2012年11月14日22時25分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201211142225223

核・原子力

【たんぽぽ舎発】「原発は小さきこと」つまりは福島など眼中にもないらしい  石原慎太郎の発言の精神構造を疑う   山崎久隆 

 またひとり、「日本の将来を憂う」老人が国政に出るらしい。しかしこの人の言うことは、首尾一貫性も合理性もない。例えば「原発問題など小さいこと」なのだそうだ。他ならぬ石原慎太郎がそう言う。なんという脈絡の無さだろう。 
 
 日本が「尖閣諸島」と呼ぶ小島について、9月11日(そう911だ)に野田政権は国有化を決定した。それに対して中国は猛反発し、中国国内では暴動まで発生した。 
 
 もともと1972年の日中国交回復に際して「次世代以降に棚上げ」したはずの「領土問題」を、現世代で「仕掛け」たのは日本だった。従来保たれてきた政治的均衡を日本側が「尖閣国有化」で破ったことに対し、中国側は主に経済分野で反撃を開始している。この深刻な打撃は、「原発が止まる」という次元の比ではないだろう。もともと原発が止まっても経済失速が起きることなどないが、貿易、特に対中貿易により経済のかなりの部分を支えてきた日本国にとっては、深刻な影響は避けられないはずだ。 
 
 日米安保などあろうとなかろうと、軍事衝突など誰にとっても何の利益にもならないことをするはずがない。特に米中両国は。 
 
 では、一体日本は何のつもりで挑発的行動に出たのだろうか。 実際のところは、さっぱりわからないが、どうやらこれから国政に打って出ようとする老人が「尖閣都有化」(といってもあくまでも地籍は石垣市だが)を強行しようとしたことに「対抗した」かららしい。 
 
 全く。子どもの喧嘩か。 
 
 仮に、それ以上に深慮遠謀があるとするならば、対米関係である。普天間とオスプレイ配備問題は、沖縄だけの問題ではなく日本全国が日米安保の脅威と傲慢さを感じ始めていた。在日米軍の横暴な振る舞いは、95年の少女暴行事件と同様に、日米安保を揺さぶる可能性があった。しかし当時と異なり「普天間移転」という解決カードはもう使えないどころか、この「解決不能」状態(鳩山首相のトラストミー発言の無責任な投げだし)が問題の一端なので、民主党政権の責任問題にも波及している。そこで、あえて中国との対立を煽ることで日米安保体制を国民に再認識させ、日米安保体制を盤石なものとし、その返す刀でオスプレイと普天間(つまりは辺野古移転問題)も「解決してしまえ」と思っているのだとしたら、何重にも沖縄を踏みつけにする行為だ。 
 
 ここから出てくる「ひょうたんの駒」は、尖閣など先島諸島への陸上自衛隊配備、日米安保体制の強化、集団的自衛権の行使、憲法9条改憲であろう。尖閣諸島に派遣した自衛隊や海上保安庁が中国当局と「交戦状態になる」のをもっけの幸いと狙っているのではないか。読売新聞など「武力衝突の可能性が少なくない」から自衛隊がバックアップする体制を取れなどと煽っている。まさしく1937年の日中戦争勃発の再現を見る思いだ。その先にあるのは悪夢であ 
る。いったい、武力衝突が日常化する国にしたいのか。とはいえ、そのころには寿命が尽きて生きていない人ばかりだ。なおさら無責任きわまりない。 
 
 前置きが長くなったが、石原にとって原発問題が「小さいこと」ならば、居住不能となり故郷を追われた16万人は「小さいこと」なのだ。絶海の孤島に漁船の避難場所を16億円掛けて作ることが「大きなこと」だという老人の、戯言にしか聞こえないが、それが現在、この国では一定の支持を得ているようなので恐ろしくなる。 
 
 放射能の影響で福島県は避難のために人口が減り、耕作放棄せざるをえない地域が急速に拡大している。それは「国土の荒廃」ではないのか。原発事故は無残な形で国家国民を破壊する。それが小さいことだと本気で言っているのか。それに同調する者たちの精神構造はどうなっているのか。 
 
 日本はこれからも巨大地震と津波の試練を受け続ける。その中のいくつかは原発を直撃する。そして再稼働などしていれば福島原発震災を再現する。それを免れたとしても、電力供給どころか原発の震災復旧に巨額の費用を電力会社はつぎ込まねばならず、赤字はますます拡大する。原発や核燃料サイクル自体が危険きわまりないことと、それに支えさせるエネルギー供給体制はさらに脆弱さを増すことになる。 
 
 石原の場合、単純に自分が中心に立てない事案は全て「小さいこと」である。そして自分が中心で回せる、私たちには無縁の「天下国家」を夢想している。 
 
 ただしこの「無縁の」国家が土足で私たちの平和と安全に踏み込んでくる恐れが出始めた。 
 
 このような勢力は断じて権力の座につかせてはならない。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。