2012年12月02日04時57分掲載  無料記事
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コラム

パリジェンヌの日記(Le journal d'une Parisienne)2 「狂気のバーゲンセール」 ヴィルジニー・ブリエン

 ■狂気のバーゲンセール 
 
 あぁ、パリの11月ったら! 枯葉が地に落ちていく。それに住民税・・・・。でも、一段とすごいのは大安売りの月だということ。パリのファッション店では服の大安売りが始まるのだ。まさに狂気と言っていいバーゲンセール。 
 
  店頭の大行列は毎年繰り返されている。抵抗することは不可能だ・・・。確かに、ファッション好きのパリジェンヌたちにとって11月はとんでもない生活の幕開けとなる。最初の足掛かりは10月。この月、パリジェンヌたちは戦いに備え始める。夢見た憧れのファッション製品を探しあてるためにだ。稀に見る真珠を探し当てようと胸は高まり、じりじりと焦がれんばかり。 
 
  このファッション・マラソンに参加するために、なんと休みを取る女性もいるのだ。同情してくれる医者を探し出し、嘘の病名をカルテに書き込んでもらう。これって、信じられます? 
 
  だが、服の一大カーニバルに参加するためには扉を開けてくれる魔法の鍵が必要なのだ。それがバーゲンへの「招待状」。でも、どうしたらそれが手に入るの?もちろん、以前からいいお客さんであることが必要だ。「招待状」を手に入れるには普段から足しげく店に通い、そのブランドに忠誠を示さなくてはダメ。そうして初めて一種の「選ばれた人(エリート)」にしかアクセスできないバーゲンの特権を手に入れられるのだ。 
 
  ただ、このバーゲンは秘密にされていないから、みんなそこにアクセスしたい。魔法の鍵であるバーゲンの「招待状」が送られてこなかった人々の中には魔法の鍵を手に入れるための迂回作戦を行う人もいる。「招待状」を持っている友達にくっついていくか、あるいは買い物友達にこの時ばかり連絡を取るのである。 
 
 「ねぇ、あなたから連絡が来なくなって随分になるわね。ずっと待っていたのに。本当にひどい人だわ。ところであなたのところに「招待状」が来てないかしら?」 
 
 この手口は<お友達(potes)>と呼ばれている。さらには「招待状」をインターネットで買い取る人さえいるのだ。商魂たくましい人はバーゲン魔たちの弱みにつけこんで「招待状」ビジネスを行うわけ。でも大したお金にならないと思うけど!! 
 
  とにかくパリジェンヌたちがこの季節、どっと殺到するのがファッション店!普段、静謐で秘密に満ちた場所が、この時ばかりは闘争と掴み合いの修羅場と化す。歓びは悪夢に変わる。これに参加しようと思ったら、我慢強さや落ち着き、自制心、待ち時間、それにエネルギーがたくさん必要だ! 
 
  実際、店の前のげっそりする長い行列に並んだ後、店が開くと足を踏まれないように戦うことになる。またわれ先に入ろうとする人を平常心でやり過ごすことにもなる。 
 
  だが、ついに店に入ることがかなう!試練はここで終わりかと思いきや・・・クロークで上着を脱いで買い物鞄ともども預けなくてはならない。ここでまた押し合いへし合いが再開。もうたくさん!他人があなたにぶつかってきて、あなたは無礼でヒステリックな攻撃を受ける。でもあなたも負けてはいない。他人を押しのけ、欲しいアイテムを可能な限りたくさんつかみとるのだ。消耗は激しく、心いらだちながら! 
 
  こうした騒ぎはともかく、問題なのはバーゲンに来ると個性を見失ってしまい、他人が欲しがるモノにみんな飛び付いてしまうことだ。あなたが陳列台から降ろして手にした服にみんなが子犬のように群がってくる。ついにあなたは服から手を放す。これは熱狂的消費の地獄絵図だ! 
 
  客が服を持って試着室に行こうと思っても、鏡の前に立つことができない。なぜって試着ブースではナルシシストたちが異常に長時間、籠って粘っているから。 
  いや、もっと目を疑うのは多くの服が丸まって床に投げ出されている光景だ。それらはうち捨てられ、踏まれている。まるでくずひろいになったようにその姿を見てしまう。絶望的な戦闘の跡である。悲しい見世物である!私の両手は行き場もない。 
 
  私、バーゲンセールにはみんなが自分の好みのエレガントで趣味のいい服を選びに行くものだと思っていた。服の美しさを尊重し、作った人の仕事を称える。もちろん、それは幻想だった。バーゲンセールでもみくちゃにされながら服を選び、レジに向かう。そこでまた行列。これには本当に参った。でも、ここまできて今更、服を手放すのは無理。そこでふと冷静になって、服が全部でいくらになるか計算し直すことになる。不安と冷たい汗。現実に立ち返る。カードの残額は?銀行は今後も貸してくれるの? 
 
  「次の方!」いよいよ私の順番が来た。 
 
  今や、あなたはついにバーゲンセールの買い物をやり遂げ、たたき売りの値段で服を手に入れた。ようやく最後の関門であるレジをくぐるところだ。これが終われば解放され、服を手にする。ここでまた足と足のもみあいがある。ずうずうしい人に割り込まれないためだ。一方、軽蔑のために、互いに距離を置く。 
 
  ついにつらい勤めは終わった。へとへとになり、くしゃくしゃになって私は家路につく。しかし、衣装箪笥はもういっぱいだ!それなのに私はもう来年のバーゲンのことを考えていた。こうした状況は危機だと思ってきたのに... 
 
寄稿 ヴィルジニー・ブリエン(Virginie Brien) 
翻訳 村上良太 
 
■パリジェンヌの日記(Le journal d'une Parisienne)「8月のパリ」 ヴィルジニー・ブリエン 
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