2012年07月27日09時24分掲載  無料記事
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検証・メディア

諸悪の根源「日米安保」に着目しよう 野田首相を金縛り状態にしている背景 安原和雄

  米海兵隊の垂直離着陸輸送機オスプレイ配備に向けたデモ隊の「反対の叫び」を聴きながら、もどかしさを抑えることができない。なぜなのか。それは日本の政治経済を律している「日米安保」の存在が必ずしも国民、市民の間の共通認識になっていないからである。 
 野田首相は「日米安保」の僕(しもべ)として金縛り状態に陥っている。一方、メディアの姿勢も日米同盟批判派から同盟堅持派、同盟懸念派などに至るまで四分五裂の状態で、「日米安保」への批判で一貫しているわけではない。諸悪の根源としての「日米安保」に今こそ着目するときである。 
 
 米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが7月23日米海兵隊岩国基地に陸揚げされた。この新事態に市民、民衆の大きな反対、疑問の声が響き渡っている。 
琉球新報(沖縄)と大手紙(本土)社説はどう論じたか。まず社説の見出しを紹介する。 
*琉球新報社説(7月24日)=オスプレイ陸揚げ/国民を脅かし安保か 日米関係破壊する愚行 
*東京新聞社説(同上)=オスプレイ搬入/米政府になぜ物言わぬ 
*朝日新聞社説(同上)=オスプレイ配備/強行は米にも不利益 
*日本経済新聞社説(同上)=国はオスプレイの安全確認に力を尽くせ 
*読売新聞社説(7月25日)=オスプレイ搬入/日米は同盟悪化避ける努力を 
*毎日新聞社説(7月21日)=オスプレイ/米国にモノ言わぬ首相 
なお毎日新聞社説は24〜26日には社説で改めて論じてはいない。 
 
 以下、上述の各紙社説の要点を日米安保との関連でどう論じているかを中心に紹介する。 
 
(1)琉球新報=日米安保そのものに欠陥があり、改定を米側に提起するのが筋 
・国民の命と暮らしを脅かし、破壊しかねない暴挙と言うほかない。このような本末転倒な安全保障政策が許されていいはずがない。 
・森本敏防衛相は、普天間で10月から本格運用する米政府の計画の見直しを求める考えがないことをあらためて強調した。森本氏は「抑止力に穴をあけてはいけない」とも述べた。 
・これでは安全性をおざなりにしたまま再稼働を強行した原発政策と何ら変わりはない。 
・日本政府は「口出しする権利がない」とするが、これは統治能力を放棄するにも等しい。日米安全保障条約の事前協議制度は日本側の発言権を確保するためにあるが、事前協議の対象となる「装備の重要な変更」と主張できない根拠は何なのか、明確に説明すべきだ。仮に事前協議の対象でないとするならば、日米安保そのものに欠陥があるのであり、改定を米側に提起するのが筋だろう。 
 
<安原の短評> 琉球新報社説は日米安保改定派 
 巨大な米軍基地の存在に苦しむ沖縄の新聞らしく日米安保改定論を持ち出している。日米安保条約が米軍基地の存在を許容しているからである。基地問題を打開するには日米安保の是非そのものに目を向ける安保改定派となるほかない。沖縄では「反安保」志向は日常の感覚といえるのではないか。ここが本土の一般紙との大きな相違点だろう。 
 
(2)東京新聞=唯々諾々と従うだけが同盟関係ではない 
・この国の政府は一体、日本国民と米政府のどちらを向いて仕事をしているのか。 
・政府は、オスプレイ配備を認める理由に日米安全保障条約を挙げている。 
・日本国民が安全性に不安を覚える航空機の配備を強行すれば、米政府や米軍に対する不満や不信感が高まり、条約上の義務である基地提供に支障が出る可能性がある。 
・前原誠司民主党政調会長ら日米同盟重視派からも搬入延期を求める意見が出たのも、同盟関係が傷つきかねないとの懸念からだ。 
・唯々諾々と従うだけが同盟関係ではない。今、問われているのはオスプレイの安全性だけでなく、米政府に追随し、物を言おうとしない日本政府のふがいなさである。 
 
<安原の短評>東京社説は日米同盟批判派 
 本土紙の中では東京新聞は良心派としての地位を保ち続けている。「唯々諾々と従うだけが同盟関係ではない」という指摘は、まさに「良心派」の物言いである。言い換えれば安保批判派ではあるとしても、安保改定派さらに安保破棄派とはいえない。しかし今や安保(=日米同盟)批判派の存在価値は限りなく大きい。 
 
