2013年05月01日14時12分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201305011412373

国際

【北沢洋子の世界の底流】ユーロ危機とIMFの役割  ラガルデIMF専務理事はヨーロッパの疑似元首か

 スタッフの解雇など一時は存亡の危機に陥っていたIMF(国際通貨基金)が息を吹き返した。大口借り手の前倒し返済、世界の民衆運動の圧力でによる貧国重債務のキャンセルなどが背景にある。そのIMFがヨーロッパの債務危機で息を吹き返した。 
 
1. ヨーロッパの債務危機がIMFを救済 
 
 一時期、IMFは存亡の危機にあった。なぜなら、07年頃、ブラジル、アルゼンチン、トルコ、ロシアなど大口借り手だった国が、IMFの債務を前倒しして、全額返済したからだ。また、IMFへの最貧国の重債務は、ジュビリー2000の国際キャンペーンの結果、キャンセルしてしまった。 
 
 IMFは債務危機に陥った途上国に“救済”融資をすることによって、悪名高い「構造調整プログラム(SAP)」を押し付ける。実は、これはBail Out(救済融資)ではなく、IMFの加盟国が自分の引き出し権を行使するのだが。 
 実際は、IMFは約束した救済融資を一度に供与せずに、3カ月毎に分割して供与する。その度ごとに、債務国はSAPの中の決められた項目を3カ月毎に実施しなければならない。また、SAP自体も債務国政府がIMFの司令通りに「Letter of Intent」を書いて、自主的にIMFに提出したという形式になっている。 
 
 つまりあくまでも途上国の意思であるかのように装っている。IMFの融資を受ければ、SAPを実行しなければならない。人参を鼻の前にぶら下げられて、走る馬のようだ。 
 IMFへの債務がなければSAPから逃れることが出来る。これが、債務の前倒し返済の狙いである。一方、貸し手がいなくなったIMFは、金融機関としては成り立たない。IMFではスタッフの解雇などが始まった。 
 
 ヨーロッパで債務危機がはじまると、IMFは息を吹き返した。しかし、自己資金が3,000億ドルしかないIMFは、とうてい単独では、ヨーロッパの面倒を見切れない。そこで、(1)IMFは、(2) ヨーロッパ委員会(EC)、すなわちEUの政府、(3)ヨーロッパ中央銀行(ECB)と組んで、債務危機に陥ったユーロ圏の国ぐにに救済融資(Bail Out)した。これは俗に「トリオ」と呼ばれ、選挙なしに非民主的なプロセスで存在している国際機関である。 
 
 トリオの中で、すでに途上国で経験済みなSAPの作成者のIMFが、唯一、「緊縮政策」の青写真を描くことが出来る。IMFは、ヨーロッパのユーロ圏の政府債務危機によって、救われたのであった。 
 ユーロ圏で、GDPに占める政府の債務(借金)が「公式の規定では3%」より大きくなって、「デフォールト(債務返済不履行)」に陥った国が出てきた。これは、公務員がおお過ぎ、かつ働らかないためではない。また政府の放漫財政のせいでもない。真実は、政府が、銀行を破産から救うために大量のBail Outを行ったせいである。つまり、私的な債務が公的な債務に代わっただけのことである。 
 
2.ラガルデ専務理事はヨーロッパの疑似元首 
 
 昨年9月18日、ベルリンで、ショイブレ蔵相の誕生会が華々しく開かれた。ここに大口借り手のがスピーチをして注目を集めた。しかし、ラガルデ専務理事の出席は、ショイブレ蔵相の長年の親友であるというだけではない。ユーロ危機によって、IMFが復活したことを証拠づけるものであった。 
 
 『ニューヨークタイムズ』の国際版である『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン(IHT)』紙の4月19日号によると、「IMFは、EC、ECB、そしてユーロ圏加盟国政府よりもはるかに大きい発言力をもっている。ラガルデ氏は、ヨーロッパの疑似元首である」と書いている。 
 
 最近、ラガルデ氏はショイブル蔵相に対して、「ドイツは、過去3年間にわたるギリシャ、ポルトガル、アイルランドなどに対する厳しい緊縮政策を少し弱めるべきだ」と言いはじめた。 
 これまでIMFとドイツは、「Bail Outを受けた国は、財政支出を減らし、税金を増やすべき」だと言い続けてきた。しかし、最近になって、ラガルデIMF専務理事は、「極端な緊縮政策は、逆に非生産的だ」と言い始めている。このIMFの転換は、ヨーロッパに影響を及ぼし始めている。 
 
 しかし、IMFは、ヨーロッパにあまりにも深く関わってしまった。それが問題だ。3年前までは、ヨーロッパはIMFから全く借りていなかったが、今やその融資の大半はヨーロッパに向けられている。IMFは、ポルトガル、アイルランド、ギリシャなどへの   Bail Out融資の3分の1を出している。残りは、ヨーロッパ各国が負担している。 
 
 一方、融資を受けた国では、政府、市民社会ともに、IMFの厳しい条件に怒っている。というのは、IMFが、財政削減、増税に加えて、長年にわたって労組『IHT』は、「IMFが緊縮政策を再考するとしても、その履行を要求し続けるだろう。なぜなら、これは、IMFの唯一の存在理由であるからだ」と書いている。実際、EC、ECB、IMFという国際機関の中で、IMFだけが、途上国に債務危機が発生した80年代以降、SAP、そして現在は緊縮政策を描くことが出来るベテランのスタッフを抱えている。 
 
------------- 
Yoko Kitazawa 
url : http://www.jca.apc.org/~kitazawa/ 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。