2012年09月19日00時32分掲載  無料記事
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核・原子力

【インド・クダンクラム原発反対】(下)生活を破壊される小漁民  ソウミク・ムカルジー/国富建治訳  

 全国の市民社会が、平和的な運動に対する国家の対応に抗議してきた。カシミールの市民社会活動家クラム・ペレベスは述べる。 
 
 「これは何も新しいことではない。インド国家は暴力を独占している。カシミールでも北東部やここクダンクラムでも、あらゆる異論は、国家にとっては治安妨害に見えるのだ。われわれは、小さな漁村の住民が、原発に抗議したという理由で治安妨害として告発されたことにショックを受けた」。 
 
 
◆生活の糧も奪われた 
 
 事件の結果、クダンクラムの人びとは基本的諸権利を拒否されている。「新しいパスポートは発行されない。実際、届いたパスポートの一部は戻されている」とヴィクトリアが知らせてくれた。ティルネリブーリ警察署はすべてのパスポートが申請を通っていると述べているが、「TEHELKA」(訳注:インドの週刊ニュース誌)の調べでは、この一年間村民にはパスポートが発行されていない。 
 
 「私はサウジアラビアに職を確保してきた。私の代理人も私に対してビザの発行を確認している、しかしこの一年間私はパスポートを待たされている」と二四歳のジョイハールは語る。「私の名前は、どの告訴ファイルにも記載されていない。しかし私は攻撃にさらされている」と彼は語っている。こうしたことはクダンクラムの多くの若者たちも同じ状況であり、家族たちは、海外に働きに行って家族の追加収入を得る機会が拒否されることを嘆いている。 
 
 抗議行動のためにこの一年間、生活をかき乱された小規模漁業は、もはや稼ぎを得ることができない。 
 
 「エビの季節は終わり、今年は何も漁獲がない。原発当局が繁殖地域を『立ち入り制限地域』と宣言したからだ」とクダンクラムの村民であるフランシス・レオンは語る。彼は「今では漁民は、小さな手巻きタバコを作る僅かな収入でやりくりしている」と嘆いている。 
 
 この運動は地域で運営されており、そのためにかれらは自分たちの個人的生活を犠牲にしている。「政府は、われわれの闘争がカトリック教会系のNGOから資金援助を受けていると言いふらしているが、実際には住民が自分たちの運動のために自分でカネを作っている」とウダヤクマルは述べる。 
 
 五〇代の主婦ロザリは、思いを語る。「この経済的苦境は、昨年の私たちの生活をめちゃくちゃにしてしまった。私たちは子どもを学校に行かせられない。私たちはお祭りを祝うことをやめた」と彼女は語る。 
 
 三八歳のベルシは「この原発は私たちへの罰だ。カルパッカム(訳注:インド南部チェンナイから七〇キロのところにあるインディラ・ガンジー原子力研究センターの所在地。ここでは住民に多くの放射能被害が出ていることが報じられている)で起きたことのように、近隣の村落すべてをゆっくりと殺していく。獲れる魚などもうない」と語る。 
 
 今、住民たちはマドラス高等裁判所の評決を待っている。「抗議行動はややその勢いを失っている。人びとは生活していかなければならないからだ。しかし必ずわれわれに敵対的なものであるだろう評決が出るや、われわれは勢いをつけはじめるだろう」とアムリスライは語る。彼はドキュメント写真家で、運動の初めから記録を撮ってきた。 
 
◆計画の違法性と露呈する矛盾 
 
 抗議活動の参加者たちは、毎日のように明るみに出る核政策における違法性が、運動の大義と団結を強めるだろうと確信している。全国災害管理局はRTI(訳注:市民からの要求に応じて政府の情報を伝えるシステム)での回答において、インドは核災害の可能性について公共的注意を広げる政策を持っていないことを、最近明らかにした。「それは事故が起きてはじめて対処することができる。国家はこの問題を、開発という名目でもてあそんでいる」とウダヤクマルは述べる。 
 
 クダンクラム原発が稼働にむけて準備を整えるまで、村民は追いつめられた状況にある。「全国政府への信頼もない」とウダヤクマルは言う。「ジャヤラリタ(訳注:ドラビダ進歩同盟の党首、タミル・ナドゥー州政府の現首相)は野党の指導者として私たちを支持していた。しか彼女は今や権力の座につき、何もしていない」と彼は述べる。ケララ州のような近くの州からも支援はない。「かれらはこの原発からの五〇〇メガワットの電力を望んでいるが、災害については忘れている、かれらは同じやり方を認めているのだ」と彼は述べた。 
 
 実に奇妙なことだが、タミル・ナドゥー州エネルギー局の二つの風力発電施設が、この原発施設の敷地内に建っている。当局はこの供給施設だけで風車から三五〇〇メガワット、すなわちもっと高度の技術を要する原発のほぼ二倍の電力を生みだすことを知っているのだろうか? 
(「TEHELKA」誌Vol 9 /36号 二〇一二年九月八日付) 


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