2012年12月13日20時21分掲載  無料記事
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科学

【SMC】科学をめぐる議論予報

 これから議論になることが予想される科学技術のトピックを(1)海外SMCからの情報、(2)学術出版社からの情報、(3)研究者からの問題提起 などをお送りします。今回は、予防接種の注射を受ける前の赤ん坊に砂糖水を少し飲ませると泣かないことから、砂糖の甘い味が安心をもたらす効果があることをオーストラリアの研究チームが示唆。など多数を紹介。(サイエンス・メディア・センター) 
 
【医学】 
多発性硬化症の治療に使われる大麻抽出物の薬品には目立った効果は無いことを医学ジャーナルDrug and Therapeutics Bulletinが発表した。英国SMCより第三者専門家のコメント有り。 
 
【社会】 
糖分や飽和脂肪を多く含んだ食品に税をかけると、より多くの国民がバランスのとれた食生活を選ぶ可能性があるとニュージーランドの研究チームが発表。論文はPublic Library of Science (PLOS) Medicineに掲載。ニュージーランドSMCより第三者専門家コメント有り。 
 
【遺伝学】 
米国とスウェーデンの研究チームのコンピュータ・モデルを使った研究によると、性特異的な遺伝子のエピジェネティックマーカー(DNAの塩基配列には変化がなく、後天的な変異)が父親から娘、または母親から息子に引継がれると、同性愛に繋がる可能性がある。論文はQuarterly Review of Biologyに掲載。オーストラリアSMCより第三者専門家のコメント有り。 
 
【医学】 
フランスの研究チームは、排尿する回数を増やす薬には自閉症の病状を抑える効果があることを推定。論文はTranslational Psychiatryに掲載。英国SMCより第三者専門家コメント有り。 
 
 
■ 今後の注目ニュース 
【医学】 
米国の研究チームは、遺伝子治療によって作られた心拍制御を行うペースメーカー細胞を、心臓細胞に置き変えることをマウス実験で成功。人工ペースメーカーの代わりになると期待されている。論文は今週のNature Biotechnologyに掲載される予定。著者の連絡先有り。 
 
【地球科学】 
大西洋の最北に起きる極地嵐は、小さく発生が短期的でこれまでの気候モデルでは解析が難しかったが、北大西洋の混合循環に大きく影響することを英国の研究チームが発表。論文はNature Geoscienceに掲載される予定。著者の連絡先有り。 
 
【自然科学】 
水生の脊椎動物が陸にあがった際にヒレを足や手に進化させた遺伝子をスペインの研究チームが発見。論文はDevelopmental Cellに掲載。著者の連絡先有り。 
 
【医学】 
乳がんを克服した閉経後患者は、糖尿病になる可能性が高いことをカナダの研究チームが発見。約2万5千人の乳がんを克服した患者と、約12万5千人の乳がんでなかった人を調査したところ、約6年の間に、乳がんの患者が糖尿病にかかるリスクが健康な人と比べると9.7%高かった。また、乳がんと糖尿病の関係は抗がん剤治療の有無と関係があった。論文はDiabetologia( European Association for the Study of Diabetesのジャーナル)に掲載される予定。著者の連絡先有り。 
 
【医学】 
予防接種の注射を受ける前の赤ん坊に砂糖水を少し飲ませると泣かないことから、砂糖の甘い味が安心をもたらす効果があることをオーストラリアの研究チームが示唆。論文はCochrane Database of Systematic Reviews 2012に掲載。 
 
 
■ 日本の研究現場から 
 
2012/12/6 
「概日リズム中枢の神経細胞ネットワークを新手法で可視化 ―神経細胞同士のコミュニケーションのメカニズムを解明―」 
蛍光カルシウムセンサーと高感度イメージング法により,細胞内カルシウム濃度の変化を指標に神経細胞の活動を計測することで,ほ乳類の生物時計中枢の神経細胞ネットワークの高精度の可視化に世界で初めて成功。細胞内カルシウム濃度変化の概日リズムを網羅的に解析した結果,視交叉上核の生物時計では,異なる性質を持つ神経細胞集団のネットワークが互いに連絡することで,正確で強靭なリズムを刻むことを解明。今後の睡眠覚醒リズム障害の予防や治療,時間治療法の開発など広く応用が期待。12 月4 日に科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」のオンライン速報版(http://www.pnas.org/)で公開。 
http://www.hokudai.ac.jp/news/121206_pr_med.pdf 
 
