 
 太陽光発電建設工事は2012年3月から始まり、5月段階ではほぼ完成、あとは通電するだけになっている。こうした冷蔵・冷凍庫や太陽光建設を支えてくれたものに、大阪の生コン建設労働組合(全日建連帯労組関西生コン支部)の存在がある。 
 同労組は2010年、139日間のストライキを組んで、大手ゼネコンとたたかい、一人平均月7000円の賃上げを獲得した。その賃上げ一年分約10万円を震災復興に拠出することを組合決定した。その支援先のひとつが、三春の女たちのグループだったのだ。「再生ネット」はこの関西生コン労働組合の支援をベースに、広くカンパを募り、建設に乗り出した。 
 
 発電所のあらましを紹介すると―― 
【芹澤農産加工グループ太陽光発電について】 
発電能力  5kw/時 余った電気は東北電力に売却 
資金  関西生コン労組からの支援金と多くの団体・個人のカンパ。 
協力  関西生コン労組/東日本大震災「つながり・ぬくもりプロジェクト」/自然エネルギー事業協同組合レクタス/北京JAC 
目的  農産加工グループの農産加工用に使う 
太陽光発電に取り組む意義 
1、 原発に頼らない日々の営み(生産とくらし)を目に見える形で作りあげる。 
2、 「原発いらない」の意思を足元のくらしから発信する。 
3、 農山村を自然エネルギー基地とし、経済活動に結ぶつけるささやかな試みでもある。農業生産のエネルギーを自給する農民発電のモデル事業と位置付ける。 
 
 かつて、農山村は食だけでなく、薪、炭で都市のくらしを支えるエネルギー生産地でもあった。原発後の時代に、食とエネルギーをもち、地域として自立することの“強み”と“豊かさ”をつくりあげる運動だと「再生ネットの西沢代表(ジャーナリスト)は語っている。 


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