2012年06月02日01時42分掲載  無料記事
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文化

モノの形と影   村上良太

  パリのアーチスト、ヴァンサン・ベルゴン(Vincent Vergone)氏の芸に光と影を使った見世物がある。プラキシノスコープと呼ばれる装置を使うものだが、日本では幻灯機と呼ばれてきた。暗闇の中でモノに光を投射し、その影で物語を作るのである。 
 
  ベルゴン氏のレパートリーの一つがサーカスなのだが、丸い回転盤の上に、フォークなどに顔や手足をつけた人形を乗せて回すとその影が後ろの幕にできる。ちなみに、サーカスの象はやかんをさかさまに使ったオブジェだ。アシカはぜんまいを巻くと動き出すブリキのおもちゃである。 
 
  普段、デジタル放送やハイビジョン放送で「くっきり鮮明」な映像ばかりを見せられていると、時にはこうした素朴な光と影の芸が懐かしくなる。この遊びは所詮はひと時の幻。 
 
■パリの散歩道9 世界最小のサーカス団を率いる幻灯師ベルゴン 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201007300041275 
■ベルゴンのアニメーション 
  この短編においても、バルトークの音楽に乗り、暗闇の中で物の形は次々と姿を変えていく。 
http://www.vincent-sculptures-bronze.com/la-toupie-fantoche/ 
■谷崎潤一郎著「陰翳礼讃」 
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B0%E7%BF%B3%E7%A4%BC%E8%AE%83 
  「まだ電灯がなかった時代の今日と違った美の感覚を論じたもの。 こうした時代西洋では可能な限り部屋を明るくし、陰翳を消す事に執着したが、 日本ではむしろ陰翳を認め、それを利用する事で陰翳の中でこそ生える芸術を作り上げたのであり、それこそが日本古来の芸術の特徴だと主張する。 こうした主張のもと、建築、照明、紙、食器、食べ物、化粧、能や歌舞伎の衣装など、多岐にわたって陰翳の考察がなされている。」(ウィキペディア) 
 
  ベルゴン氏の光と影の芸術はプラキシノスコープと言う極めて西洋起源の機械仕掛けを使うものだが、どこか東洋的な感覚もある。ベルゴン氏がパリの東洋語学校で学んだ経験と関係しているのかもしれない。 
 
■プラトンの光と影 
 
  プラトンは「国家」の中で、我々は洞窟に縛られた人間だとした。入口に背を向けた姿勢で縛られており、洞窟の奥しか見ることができない。我々の背後にある光源によって壁面に映し出されるのはモノの影に過ぎない。プラトンはこの比喩を使って、我々には直接真実を見ることができないとした。 
 
村上良太 


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