2012年10月20日09時43分掲載  無料記事
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検証・メディア

続発する沖縄での米兵女性暴行 日米安保と米軍基地がある限り 安原和雄  

  またもや沖縄で米兵による女性暴行事件が起こった。沖縄はいうまでもなく、本土でも多くの人が怒っている。こういう悲劇の続発を防ぐためには何が必要か。事件の背景に広大な米軍基地が存在し、それを容認する日米安保体制が存続する限り、悲劇は絶えないだろう。だから日米安保と米軍基地そのものを廃絶すること以外に続発防止の決め手はあり得ない。 
 新聞社説はこの事件をどう論じているか。残念ながら足並みが揃っているわけではない。事件発生を批判する点では一致しても、その背景にある日米安保、米軍基地そのものを批判する姿勢は乱れているのが現状である。 
 
 沖縄での米兵女性暴行について本土の大手紙と沖縄地元の琉球新報は社説でどのように主張したか。本土の主要紙と琉球新報の見出しは次の通り。次いで社説(大要)を紹介し、私(安原)のコメントを試みる。 
 
*東京新聞(10月18日付)=米兵女性暴行 沖縄に基地がある限り 
*毎日新聞(同上)=相次ぐ米兵事件 米政府は深刻さ自覚を 
*朝日新聞(同上)=米兵の犯罪 沖縄の怒りに向きあう 
*読売新聞(10月19日付)=沖縄米兵事件 再発防止へ実効性ある対策を 
*琉球新報(10月18日付)=米兵集団女性暴行/卑劣極まりない蛮行 安保を根本から見直せ 
 
(1)東京新聞社説(大要) 
 沖縄県知事は、官房副長官を首相官邸に訪ね、「(在沖縄米軍基地は)安全保障上必要だから理解してくれと言われても、こういう事件が起きると無理な話だ」と強く抗議した。 
 知事に代表される県民の怒りは当然だ。日米両政府に加え、日本国民全体が重く受け止め、自分の痛みとして感じる必要がある。 
 米軍基地は周辺地域の住民にさまざまな負担を強いる。平穏な生活を脅かす日々の騒音や事故の危険性、米国の戦争に加担する心理的圧迫、それに加えて、今回のような米兵の事件、事故などだ。 
 
 日米安全保障条約で、日本の安全と、極東の平和と安全を維持するために日本に駐留する米軍が、日本国民の生命を脅かす存在にもなり得ることは否定しがたい。 
 在日米軍基地の約74%は沖縄県に集中する。米軍の世界戦略に加え、本土では基地縮小を求める一方、沖縄での過重な基地負担を放置することで平和を享受してきたわれわれ本土側の責任でもある。 
 
<コメント> 日米安保は生命を脅かす存在に 
今回の暴行事件に関連して、後述するように朝日、読売社説には日米安保への言及は見られない。毎日社説はわずかに「日米安保体制そのものをむしばむ」と表現している。これに比べると、東京社説は明快である。「日米安全保障条約で、日本の安全と、極東の平和と安全を維持するために日本に駐留する米軍が、日本国民の生命を脅かす存在にもなり得る」とまで言い切っている。沖縄を論じる場合、安保に言及しない社説はもはや読むに値しないというべきだろう。 
 
(2)毎日新聞社説(大要) 
 沖縄県知事は17日、防衛相に「正気の沙汰ではない。綱紀粛正という生やさしい言葉でなく、もっと厳しい対応を強く米側に申し入れてほしい」と求めた。 
 仲井真知事は防衛相に「日米地位協定を改定しない限り、彼らは基本的に日本の法律は守らなくていいことになっている」と改定を求めた。 
 
 沖縄では、米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの配備強行や、米軍普天間飛行場の移設難航で、日米両政府や米軍への不満が高まっている。背景には、沖縄に米軍基地が集中することによる過重な負担がある。 
ルース駐日米大使は事件について「米政府は極めて強い懸念を持っている」と述べたが、相次ぐ事件は、米軍への信頼を失わせ、日米安保体制そのものをむしばむ。米政府と米軍は事態の深刻さを自覚すべきだ。 
 
<コメント>沖縄県知事「正気の沙汰ではない」 
 知事の「正気の沙汰ではない」という抗議の声は穏やかではない。これは「怒り」そのものである。怒りの行き着く先は何か。「沖縄に米軍基地が集中することによる過重な負担」をどう改善するかである。それは「日米安保」への不信の表明でもあり、ゆくゆくは安保破棄まで進まなければ、収まらないだろう。毎日社説末尾の「日米安保体制そのものをむしばむ」という懸念にいつまでもしがみついている時だろうか。 
 
