2013年02月04日15時25分掲載  無料記事
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政治

アベノミクスは人びとの生活を破壊 新政党「緑の党」が安倍政権を批判 安原和雄

  2012年夏発足した新政党「緑の党」が最近、安倍政権を手厳しく批判する姿勢を打ち出した。「アベノミクスは人々の生活を破壊する」というのだ。正論であり、支持したい。ただ「緑の党」といってもまだ広く知れ渡っているわけではない。 
 しかしその政策は、変革意欲にあふれている。「いのち」尊重を軸に脱「経済成長」、脱「原発・放射能」、脱「軍事同盟・日米安保」を目指すだけではない。重要な政策については官僚などにゆだねないで、<市民自ら決定し、行動する「参加する民主主義」実践>の旗を掲げている。今2013年夏の参院選で果たしてどれほどの存在感を印象づけることが出来るか、そこに注目したい。 
 
▽ 「緑の党」がアベノミクスを批判 
 
 「緑の党」は2013年1月末日、「アベノミクスは人びとの生活を破壊する」と題して、安倍政権を批判する見解を公表した。その内容は以下の通り。 
 
  安倍政権は、アベノミクスと呼ばれるデフレ脱却・経済再生の政策を華々しく打ち出してきている。この政策は(1)公共事業(「機動的な財政出動」)、(2)大胆な金融緩和、(3)成長戦略 の「3本の矢」から成り、その第1弾として緊急経済対策が決定された。 
 
 緊急経済対策は、補正予算案として国が10.3兆円(基礎年金の国庫負担分を含めると13.1兆円)を出し、自治体なども合わせた事業費が20兆円に上るという大がかりなもので、その中心は4.7兆円を費やす公共事業である。「防災・減災」のために、老朽化した道路や橋の改修に取り組むが、必要性に疑問のあるものなどが含まれ、従来型の公共事業の全面的な復活が目論まれている。また、緊急経済対策には「成長による富の創出」や「暮らしの安心」のための支出も含まれているが、後者には自衛隊の装備強化まで入っている。 
 
 安倍政権は、公共事業中心の財政出動が民間の投資や雇用の増加に波及し、景気回復をもたらすとしている。しかし、バブル崩壊後の90年代にも採られたこの手法は、まったく効果がなく巨額の借金だけを積み残した。今回も、主たる財源を7.8兆円の国債発行に求めており、そのため本年度の国債発行額は52兆円にまで増え、すでに1000兆円に達している政府債務はますます膨らむ。 
 それによって長期金利が上昇し、国債の利払い額が雪だるま式に増える危険がある。 
 
 安倍政権は、財政出動と同時に無制限の金融緩和(注)を進めるために、日銀と政策協定を結び、日銀に2%の物価上昇率目標(インフレ・ターゲット)を定めて無制限の資金供給を行なうように強要した。 
しかし、すでに日銀による金融緩和は十分すぎるほど行なわれているが、企業や個人による資金需要が低調なため、金融機関の手元に大量の資金が滞留している。安倍政権の狙いは、政府が増発する国債を金融機関がいったん購入し、それを日銀に全額買い取らせることによって財政赤字を穴埋めさせることにある。これは、日銀が戦時中に国債を直接引き受けたのと同様で、財政赤字の膨張に対する歯止めは失われる。 
 
 安倍政権のブレーンたちは、日銀の無制限の資金供給や大胆な金融緩和によるインフレの進行が予想されると、企業は投資のための借入を増やし、個人はモノを早めに買おうとするから経済が活性化し景気が回復すると説いている。しかし、この20年間で日本の物価上昇率が2%を越えたのは、消費税を5%に引き上げた97年と食料品やガソリンの値段が急騰した08年だけだ。金融緩和に伴う円安の進行は、自動車や電機部門の企業の輸出を伸ばしその株価を上昇させるが、やがて燃料など輸入価格の上昇を引き起こす。 
 インフレが人びとにもたらすのは、食料品や燃料の値上がりと消費増税分の価格への転化だけであり、けっして給料が上がったり生活が楽になったりするわけではない。 
 それは、2000年代に入って、企業利益が好調な時期にあっても働く人々の所得はむしろ低下していた事実を見れば明らかだ。 
 
 安倍政権は、アベノミクスが景気を回復させて実質GDPを2%押し上げ、60万人の雇用を創出すると豪語している。しかし、すでに経済成長の時代は終わり、仮に一時的に経済成長しても、増えるのは低賃金の非正規雇用と正社員の長時間労働だけなのだ。 
 また、「借金を増やさずに社会保障を拡充するために消費税率を引き上げる」と言いながら、国債増発で借金を増やし、社会保障は拡充どころか削減しようとしていることも批判されるべきだ。 
 
 いま求められている経済政策は、従来型の公共事業の復活でも国債増発を支える金融緩和でもない。私たちは、質の良い雇用と仕事を再生可能エネルギー、農業と食、医療・介護・子育ての分野で創り出し、地域のなかでモノと仕事と資金が回る循環型経済をめざしていく。 
 
(注)金融緩和:(1)金利の引き下げや (2)民間の金融機関から国債などを日銀が買い取ることによって、市場に回る通貨を増やすこと。現在、金利はゼロに近く、(1)は限界に達しており、(2)の施策が取られようとしている。 
 
▽ 「緑の党」はどういう政党か 
 
 「緑の党」は2012年7月結成された新政党で、地方議員はかなりの数で活躍しているが、衆参両院の議員はまだいない。2013年7月の参議院選挙に候補者を立て、議席獲得をめざす。同党の共同代表4氏は次の通り。 
*すぐろ奈緒(なお)=東京都・杉並区議会議員 
*高坂 勝(こうさか・まさる)=東京都・『減速して生きる ダウンシフターズ』著者 
*長谷川羽衣子(はせがわ・ういこ)=京都府・NGOe-みらい構想代表 
*中山 均(なかやま・ひとし)=新潟県・新潟市議会議員 
 
