2013年02月09日01時33分掲載  無料記事
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コラム

不思議な世界   村上良太

  パリで彫刻家をしているフランス人の友人ヴァンサン・ベルゴン氏から聞いた話。彼の彫刻作品を扱っているギャラリーに、ロンドンからカタール首長の息子がやってきた。首長の息子の後ろには何人も護衛がついている。友人の彫像はブロンズの人間像だ。ジャコメッティを思わせる彫像は細くて、大胆なデフォルメが施されている。それでいて、ジャコメッティの猿真似ではない。仏像のように人間の魂が宿っている。そんなギャラリーに突然やって来たアラブの王族。なんと友人の彫像はただちに11体すべて売却済みになった。 
 
  これだけなら、喜ぶべき話だ。だが、問題は売価だ。ギャラリー側が値切られて元もろくに取れなかったと友人はこぼしているのだ。今や世界的不景気の欧州である。足元を見られたのかもしれない。しかし、彫像を丸ごと買って値切るその交渉力はしたたかなものだ。友人は「ブロンズ像の製作って結構金がかかるんだぜ」と嘆いている。彼によれば、パリの不動産も中国と並んでカタールの資本が買いあげているようだ。 
 
  「僕等は消費主義と、石油文明と、蜃気楼のようなマネーの波間を漂っている。イスラム教国や共産主義国が資本原理主義と手を携えているなんて何とも不思議な世界だよ」 
 
  それにしても、友人の彫像11体はいったいどこへ行くのだろうか?ロンドンの邸宅を飾るのだろうか。それともカタールの宮廷に飾られるのだろうか?見方によってはカタール首長の息子は美術商の才能があるのかもしれない。 
 
■ヴァンサン・ベルゴン氏の彫像 
http://www.vincent-sculptures-bronze.com/sculptures/ 
 
村上良太 


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