(3)朝日新聞=日米同盟の根幹に影響しかねないリスク 
・国内ではオスプレイの安全性への懸念がますます強まっているが、日米両政府は普天間配備と本土での飛行訓練計画は変えていない。 
・だがそれは日米同盟の根幹に影響しかねないリスクをはらんでいる。米政府はそこを十分に理解すべきだ。 
・市街地に囲まれた普天間で、万一の事故がおこればどうなるか。仲井真弘多(ひろかず)沖縄県知事が、すべての米軍基地の「即時閉鎖撤去」というように、日米同盟の土台が不安定になるのは間違いない。 
・「アジア回帰」を進める米国の戦略にとっても、大きなマイナスだ。 
・クリントン国務長官は「オスプレイの沖縄配備は、米軍による日本防衛や災害救援の能力を高める」という。だが、それ以前に安全保障の基盤が揺らいでは、元も子もない。 
 
<安原の短評> 朝日社説は日米同盟維持派 
 「日米同盟の根幹に影響しかねないリスクをはらんでいる」という朝日社説の指摘はその通りだろう。問題は朝日社説がこの指摘をどういう視点から訴えているのかだ。最後の「安全保障の基盤が揺らいでは、元も子もない」が示唆するのは、日米同盟の存続こそが不可欠という同盟維持派としての期待、願望にほかならない。 
 
(4)日本経済新聞=在日米軍の抑止力向上は歓迎する 
・米軍のオスプレイは本当に危険ではないのか。政府は安全確認にさらなる努力を尽くすべきだ。 
・中国の海洋進出、北朝鮮の首脳交代などで東アジアの安保環境の先行きは極めて不透明だ。オスプレイは米海兵隊が使用中の輸送ヘリCH46を速度、航続距離、搭載重量のすべてで上回る。抑止力を高める効果が見込める在日米軍の能力向上は歓迎したい。 
・問題は今年になって2回も墜落事故を起こしたことだ。オスプレイが陸揚げされた岩国基地(山口県)や10月に配備が予定される普天間基地(沖縄県)の周辺住民が不安を抱くのも無理はない。 
・政府がなすべきことは、ささいな情報もすぐ公開し、丁寧に説明することだ。不都合な話を隠したり、小出しにしたりすることがかえって疑惑を深めることは原発事故で十分経験したはずだ。 
・野田佳彦首相のこれまでの対応には苦言を呈したい。「(日本が)『どうしろこうしろ』という話ではない」といってすませるのでは無責任だろう。 
 
<安原の短評> 日経社説は米軍抑止力向上派 
 野田首相への苦言を社説に織り込むところなどは芸の細かいところをのぞかせている。しかし社説の本音は、「オスプレイ配備によって在日米軍の抑止力向上の効果が期待できることは歓迎」にある。要するに戦争のための実戦力を高く買っているわけで、この実戦力はどこで試されることになるのか、目が離せない。 
 
(5)読売新聞=日本側から日米同盟を揺るがすことがあってはならない 
・そもそも、事故が絶対に起きない航空機はあり得ない。安全性については感情的にならず、冷静に議論する必要がある。 
・肝心なのは、日米同盟の重要性を踏まえ、オスプレイの安全性を十二分に確認するとともに、10月の沖縄・普天間飛行場への配備を予定通り実現することだ。 
・飛行性能に優れたオスプレイの配備は、在日米軍の抑止力を高めることも忘れてはなるまい。 
・疑問なのは、民主党の前原政調会長が「沖縄、山口の民意を軽く考えすぎている」などと語り、オスプレイの配備延期を公然と求めていることだ。政府、与党の足並みが乱れていては、地元の理解を広げることは到底できない。 
・日本側から日米同盟を揺るがすことがあってはならない。 
 
<安原の短評> 読売社説は日米同盟堅持派 
 「事故が絶対に起きない航空機はあり得ない」は、安全性に疑問符が投げかけられているときにいささか乱暴な認識ではないか。真実を書かない社説もあり得る、と言い張るに等しい。「日本側から同盟を揺るがしてはならない」は米国への忠実な僕(しもべ)たれ、と言いたいのか。同盟堅持派としても、その心配りは度が過ぎてはいないか。 
 