2012/12/6 
「宇宙のガンマ線観測からの超ミクロのスケールにおける対称性の破れへの制限―量子重力理論の発展へ―」 
大阪大学大学院理学研究科 當真賢二氏(日本学術振興会特別研究員(SPD) 、宇宙地球科学専攻宇宙進化グループ所属)、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(KAVLI IPMU) 向山信治 特任准教授、金沢大学大学院自然科学研究科 米徳大輔 准教授らの研究チームは、非常に遠方で起こったガンマ線バースト現象からの偏光を従来より高い精度で検出し、光の偏りがその長い旅路の間に回転しなかったことを解明。理論的計算を行ない、超ミクロのスケールでの基礎物理的な対称性の破れが、千兆分の1以下であるというこれまでで最も厳しい制限を与えた。今後、この結果に沿うように量子重力理論が発展していくと期待。12月11日(米東海岸時間)に米国物理学会誌“Physical Review Letters”のオンライン速報版(http://prl.aps.org/)に掲載。 
http://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/ResearchRelease/2012/12/20121206_1 
 
2012/12/6 
「三大認知症の一つであるレヴィ小体病の脳萎縮にもアミロイドが関連―認知症の原因として最多のアルツハイマー病認知症の脳萎縮と同じ状況。レヴィ小体病の新規治療戦略へつながる知見―」 
放医研分子イメージング研究センターの島田斉研究員らと千葉大学大学院医学研究院の桑原聡教授らは、PETとMRIを用いた研究により、認知症を伴うレヴィ小体病の脳萎縮にADと同じくアミロイドというタンパク質の蓄積が密接に関連することを世界で初めて解明。この治療が認知症を伴うレヴィ小体病においてもアミロイド沈着を伴う場合に応用できる可能性を示している。『Movement Disorders』のオンライン版に12月6日に掲載。 
http://www.nirs.go.jp/information/press/2012/12_06.shtml 
 
2012/12/9 
「半導体デバイスの高速化・省電力化の限界は、流れる電子の数で決まる 
技術開発のロードマップにも影響する理論的限界を解明」 
早稲田大学 理工学術院の渡邉 孝信 教授、神岡 武文 次席研究員らは、電子がバラバラの粒子であることから生じる本質的な電流雑音により、半導体LSIの高性能化の限界が決まることを、シミュレーションを用いた検討によって解明。数10GHzから100GHzの動作周波数領域で、LSIの素子を流れる電子の数が大きくばらつき、正常に動作しなくなると予測。これがLSIの動作周波数の限界を決定すると考えられる。半導体デバイスの高速化や省電力化の理論的限界を明らかにしたという点で、今後の半導体集積回路技術開発のロードマップに影響を与える。米・サンフランシスコで12月10〜12日(現地時間)に開催される「国際電子デバイス会議(IEEE International Electron Device Meeting;IEDM)」にて発表。 
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20121209/index.html 
 
2012/12/10 
「真空を利用したパワースイッチを開発 
−ダイヤモンド半導体を使うことにより世界で初めて成功−」 
産業技術総合研究所の竹内 大輔 主任研究員と物質・材料研究機構の小泉 聡 主幹研究員らのグループは、ダイヤモンド半導体の特長を利用して、真空を用いた高耐圧パワースイッチを作製し、動作実証に世界で初めて成功。今回の実験結果から100kVほどの高電圧に耐えられる真空パワースイッチを作ることができれば、理論的に従来の10分の1の大きさの大電力変換装置が可能に。 将来、日本近海の洋上風力エネルギー導入や日本列島間での効率的な送電などで、新しいエネルギー戦略に貢献することが期待。International Electron Device Meeting(IEDM2012)のハイライトとしてオンラインで紹介され、12月10日(米国東部時間)同会議で発表。 
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2012/pr20121210/pr20121210.html 
 
2012/12/11 
「人工細胞膜の変形挙動を解明」 
KEK物構研の山田悟史助教は人工的に作成した摸倣生体膜の小胞(ベシクル)が温度変化によって開口し、平板状(ナノディスク)に変形した後、ナノディスク同士が融合して再びベシクルへ変形することを発見し、その仕組みを解明。今後、研究が発展されれば、ベシクルで作ったモデル細胞を自由自在に融合・分裂させる、といったことも可能に。12月10日(現地時間)に、米国の科学雑誌Langmuirオンライン版にて公開。 
http://imss.kek.jp/news/2012/topics/121211vesicle/index.html 
 
2012/12/12 
「血中の自己抗体が脳内に侵入して神経伝達機能を低下させる 
−免疫系の異常が慢性疲労症候群を発症させるメカニズムの一端をPET検査で解明−」 
理研分子イメージング科学研究センター分子プローブ動態応用研究チームの渡辺恭良チームリーダー、水野敬研究員、関西福祉科学大学健康福祉学部の倉恒弘彦教授、浜松ホトニクス株式会社中央研究所PET応用PETセンターの塚田秀夫センター長と山本茂幸らは、約半数の慢性疲労症候群患者の血中に見られる神経伝達物質受容体に対する自己抗体(mAChR自己抗体)が、脳の神経伝達機能を低下させている様子を、PET検査で解明。今後、感染症や免疫系異常と慢性疲労の関係の詳細な解明を行うことにより、新たな病態研究につながると期待。米国のオンライン科学雑誌『PLOS ONE』(12月11日付け:日本時間12月12日)に掲載。 
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2012/121212/detail.html 
 
