2013年04月25日13時14分掲載  無料記事
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映画『異国に生きる 日本の中のビルマ人』 人生をかけて守りたいものは……   笠原真弓

 土井敏邦監督自身が「こんなにいい映画なのに…」とおっしやった通りだった。そこに映し出されたのは、ビルマ青年(「ミャンマー」という国名は、独裁政権がつけたもので、民主化運動活動家らは承認していない)の生き方であり、家族愛であり、人間愛であった。 
 
◆正式に難民となる 
 
 土井監督は、『沈黙を破る』(2009年キネマ旬報ベスト・テンの1位)などパレスチナを撮ってきたが、パレスチナの青年と日本の中で民主化運動をしている彼らに共通の理念を感じ、14年の歳月をかけて記録してきたという。画面に現れたチョウチョウソー(チョウ)さんは、優しそうな青年だった。 
 
 彼が難民として日本にいるのは、軍事政権に反対して起こった民主化運動に身を投じたから。自国で1988年の大きなデモに参加した後、91年にタイ経由で日本へ出国したのだが、未だにブラックリストから削除されていない。 
 
 日本ほど難民認定が難しい国は、世界でも少ないのだが、本人も難民申請に戸惑うものがあり(「難民」のビルマ語に庇護を求めるニュアンスがある)出国6年後に申請し、1年半かかってやっと受理される。再入国許可書を手に、チョウさんは、タイのバンコクへ行く。そこには、妻ヌエヌエチョウ(ヌエ)さんが、夫の迎えを待っている。 
 
 在日の民主化活動家たちに迎えられたヌエさんは、早速日本にいるビルマの子どもたちのアイデンティティが気になり、ビルマ語を教えたいと語る。 
 
 彼らは、父母の葬儀にすら帰国できない。 
 
 チョウさんはこのような生活を選んだ自分について「自分ひとりだけお金儲けて、いい生活しようと思えば、それはできます。そんな生活は何になるのでしょうか。祖国の人々は、大変な生活をしています。それを無視することはできません」ときっぱりと語る。 
東日本大震災が起きると、チョウさんたちは、 「自分より困っている人を助けるのは当然、誰であろうと」と、東北支援へと向かう。被災地では、バスを仕立てて来る彼らに、最初はおそるおそる、次第に親しみを込めて、異国の支援を受け入れていく。支援する彼らの、そんな活き活きした様子が映し出される。 
 
◆民主化運動も家族の支えなければ… 
 
 出国したばかりの頃は、「早く帰れるように」「会いたい」と言っていた母親も、ブラックリストに載っていると知ってからは、「帰らないほうがいい」というようになった。きょうだいも応援してくれている。家族の理解に支えられての日本生活である。 
2005年にバンコクで家族との再会を果たす。金色の大仏の前に座る父子。父は佛の教えを語り、息子は同意の相槌をうつ。「人々のために生きる」という空気が醸されていく。それはチョウさんの生きる指針そのものだった。 
 
 父の教えに加え、バンコクのホテルでチョウさんの迎えを待つあいだ、枕カバーを借り、チョウさんへのプレゼントのセーターを入れて夜はそれと並んで寝ていたというヌエさん、二人のあいだで交わされた大量の手紙に、彼の周りの人々への強い「愛」、彼を支える人々の彼への強い「愛」を感じた。 
 
◆今の生活は、祖国で役立つ人間になるため 
 
 来日20年以上の歳月が過ぎた。今の生活は、いつか祖国に帰った時に、人々の役に立つための準備期間でもある。そのために日本ですることはたくさんあるという。 
 
 日本での難民生活はストレスが高い。だから仲間も自分も老けるのが早いといいながら、休日には仲間と共に大使館前にデモをかける。優しい面立ちは変わらないが、黒くふさふさとした髪が白髪になった今も…。 
 
 彼は白髪を傾け、涙を溜めてながらビルマに帰ることが一番の「夢」だと語る。 
 
 彼ら夫婦は、高田馬場でビルマ料理「ルビー」をしている。近いうちに行くつもりだ。友だちとのランチに最適のようだ。 
 ポレポレ坐での上映は25日までだが、上映会など歓迎だと土井監督は、訴えていた。 
 
≪上映情報≫ 
【東京】 2013年3月30日(土)〜4月25日(木)ポレポレ東中野 
【札幌】2013年5月7日(火)〜20日(月)蠍座 
【大阪】2013年5月下旬以降 第七藝術劇場 
【名古屋】2013年6月以降 名古屋シネマテーク 
 
▽土井敏邦監督作品 
『沈黙を破る』 
『“私”を生きる』 
『飯舘村 放射能と帰村』(5月4日から新宿K'sシネマ) 


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