2012年05月22日21時54分掲載  無料記事
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核・原子力

【たんぽぽ舎発】電気は足りる(1) 節電でなく適電、本当に必要なのは電力ピーク対策 山崎久隆

 日本全国の発電設備は10電力で2億400万キロワットもある。そのうち約4千800万キロワットが原発なので、使えるのは差引1億5600万キロワットであるが、日本で最も電力消費の多かった2001年8月のピークは1億7800万キロワットだった。(沖縄電力を除く) 
 
 これだけを見ると「足りないでは無いか」と思われるかもしれない。しかし供給可能な設備はまだある。電源開発などの卸電気事業者から買っている分だ。電源開発は火力や水力合わせて1700万キロワットの設備容量がある。なお日本原子力発電は原発しか保有していないので計算から除外する。 
 
 その他に、「特定規模電気事業」いわゆる「PPS」事業者があり、この設備容量は1500万キロワットある。 
 その他に自家発電設備の内、自社消費分以外の「余剰分」がある。これがどれだけあるのか、経産省はとっくに知っているはずなのだが、明らかにしようとしない。 
 
 自家発電設備自体は、全国で約6000万キロワットある。このうち自社消費分やPPSへの売却を除いた電力会社への供給可能量は、少なくても推定1300万キロワットほどはあるのではないかという推計もある。 
 ただし、実際に供給できるかどうかは未知数ではある。 
 
 ここで整理してみる。 
 全国で平均5%ほどの節電をしたと仮定しよう。すると、1億7800万キロワットは1億6900万キロワット程度に引き下げられる。これに電源開発から1700万キロワット供給し、さらに自家発電電力量を1300万と仮定すれば、差引電力会社が手当てすべき量は1億3900万キロワットとなる。 
 電力の全設備が1億5600万だから、設備は足りる。予備率が11%もある。 
 
 これで停電が起きるというのだったら、いったい電力会社はどんな設備運営をしているのかと疑問になる。関電のこれまでの言い分を聞くにつけ、わざと停電を引き起こしたがっているとしか思えない。ちなみに昨年の最大三日平均は1億5515万キロワットだった。 
 
◆本当に必要なのは電力ピーク対策 
 
 この最大電力需要は瞬間値だ。最も暑い日の午後1時から4時くらい、24時間ずっと巨大な発電電力量を維持する必要などない。その程度のことは経産省の資料にさえ書いてあるというのに、一日中停電するかのごとく宣伝している関電のデタラメさには恐れ入る。 
 
 設備の利用率は「負荷率」と呼ばれる。原発があった時代から、日本はおおむね60%だ。これはドイツの74%、英国の67%と比べても低く、同様の原発大国であるフランスと同じだ。なお、米国はさらに低く58.6%である。 
 
 日本の設備利用率がドイツ並みになるだけで、設備の利用効率は10%以上も上がることはほとんど知られていない。設備利用率が低いのは、ピーク時電力が高くボトムが低いからだ。ピークシフトをするだけで最大電力需要を簡単に引き下げられる。それを「節電」というのはやや違うのではないか。 
 
 このような電力利用を「スマートに」変えることは「適電」と言うべきだろう。適切な電力消費構造に変えれば、原発などなくなっても少しも困らない。 
 
 巨大な揚水発電所などを沢山作って、ピークを減らすよりピークに合わせて供給する設備を増設し続けてきたため、いびつな電力浪費構造になってしまった。設備利用率が極端に低い揚水式発電所を作れたのも、それをそのまま設備投資として電力料金に乗せられるような制度が温存されていたためだ。 
 
◆地域独占体制を解体せよ 
 
 全国を足してしまうと、こんな計算になるのだが、これを9電力会社ごとに分割すると、新聞に掲載されているような、でこぼこ状態になるというわけだ。地域独占の電力会社がこれまで設備投資を値切ってきた「東西連系」などは、典型的な例だが、独占体制が長く続いた結果の「腐った」状態が生み出した現実であろう。もはや地域独占の「護送船団方式」をやめることが第一に必要だ。 
 
 次にすべきことは、電力を送る事業と、発電する事業を分割することだ。 送電は事業と言ってもいわば「公益事業」であり、過度な営利目的に使うことはやめるべきだ。そう主張するもう一つの理由は、送電網への投資がおろそかになることも大規模停電事故を引き起こす原因になり得るからだ。実際に米国カリフォルニア州で起きたことがある。 
 
 さらに、公益企業体として送電網を維持することにより、小規模発電事業者の送電が低コストで実現し、例えば北海道の広大な土地を使った太陽光発電が廉価で東京に運ぶことが可能になるなどと、ビジネスチャンスの増大による再生可能エネルギー事業への新規参入が見込めるからだ。 
 
 休耕田になってしまった土地を、新たな電力生産地として活用できればと誰もが思っていても規模が小さすぎてコストが掛かり過ぎるなどということも解消できる可能性が広がるだろう。 
 日本の電力政策がデタラメだったことを本当に反省するのならば9電力体制の解体こそが必要なのだ。 


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