2012年09月18日13時46分掲載  無料記事
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核・原子力

【インド・クダンクラム原発】(上)「治安妨害罪」を適用し反対住民の弾圧を強めるインド政府  ソウミク・ムカルジー/国富建治訳

 インドの最南端タミル・ナドゥー州に建設中のクダンクラム原発に反対する住民に対して異常なまでの弾圧がかけられている。住民のデモに警官が発砲して1人が死亡するという事件が最近もあったばかりだ。住民まるごと「国家に対する戦争」を仕掛けているとして「治安妨害罪」が適用されているのだ。この六月にはアジアの反原発運動ネットワークによる原発建設と住民弾圧に対して抗議する呼びかけが発せられた。以下はインドからの報告である。クダンクラム原発の原子炉はロシア製であるが、日本もまた原発輸出戦略の一環として日印原子力協定の締結に向けて動いており、インドへの輸出の機会をうかがっている。この闘いに注目し、アジアへの原発輸出に反対する運動を強めよう。(国富建治) 
 
◆未来への権利のための「戦争」 
 
 クダンクラム原発への抗議行動は、幾千人もの暮らしがかかっていると訴えている。しかし行動参加者には、でたらめな告発と占拠活動への制限が科せられている。 
 
 タミル・ナドゥー州ティルネリブーリ県のインド洋沿岸に位置する小さな村落イディンタカライは、見渡す限りの地平線に風車が点在している。この村では小規模な漁民が、ギリギリの暮らしを営んでいる。しかしクダンクラム警察署の記録によれば、この村はこの国で最も悪名高い場所なのだ。村民たちは国家に対する「戦争」を行っている。かれらは全員が反乱分子なのだ。一つの警察署だけで八〇〇〇件が治安妨害罪に問われ、国家に対する「戦争」を行っている事例が記録されているなどというのは、この国の歴史で初めてのことだ。 
 
 しかしイディンタカライを訪れれば、こうした治安妨害の謎はぬぐい去られる。近いうちに二〇〇〇メガワットの原発が稼働することになっているこの村は、まさしく「戦争」を行っている。国家に対する「戦争」ではなく、核事故のない未来への権利のための「戦争」なのだ。 
 
 村からわずか数キロのところに位置する原発は、クダンクラムの人びとの存在そのものへの脅威である。かれらの主要な生計手段である漁業は、消滅に直面している。核エネルギー反対民衆運動(PMANE)のリーダー、SM・ウダイクマルは「なにごとかあったとしても、それは治安妨害罪違反という重さを、ありきたりのものにしてしまうだけだ」と語る。 
 
「私たちはこの地で一年以上、民主主義的で非暴力の抗議を行ってきた。そして奴らは八〇〇〇人を治安妨害罪で告発した。私たちが治安妨害をしているのなら、原子力政策で不法なことをしている原子力エネルギー調査局(AERB)は、何百万人もの生命をもてあそぶという、もっと大きな罪をおかしている」と彼は語る。治安妨害罪以外にも、この間、六万六〇〇〇人に達する人びとに、犯罪に関わったとして告発状が提出されている。 
 
◆国旗掲揚拒否も国家への「戦争」? 
 
 治安妨害で告発状が提出されている事件のほとんどは、三つの件に関してである。二〇一一年一〇月、原発敷地内で座り込みが行われた時、クダンクラム警察署は抗議活動参加者を排除するために暴力的手段を行使し、三〇〇〇件の告発を行った。二〇一一年一一月、近隣の村落の漁民たちが海の傍で平和的なデモを行ったことに対し、さらに多くの治安妨害事件が記録された。三つ目の治安妨害罪での大量告発は最近、今年の独立記念日に起きたことだ。抗議のしるしとして、原発周辺地域の村民たちは国旗掲揚を拒否した。かれらはその代わりに黒旗を掲げた。しかし地域の行政当局は、この抗議を治安妨害と見なした。 
 ウダイクマルの同僚プシュパラヤン・ヴィクトリアは「この日、国家に対する戦争という告発が数千件も提出された」と知らせてくれた。 
 
 最高裁弁護士のプラシャント・ブシャンは、この訴追を「あまりにもくだらない」と述べて軽く一蹴する。彼は「一九六二年の評決で、国家を転覆しようとする行為だけが治安妨害というに値する、と最高裁は述べている。今回の件は、まさにこうしたでたらめな立件によって平和的運動が弾圧された一例だ」と語った。 
 
 おかしなことにティルネリブーリ県警察は、自らの以前のあらゆる残虐行為を帳消しにしている。警視監のヴィジャエンドラ・ビダリは、警察は決して抗議活動に参加した人たちに「反民主主義的やり方」で対処していない、と語っている。「さまざまに伝えられ広がっている数字はウソだ」とビダリは述べる。「われわれが捜査ファイルに記録している人数は二〇人に過ぎない」と彼は語る。記録された名前のほとんどが「その他」と書かれているのだから、村全体が今や司法手続きの脅威にさらされているのだ。ビダリは「われわれは告発状にもとづいて仕事をしており、こうした人びとの一部に対しては十分な証拠を持っている。その証拠は法廷に出されるだろう」と主張している。 
(つづく) 


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