2012年12月23日22時12分掲載  無料記事
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コラム

台北・松山空港の書店で      村上良太

  旅行帰りに空港の書店に立ち寄るのが習慣になっている。今回、用事で台湾に出かけたのだったが、帰りに台北・松山空港で書店を探した。 
 
  台湾の首都台北には国際空港が二つある。松山空港に降り立って忘れられないのが、滑走路のすぐ向こうに集合住宅がいくつも並んでいることだ。都市の近くに空港が位置するため、都心へのアクセスは便利で、タクシーで10分もかからない。そのため、空港もコンパクトである。 
 
  空港のターミナルを出発ゲートに向かって歩いたものの、あるのは菓子や置物、あるいは台湾の茶やコーヒーなどの土産物屋ばかりでなかなか書店が見つからない。諦めかけた矢先、目に飛び込んできたのが端っこの方に見えた小さな書店だった。書店と言うよりキオスクといった方がいいかもしれない。三畳間ほどの空間である。レジ前に中年の女性が一人トナカイの角を模した飾りをつけて立っている。クリスマスが近づいているからだ。 
 
  僕が探していたのはサン・テグジュペリ著「星の王子様」の中国語訳だ。台湾を発つ前夜、ホテルに近い喫茶店に絵本が何冊か置いてあり、「星の王子様」もあった。これならストーリーも知っているし、短いから読めそうに思ったのだ。僕は中国語がさっぱりできないが、漢字を手掛かりにすれば遠からず中国語の新聞なら読めるのではないか、と思っている。だからその第一歩として、まずは大人でも楽しめる童話や絵本を手にしてみたいと思った。 
 
  ところが書店には童話も絵本もなかった。政治関係が多数を占めている。習近平など現代中国の政治家らの顔写真や蒋介石、宋美齢、毛沢東、小平など歴史的人物らの写真も見える。経済書では経営者の稲盛和夫に関する本などが目についた。また、ピンクものなのか、艶やかな女性の顔が描かれた妙なムードの本もあった。 
 
  僕が手にしたのは「深夜食堂」。日本の漫画の中国語訳だ。第九巻が二冊、棚に置かれていた。「深夜食堂」は安倍夜郎による漫画雑誌に連載されているシリーズで、個性的な初老のマスターが深夜に営む料理屋に出入りする客たちの人間模様が毎回1つの料理を軸に語られる。テレビで映像化もされている。普段僕は漫画をほとんど読まず、「深夜食堂」も実際には読んだことがなかった。しかし、漫画の吹き出しなら絵の魅力を頼りに中国語でも諦めずに読み進める気がしてきた。 
 
  出版社は新経典文化とある。これはインターネットで調べてみると、北京の出版社で、村上春樹の小説や山岡荘八の「徳川家康」を訳して出版している会社である。訳者は丁世佳と書かれている。丁世佳氏は<英語と日本語の翻訳家として20数年糊口をしのいできた、日本の料理が大好きだ>と同書で紹介されている。各小話のタイトルになっている料理名は次のようなものだ。炸丁香魚、毛豆、木耳炒蛋・・・。英語圏ではミステリ作家の作品の翻訳を多数手掛けている丁氏は深夜の料理屋を舞台にした「深夜食堂」の翻訳も楽しんでいるようである。 
 
  とはいっても、中国語の吹き出しには意味がわからないものが少なくない。わからなくて悔しいからこそ、理解したいという思いが募ってくる。それにしても、空港の書店には語学のビギナーのために童話や絵本を置いてほしいものだ。それこそが旅を2倍にも3倍にも楽しめるものにしてくれるのだから。 
 
 
■「深夜食堂」を中国語訳した丁世佳氏の紹介記事 
http://okapi.books.com.tw/index.php/p3/p3_detail/sn/1101 
  英語圏ではカナダのミステリー作家、Alan Bradleyの作品’The Sweetness at the Bottom of the Pie’ やアメリカのスリラー作家John Verdonなどの作品を翻訳している。 


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