2012/12/12 
「動き回る小動物体内の組織や生理機能を高感度に検出可能な超高輝度発光タンパク質の開発に成功 -超早期癌の診断法確立に期待!-」 
大阪大学 産業科学研究所 生体分子機能科学研究分野の永井 健治教授、国立遺伝学研究所の堀川 一樹 准教授らは、化学発光タンパク質と蛍光タンパク質をハイブリッド化することで、従来よりも10倍以上明るく光る超高輝度化学発光タンパク質Nano-lantern(ナノ−ランタン)を開発。ナノ−ランタンでマーキングすることにより自由行動下におけるマウス体内の癌組織を実時間検出することに世界で初めて成功。ナノ−ランタンおよびそこから生み出された発光プローブは遺伝子にコードされているため、任意の生物の多様な組織における計測を可能にし、多くの疾病の原因究明や効果的な創薬スクリーニングの開発が期待。12月11日(英国時間、日本時間12月12日)にネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)「Nature Communications」のオンライン速報版で公開。 
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20121212/index.html 
 
2012/12/10 
「環境化学物質が子どものこころの健康に影響することを動物実験で実証〜マウスにおいて、微量のダイオキシン摂取が脳の柔軟性と集団行動の異常を引き起こす〜」 
東京大学大学院医学研究科疾患生命工学センター健康環境医工学部門の遠藤俊裕大学院生、掛山正心助教、遠山千春教授は、マウスの動物実験より、微量のダイオキシンを投与された母マウスから生まれたマウスでは、成熟後に状況変化への適応が遅く、かつ社会的競争状況で活動レベルが低下することを発見。その背景に、高次の脳機能をつかさどる前頭前皮質と扁桃体において脳の神経活動のアンバランスがあることを解明。そのままヒトに適用はできないが、母体・母乳から体内に取り込んだ微量の化学物質が、子どもの「こころの健康」の発達に影響を及ぼす可能性を示唆。「PLOS ONE」12月12日オンライン版に掲載。 
 
2012/12/10 
「細胞で折り紙!?〜微小プレート上に培養した細胞を折り曲げて高速に立体構造を作ることに成功〜」 
東京大学生産技術研究所 竹内昌治准教授、栗林香織特任研究員、尾上弘晃助教らは、平面上に培養した細胞を、細胞の内部の力(牽引力)を用いて、折り紙のように折り曲げ、自動的に立体構造を作製する技術を世界で初めて開発。これにより、管や袋構造など、中空の細胞組織構造を高速に形成する方法などへの応用可能であり、新薬の開発や次世代の再生医療分野、細胞をつかった医療器具への応用が期待。「PLOS ONE」12月12日に掲載。 
 
2012/12/10 
記者会見開催 
「自閉症に対する新しい薬物治療 ーラパマイシンは結節性硬化症モデル動物の社会的相互作用障害を改善するー」 
東京大学大学院医学系研究科の水口雅教授、東京都医学総合研究所の池田和隆参事研究員らは、自閉症の主症状である社会性相互交流障害がラパマイシン(mTOR阻害薬:抗腫瘍薬、免疫抑制薬として複数の国で認可されている)により改善することを、2種類の結節性硬化症モデルマウスを用いた動物実験により解明。すでに抗腫瘍薬として市販されているmTOR阻害薬を用いた薬物治療により自閉症の症状を成人患者においても改善しうることを示し、今後の薬物治療の可能性が開かれた。「Natute Communications」12月18日号に掲載予定(情報解禁日:記者会見会場にて告知) 
 
○記者会見 
・開催日時:12月14日(金) 14時〜15時 
・会見場所:東京大学医学部3号館1会S106会議室 
 
○問い合わせ先 
東京大学大学院医学系研究科 国際保健学専攻 発達医科専攻分野 
教授 水口 雅(みずぐち まさし) 
Tel: 03-5841-3513、 E-mail : mizuguchi-tky@umin.net 
 
公益財団法人 東京都医学総合研究所 依存性薬物プロジェクト 
プロジェクトリーダー 池田 和隆(いけだ かずたか) 
Tel: 03-6834-2379、 E-mail: ikeda-kz@igakuken.or.jp 
 
※このHorizon Scanningは豪日交流基金(Australia-Japan Foundation)からの支援をいただき、作成されたものです。 
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一般社団法人 サイエンス・メディア・センター(日本) 
Website: http://www.smc-japan.org 
 Tel: 03-3202-2514 Fax: 03-3202-2497 
 E-mail: smc@smc-japan.org 
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