2013年02月12日14時04分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201302121404342

アジア

土地収奪とグローバル化に揺れるアジア農民  ビア・カンペシーナ台湾フォーラムから 

 2月初旬、台湾でアジア農民組織が集まり、食料主権と資本による農地収奪を話しあうフォーラムを開いた。フォーラムでは地元台湾の農民グループから、食料自給率が30%に落ち、対中国、アメリカからの農畜産物輸入と開発による農地収奪で農民が苦境に陥っていることが報告された。(稲垣豊訳) 
 
 以下は台湾の社会運動をあつかうウェブサイト「苦労網」からの翻訳。原文ページに写真などもあるが、こちらのアルバムでも画像が見られる。 
http://www.flickr.com/photos/coolloud/sets/72157632678054466/show/ 
 
台湾:アジア農民によるピープルズ・フォーラム 
 
原文と写真 
http://www.coolloud.org.tw/node/72701 
 
文:孫窮理(苦労網記者) 
責任主編:陳韋綸 
 
 世界的な農民組織であるビア・カンペシーナ(La Via Campesina/農民の道)は、台湾農村陣線、農村のコミュニティや農民組織と一週間の交流プログラムを終え、今日(2月3日)の午後、総統府へ通じ るケダカラン大通りで「ピープルズ・フォーラム」を開いた。新自由主義グローバリゼーションの脅威をテーマに各国農民の交流が実現した。 
 
 フォー ラムは「食糧主権」がテーマだ。農村陣線のスポークスパーソン蔡培慧は、台湾の食糧自給率は30%にまで落ち込み、「私たちの食卓や冷蔵庫は海外に運び去られたかのようだ」と訴えた。いわゆる「自由経済示範区」※の流れの中で、政府は800品目の農産品の輸入規制の緩和を目指している。添加剤ラクトパミン が使われた米産豚肉の輸入※も目論まれている。 
 
※自由経済示範区とは台湾の経済特区構想。産業イノベーション、人材育成、医療観光、付加価値農業、国際物流などが対象。 
http://www.kmt.org.tw/japan/page.aspx?type=article&mnum=119&anum=8340 
 
※添加剤ラクトパミン使用の米産豚肉の輸入問題については 
http://www.pic-bio.com/blog/2012/04/post-257.html 
 
蔡培慧は、前農林水産大臣の陳武雄がECFA(ECFA:両岸経済協力枠組協議。台湾と中国の自由貿易協定)の締結後も中国からの農産品の輸入は緩和しないと約束し、馬英九総統はアメリカ産牛肉の輸入を緩和する際には 「牛豚分離」を再三誓ったにもかかわらず、今になってこれらの約束を反古にする動きを見せ始めており、政府を信頼することはできないと批判した。 
 
 大埔事件の後の2010年7月17日、「土地収用条例」改定の話が持ち上がった2011年7月16日、与野党が同条例改定の動きを見せた同年12月13日の三回※にわたって農民達はこのケダカラン大通りに結集した。 
 
※ 大埔事件は2010年6月8日に苗粟県の農地が暴力的に収用された事件。同年7月17日に農地活性化を名目に全面的な農地収奪の動きを見せた政府に抗議して台湾各地の農民農村団体が夜を徹して座り込む。2011年7月、12月も同様の動きを見せた政府に抗議して徹夜の座り込みを行う。 
 
2010年7月17日の様子 
http://www.coolloud.org.tw/node/53232 
2011年7月16日の様子 
http://www.coolloud.org.tw/node/63083 
2011年12月13日の様子 
http://www.coolloud.org.tw/node/65435 
 
 
 美濃愛郷協進会の出身でコミュニティ環境と農民運動に従事する鍾永豊は次のように提起した。台湾では1950年代の土地改革、農業が工業を支えるという政策以降、小規模農業体制がつくられてきた。1980年代になり地方政治の派閥化が発展、90年代にはいるとグローバル化による侵略で、新自由主義が農地、農 業を系統的に略奪した。台湾の農業問題に切り込めば切り込むほど、各国、とりわけ第三世界の農民の境遇と似通った事態が台湾農民を襲っていることが分かる。 
 
 政治大学の地政学部の徐世栄教授は次のように述べた。政府は金持ちから税金を取れないので、土地収用による財政収入でそれに代えよう としている。地方政治の有力者の半数以上が建設や土地開発によってのし上がった者だ。なんら「公益性」のない収用こそが、台湾における土地流出の重大な理 由の一つである。 
 
 食糧輸入国の小農だけでなく、輸出国の農民も同じ境遇にある。 
 
 ビア・カンペシーナ東アジア・東南アジア の代表であるHenry Saragihは「ローカル化」農業と農地収奪のグローバルな背景を説明した。新自由主義が強調する自由貿易、自由競争のロジックのなかで、台湾は中国、 タイ、そして将来的にはラテンアメリカとアフリカから食糧を輸入することになるだろう。そしてそれら食糧輸出国における利益は決して現地の農民の懐に入る わけではない。インドネシアやマレーシアはパーム油の輸出国となり、タイはコメの輸出国となっているが、そこでは多くの熱帯雨林が伐採され、換金作物用農 地になっており、それによって巨額の利益を上げているのは農地の囲い込みを行っている多国籍企業なのである。 
 
 Saragihは次のように 発言した。1995年に世界貿易組織(WTO)が設立されてから、世界中で「土地収奪」「食糧危機」「気候変動」がますます深刻化した。現在ビア・カンペ シーナには70余りの国の150以上の農民組織が参加している。これらの組織は各地の農地収奪反対の運動を支持している。農民が形式的ではない本当の土地 所有権を持つことでしか食糧主権を実現することはできない。農地に対する権利の確立は農民にとってだけでなく、世界各国の食の安全保障にとっても有意義で ある。すべての人が農地収奪に反対する農民を支持する必要がある。 
 
 インドネシア小農連盟(SPI)のAgus Ruli Ardiansyahはこう指摘する。新自由主義が第三世界における多国籍企業による農地収奪を引き起こしている。多国籍企業は自らの利益のために農 (工)業生産を行っている。これは紛れもない「新植民地主義」だ。台湾と同じくインドネシアでも土地略奪のための悪法が無数にある。近年インドネシアが発 展しているといわれているが、それは土地の略奪によるものなのだ。 
 
 タイ北方農民連盟(NPF Thailand)のWirat Phromsonの発言。タイ政府が外国人による農地購入を認めてから現在までに農地の90%が外国の所有者のものになった。外国資本による土地収奪に対 してタイ政府はなんら対策を採っていない。政府は農地保護を目的に土地購入を行う「農業銀行」の設立を約束したが、ほとんど進展は見られない。政府の不作 為に見切りをつけた農民組織は、地域コミュニティの力を生かしてこれらの土地の自主購入計画を進めつつある。 
 
 台湾からは、淡海新市鎮第2 期開発区収用反対連盟、台南鉄道地下化東部移転反対自救会、竹東二重埔自救会、台中文山工業区自救会、竹北璞玉自救会などが発言した。タイやインドネシア と異なるのは、土地を取り戻したとしても農業を行うことが出来るのかどうかという問題がある。たとえば淡海、台南、台中などでは問題となっている土地は早 くから休耕地となっていた。農業そのものが魅力を取り戻す必要がある。午後いっぱい続けられたフォーラムでは、遺伝子組み換えと種子の保存、農業自由化への抵抗、エコ農業、気候変動とエネルギー問題と農業などのテーマについても台湾や各国の農民やNGOが参加して活発な議論と交流が行われた。 


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