2013年01月22日13時10分掲載  無料記事
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地域

【伊那谷から】やはり出てきた自衛隊派遣論議  

伊那谷から 190         (2013年1月21日) 
 
 やはり、と言うべきか。想定通りの声が政府与党から上がった。 
アルジェリアで起きた武装勢力の人質事件に絡み、自民党の石破茂 
幹事長が、邦人救出のために自衛隊を使えるよう法の改定を検討す 
る、と公言した。報道から詳細は伝わらないが、現地が安全でなく 
ても在外邦人を救出・輸送できるように自衛隊法と関連法令を改め 
ることのようだ。小野寺五典防衛相も同様の発言をしている。 
 
 人質事件は驚きと恐怖の連続だった。もし近親者や知り合いが人 
質の中にいたら、どんな手段を使ってでも助け出したい、と私自身 
も切に願うに違いない。だが一歩引いて考えると、仮に自衛隊を現 
地に送ったとして、どんな救出活動が可能だったのか。 
 
 強権支配を強めるアルジェリアは、日米政府などの人命尊重の要 
請を聞かず、事前通告もなく自国の特殊部隊を投入して速攻した。 
「米軍が準備を進めていた特殊部隊の派遣を拒否し、独力での解決 
にこだわった」結果、大勢の犠牲者を出した。「救出よりも、犯行 
グループの壊滅が主目的だった」と、国際テロの専門家は声をそろ 
えているそうだ(19日付け朝日新聞朝刊)。 
 
 そのような土地に、仮に自衛隊を派遣したとして、何が出来るの 
か。報道機関もほとんど入れず情報は乏しいが、疑問に感じざるを 
得ない。政府与党の狙いは別のところにあるのではないか。 
 
 奇しくも、伊那谷で改憲について考える集いが先週末あった。高 
橋哲哉・東大教授と曽我逸郎・中川村長の対話は、自民党が昨年4 
月に決定した「日本国憲法改正草案」(インターネットで読める) 
を軸に、憲法とは何なのかという原点から幅広い分野に及んだ。こ 
こでは戦争の放棄を謳った九条を軸につまみ食いする。 
 
 改正草案の九条は1項(平和主義)で現憲法を踏まえた後、「前 
項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」を加えている。 
自衛権は自明の理とされるが、現憲法にない項目を新たに書き込む 
意図を、「多くの戦争が実際には自衛権発動の名目で行われてきた 
以上、戦争に道を開く」と高橋さんは憂慮する。 
 
 九条の二で「国防軍を保持する」を盛り込み、「国際社会の平和 
と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩 
序を維持し……」と位置づけている。12月の衆院選で自民党が公約 
「重要政策2012」に盛り込んだ、あの国防軍である。 
 
 自衛隊は国際的に軍隊扱いされている、その実態に名目を合わせ 
るだけ−−と自民党は言う。だが旧軍の暴走から大きな犠牲を招い 
た当事国の国民として、その形式論には同調しがたい。改憲して国 
防軍を持ち、普通の国になることが狙いではないのか。今回の自衛 
隊法の改定発言は、そんな伏線に思われてならない。 
 
 上辺ではなく、真意を読み解く重要性を改めて感じる。そのため 
に対話集会を開いた勉強会「竜援塾」の心意気に敬意を表したい。 
 
  田中 洋一 


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