 この「緑の党」はどういう政策を掲げているのか。同党の「緑の社会ビジョン」によると、その骨子は以下の通りである。 
(1)経済成長優先主義から抜け出し、「いのち」を重んじ、自然と共生する循環型経済を創り出す。 
(2)プロの政治家、官僚、専門家に重要な決定を預ける「おまかせ民主主義」にサヨナラし、市民が自ら決定し、行動する「参加する民主主義」を実践する。 
(3)原発のない社会、エコロジカルで持続可能な、公正で平等な、多様性のある社会、平和な世界をめざす。 
(4)いのちと放射能は共存できない!「地産・地消」の再生エネルギーで暮らす。 
(5)競争とサヨナラし、スロー・スモール・シンプルで豊かに生きる。 
(6)すべての人が性別にとらわれず、「自分らしく」生きられることをめざす。 
(7)平和と非暴力の北東アジアを創る。沖縄と日本本土の米軍基地をなくし、徹底的な軍縮を進め、軍事同盟としての日米安保のすみやかな解消を図る。 
 
▽ メール交換による活発な党内議論 
 
 緑の党は、メール交換によって活発な党内議論を繰り広げている。その典型例が憲法をめぐる意見交換である。以下にその一例を仮名で紹介する。なおメールによる意見交換は実名で行われている。 
 
*信州竜援塾のNさん(男性)から 
 憲法についての私見です。9条だ、96条だ、xx条だという運動からは、そろそろ卒業しなければなりません。「xx条を守ろう!」という運動から「憲法で想定した日本国の姿を実現しよう!」という、運動に転換しませんか。 
 憲法を守るべきは天皇、官僚、議員、公務員です。末端公務員の体育教師が、弱者である生徒に日常的に暴力をふるうことが容認されるような組織のあり方を、日本国憲法は想定していません。国家と企業がぐるみになって地方を中央に隷属させ、金の力で無理無体を押し通し、挙句に大事故を起こしても国家や企業が責任を取らなくてもいいような社会を日本国憲法は想定していません。 
 
 ところが現実は、憲法が想定するのとは正反対の政策が堂々とまかり通っています。となれば憲法の内容などほとんだ知らない大半の人のなかでは、「ろくでもない憲法だから、何の役にも立たない」と考える人が、日々少しづつ増えています。 
 みどりの党には従来の護憲政党のような「9条を守る」運動ではなく、「憲法が想定する社会の実現」を掲げていただきたい。 
 
*「緑の大阪」豊中のYさん(女性)の返信 
 貴重なご意見ありがとう。私は、10年ほど前から、大阪の北摂地域にて「活かそう憲法!北摂市民ネットワーク」という会をつくって、現在の憲法の実現に向けて活動して来ました。 
 
 Nさんがおっしゃるとおり、憲法を「守る」べきは、天皇、官僚、議員、公務員です。しかし、その守るべき議員が「憲法9条」をないがしろにして、軍備を増強し「国防軍」にしようとしています。 
 私は、最低限このような動きに対して黙っているわけにはいきません。安易に、「憲法を創る」という改憲派の議論に巻き込まれるわけにはいかないと思っています。実現すべきは、「憲法」の「基本的人権の尊重」であり、「平和主義」であり、「国民主権」です。 
 
 更に言えば、私はこの「憲法」の理念を活かし発展させるべく、「緑の党」の理念に賛同し、活動をしています。今の「憲法」の基本が「個人の尊厳」なら、「緑の党」の基本的なスタンスは、「命の尊厳」であると思っています。その意味で、安倍内閣などの改憲派とは一線を引いて、「緑の党」の社会的ビジョンの実現に向けた活動を行うべきだと思っています。 
 
今の「安倍政権」の改憲の動きは止めるべきです。「安倍政権」の憲法9条・憲法96条改悪の動きを止める意味で「守る」という言葉を使いました。決して憲法を守る活動だけをしている訳ではありません。 
 
<安原の感想> 変革力を持続させる存在感のある政党へ 
 
 右翼反動の安倍政権をしっかり批判する立場を打ち出している政党としては、日本共産党以外では「緑の党」を挙げたい。緑の党は伸びてほしい政党であり、新しい時代を創る意欲に燃える政党、という評価もできる。 
 緑の党の特質としては、アベノミクス(安倍政権の経済成長策などのデフレ脱却・経済再生の政策)への批判も見逃せないが、同時に注目すべきは、「緑の社会ビジョン」である。そこには「いのち」尊重を軸に脱「経済成長」、脱「原発・放射能」、脱「軍事同盟・日米安保」などを掲げている。このことはめざす政策のあり方として重要である。 
 
 それだけではなく、「自分らしく」という主張に注目したい。<「おまかせ民主主義」にサヨナラし、市民が自ら決定し、行動する「参加する民主主義」の実践>を宣言すると同時に、<すべての人が性別にとらわれず、「自分らしく」生きられることをめざす>としている。この姿勢が<公正で平等な、多様性のある社会、平和な世界をめざす>こととつながっている。 
 
 政党の政策論に「自分らしく」という発想を盛り込むところなど、いかにも緑の党らしい。一人ひとりの日常的な生き方と、政党として目指すべき政策とが切り離せない形でつながっているところが既存の政党とは異質といえる。だからこそメール交換による活発な党内議論も可能となり、これは新しい政治スタイルと評価できるだろう。 
 ともかくユニークで存在感があり、変革力を持続させる政党に成長していくことを期待したい。 


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