2013年01月13日20時30分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201301132030060

みる・よむ・きく

金原瑞人氏によるMy Favorites ’Franz Kafka ・The Metamorphosis(わが愛するカフカの「変身」) '

  青灯社から、ちょっと面白い試みの本が出ている。翻訳家・金原瑞人氏による、My Favorites ’Franz Kafka ・The Metamorphosis 'なる本だ。これは有名なカフカの「変身」を原文のドイツ語から英訳したものに、金原氏が注をつけた一冊だ。英訳自体はスタンリー・アップルボーム(Stanley Applbaum)氏による。左ページに英語訳が、右ページに対応する注が書かれている。この金原氏による注だが、本書は辞書を引かなくても英訳の「変身」を読めるのが売りであり、確かに相当数の注があり読みやすくなっている。 
 
  金原氏は前書きで、カフカの「変身」の英訳書をあえて出す意図を述べている。それによると、英語から日本語に翻訳する時は言語間の違いが大きいため、極めて作業に負荷がかかっている。しかし、同じゲルマン語圏に属するドイツ語から英語に翻訳する時は日本語に翻訳する時よりもはるかに言語間の移行が簡単だというのである。以上は多少、金原氏の文章を自分なりに意訳したものだが、間違っていないだろう。 
 
以下はアップルボーム氏による、「変身」の冒頭の英訳である。ある朝、グレーゴル・ザムザがただならぬ夢から目覚めてみるとベッドの上で巨大な一匹の虫になっていた、という内容である。 
 
  When Gregor Samsa awoke from trroubled dreams one morning, he found that he had been transformed in his bed into an enormous bug. 
 
一方、ドイツ語の原文では次のようになっている。(注は当方で。) 
 
  Als Gregor Samsa eines Morgens aus unruhigen Traumen erwachte, fand er sich in seinem Bett zu einem ungeheueren Ungeziefer verwandelt. 
 
注)als= 〜した時に、aus=〜からunruhig(en)=不安な、Traumen=夢、erwachen= 目が覚める、fand(finden) = 見出す、sein=〜である、存在する 、Bett=ベッド、ungeheuer=ものすごい、Ungeziefer=害虫、verwandeln=変形する、変化する 
 
  これら英訳とドイツ語の原文とはよく似ている。金原氏は前書きの中で別の個所から語順がぴたり同じ文章を引用して説明しているけれども、「変身」の冒頭の文章でも雰囲気が似ていることは読者にわかっていただけるだろう。だからこそ、ドイツ語ができなくても日本で必修になっている英語を活用すればより原文に近い「変身」が楽しめる、というのである。 
 
  これまでたとえばポルトガル語の記事をスペイン語やフランス語、時には英語に自動翻訳して読んできたことがある。言語間が近いほど、自動翻訳のエラーは少なくなり、言っていることがわかるものだ。逆に、日本語のように文法的にも単語的にも距離のある言語に自動翻訳したらかなり意味不明の文章になってしまう。このように、今、言語間の近さ、遠さがデジタル化の中でより大きな意味を持ちつつある。言語間の距離が近ければ「変身」のケースのように、英語を活用してより原語に近い形で小説を読むことができる。 
 
  ではそれにいったい何の意味があるのか?原文でなく、原文に近い言語に翻訳された小説を読むことにだ。それはやはり原文を読むことの価値と同じ意味合いだろう。言葉に宿っている言語感覚を楽しめるということである。翻訳をしたら失われるものが確かにあるからだ。逆に言えば、英語訳ではなく、フランス語訳で読めば今度は違ったニュアンスが漂うことになる。こんな風に言語間を移動する軽さを持てば、今世界で起きているさまざまな出来事をより身近につかめるのかもしれない。また様々な言語で1つの小説を読み比べる楽しみもある。またフランス語を履修した人にとっては同じロマンス系言語のスペイン語やイタリア語の小説をフランス語訳で読むということもありえるだろう。 
 
  また今回の「変身」の場合のように英語で読む場合のメリットは英語で一節を引用することも可能となり、世界の人々とこの小説について話をすることができるようになることだ。ドイツやフランスなど欧州においても英語の通用する範囲は広がっている。映画でも小説でも、世界の中で話をしようと思えば実際的には文章でも、タイトルでも英語に変換する必要がある。 
 
 
■ワレーリイ・フォーキン監督「変身」 
 
  「この主人公の悲惨な運命を描く短い物語である。虫になったために家族から疎まれ、言葉も交わせず、人間の食べ物ものどを通らなくなっていく。男は虫に変わってしまうのだ。カフカの「変身」がロシアの監督ワレーリィ・フォーキンによって映画化されている。フォーキンは演劇界の演出家である。このDVDを手にした時、最初に思ったことはグレーゴルが何に変わったのか?ということだった。」http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201110241752281 
■カフカ作「変身」の中身 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201011010105451 
  「ところでこの小説の主人公であるグレーゴル・ザムザが変身した虫は具体的に何だったのか?という有名な謎がある。ドイツ語の原書では「Ungeziefer」であり、毒虫を指すそうだ。しかし、「毒虫」という言葉は僕にはあまりぴんと来ない。三修社の「新現代独和辞典」を引いてみると、「害虫、まれに、有害小動物(ネズミなど)」とある。害虫と毒虫とではどこかニュアンスが違う。いずれにせよ漠然としたままだ。」 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。