(6)毎日新聞=米国にモノ言わぬ首相 
・オスプレイは開発段階から事故が相次ぎ、4月にはモロッコ、6月には米フロリダ州で墜落事故が起きた。沖縄や山口、訓練空域下の各県で安全性への懸念が広がっている。 
・10月に本格配備される沖縄の米軍普天間飛行場を抱える宜野湾市長ら沖縄の首長が相次いで配備中止を政府に申し入れ、全国知事会も安全が確認されないままの国内配備に反対する緊急決議を採択した。 
・普天間飛行場は住宅密集地にある「世界一危険な基地」(ラムズフェルド元米国務長官)だ。フェンスを隔てて小学校が隣接し、04年には近くの沖縄国際大学に同飛行場所属の輸送ヘリが墜落、炎上した。オスプレイの事故におびえながら暮らさなければならない周辺住民の不安、苦しみは察するるに余りある。 
・野田首相は「配備は米政府の方針であり、(日本から)どうしろこうしろと言う話ではない」と語った。(中略)危険性を理由に移設することになっている普天間にオスプレイを配備しようというのも、これを容認する首相発言も、沖縄の実情を無視した対応で、無神経すぎる。 
 
<安原の短評> 毎日社説は日米同盟懸念派 
 日米同盟を壊すなどという大それた志向とは無縁ではあるが、日米同盟が抱える問題点をひとつ一つ懸念しないわけにはいかないという姿勢である。その意味では懸念派といえるかも知れない。抑止力向上派や同盟堅持派に比べれば、良心的といえるが、日米安保改定派や日米同盟批判派にまで踏み切るほど腹が据わっているようには見えない。 
 
▽諸悪の根源「日米安保」から脱する道 
 
 朝日新聞(7月17日付)は「オスプレイ見直し要請否定」という見出しで、以下のように報じた。 
 野田首相は16日、米軍が沖縄に配備予定の新型輸送機オスプレイについて「配備は米政府の方針であり、同盟関係にあるとはいえ(日本から)どうしろこうしろという話では基本的にはない」と述べ、日本側から見直しや延期は要請できないとの認識を示した。フジテレビのニュース番組に出演して語った。 
 
 私(安原)はこの記事を一読したとき、脳裏に「奴隷の言葉」という表現が浮かんでくるのを抑えることができなかった。一国の宰相たる人物が口にすべき表現だろうか。その背景にはいうまでもなく日米安保体制(=現行日米安保条約の正式名称は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」、1960年6月23日発効)が厳然と存在し、それが諸悪の根源となっている。ここで日米安保体制(=日米同盟)なるものについて学習し直してみたい。 
 
(1)日米安保体制は軍事同盟と経済同盟の2本立てとなっている 
 野田首相の言からは、対米従属国家「日本」と表現するほかないが、その従属国家「日本」を金縛り状態にしているのが軍事同盟と経済同盟の2本柱である。 
 
*日米の軍事同盟 
 軍事同盟は安保条約3条「自衛力の維持発展」、5条「共同防衛」、6条「基地の許与」などから規定されている。1996年の日米首脳会談で合意した「日米安保共同宣言―21世紀に向けての同盟」で「地球規模の日米協力」をうたった。「安保の再定義」といわれるもので、解釈改憲と同様に条文は何一つ変更しないで、日米安保の対象区域が従来の「極東」から新たに「世界」に広がった。 
 この点を認識しなければ、最近、なぜ日本の自衛隊が世界各地へ自由に出動しているのか、その背景が理解できない。 
 
*日米の経済同盟 
 経済同盟は2条「経済的協力の促進」で規定されている。2条では「自由な諸制度を強化する」「両国の国際経済政策における食い違いを除く」「経済的協力を促進する」などを規定しており、新自由主義(市場原理主義)を実行する裏付けとなっている。 
1980年代から日米で始まり、特に21世紀に入り、顕著になった失業、格差、貧困、人権無視をもたらす新自由主義路線から転換し、内需主導型経済の再生に取り組まない限り、日米両国経済の正常化はあり得ない。 
 具体的には「1%(富裕層)と99%(中間層や貧困層)の対立構造」を是正するために、例えば富裕層の富を増税などで吸い上げ、中間層や貧困層に減税や社会保障の充実などで還元することが不可欠である。 
 
(2)日米安保から日米平和友好条約へ転換可能 
*日米安保の一方的破棄は可能 
 今注目すべきは、日米安保条約は、国民多数の意思で一方的に破棄することができることである。10条(有効期限)「条約は、いずれの締約国も終了させる意思を相手国に通告でき、その後1年で終了する」と定めているからである。この条項を活用して日米安保を破棄して、新たに日米平和友好条約への転換を促すときである。 
 野田首相にみる異常な対米従属振りから脱するためには、日米安保の呪縛から自らを自由に解放することが必要条件である。この一点を重視するとき、日本の未来への明るい展望を期待することができるだろう。 
 
*「安原和雄の仏教経済塾」の転載 
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