(3)朝日新聞社説(大要) 
 沖縄では、1995年に米海兵隊員3人による少女暴行事件がおき、県民の怒りが燃え上がった。だがその後も、米兵による犯罪はなくならない。性犯罪に限っても、この10年余りで中学生への強姦や強制わいせつ、ほかにも強姦致傷、今年8月にも強制わいせつ致傷の事件がおきた。被害者が泣き寝入りし、表に出ない事件もあるとみられている。 
 沖縄には、安全への心配がぬぐえぬ新型輸送機オスプレイが配備されたばかりだ。不信が募っているときの、この卑劣な事件である。 
 
 日本と米国の協調は大切だ。そのことを多くの人が感じている。だが、今回の事件が火種となって、再び沖縄で反基地の思いが爆発することは十分に考えられる。日米両政府は真剣に対策を講じる必要がある。 
 沖縄で米兵による事件が多いのは、国土の面積の0.6%にすぎないこの島に、在日米軍基地面積の約74%が集中している現実が根底にある。沖縄の負担をどう分かつか。沖縄の外に住む一人ひとりが考えなくてはならない。 
 
<コメント>「日米の協調は大切」が本音 
 朝日社説も「沖縄では、米軍による犯罪はなくならない」などと米軍基地への批判的な姿勢を見せてはいる。しかし一番主張したい本音は「日本と米国の協調は大切だ」ではないか。だからこそ「今回の事件が火種となって、再び沖縄で反基地の思いが爆発することは・・・日米両政府は真剣に対策を講じる必要」につながる。朝日社説の主眼は日米安保是認論、いやむしろ賛美論ともいえる。 
 
(4)読売新聞社説(大要) 
 8月には、那覇市で在沖縄米兵による強制わいせつ事件が発生したばかりだ。こうした不祥事が繰り返されるようでは、日本の安全保障に欠かせない米軍の沖縄駐留が不安定になろう。今回の事件は、米軍の新型輸送機MV22オスプレイが沖縄に配備された直後だったため、県民の反発が一段と高まっている。 
 
 ただ、暴行事件への対応とオスプレイの安全確保は基本的に別問題であり、それぞれ解決策を追求するのが筋だろう。 
 仲井真知事は日米地位協定の改定を改めて主張している。だが、今回の事件捜査では、起訴前の米兵引き渡しなどを制限する地位協定が障害とはなっていない。 
 日米両政府は従来、地位協定の運用の改善を重ね、具体的問題を解決してきた。それが最も現実的な選択であり、同盟関係をより強靱(きょうじん)にすることにもつながろう。 
 
<コメント>「自立国・ニッポン」はどこへ 
 読売社説の主眼は日米同盟関係を「より強靱に」することにある。「不祥事が繰り返されるようでは、日本の安全保障に欠かせない米軍の沖縄駐留が不安定に」という指摘がそれを示している。「日本の安全保障は米軍の沖縄駐留」にかかっているという認識であるから、ここまでくれば「日米安保依存症」も極まった、というほかない。「自立国・ニッポン」への意欲も視野もどこかへ投げ捨てたのか。 
 
(5)琉球新報社説(大要) 
 米軍は事件のたびに綱紀粛正や兵員教育による再発防止を約束するが、何が変わったというのか。現状は基地閉鎖なくして米兵犯罪の根絶は不可能だと、米軍自らが自白しているようなものだ。 
 女性は安心して道を歩けない。米兵は沖縄を無法地帯と考えているのか ―。県婦人連合会の平良菊会長はこんな疑問を抱きつつ「危険なオスプレイが縦横無尽に飛んで、危険な米兵が地上にうようよしているのが今の沖縄か。人権蹂躙(じゅうりん)も甚だしい」と述べた。同感だ。 
 ことし8月にも那覇市で女性への強制わいせつ致傷容疑で米海兵隊員が逮捕された。復帰後の米軍関係の刑法犯は5747件(2011年12月末現在)に上る。米国はこうした現状を恥じるべきだ。 
 在日米軍には日米安保条約に基づき「日本防衛」の役割がある。しかし県民には苦痛をもたらす暴力組織としての存在感が大きい。 
 
 日米安保体制を容認する保守系首長も、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを強行配備した日米両政府に抗議し、万が一墜落事故が起きた場合には「全基地閉鎖」要求が強まると警告する。 
 
<コメント> 日米安保と米軍基地への批判 
琉球新報社説は沖縄の地元紙にふさわしく日米安保体制と米軍基地そのものへの疑問と批判が尽きない。「基地閉鎖なくして米兵犯罪の根絶は不可能」、「在日米軍は日米安保条約に基づき・・・、県民には苦痛をもたらす暴力組織」、「女性は安心して道を歩けない。米兵は沖縄を無法地帯と考えているのか」などの指摘にそれをうかがうことができる。日米安保なき日本再生は沖縄から始まる。すでに始まりつつあると認識したい。 
 
*「安原和雄の仏教経済塾」の転載 
http://kyasuhara.blog14.fc2.com/ 


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