2013年05月08日00時05分掲載  無料記事
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国際

【北沢洋子の世界の底流】国連が武装無人機の実態を調査  国際法違反、人権侵害、市民も巻き添え

 今年1月24日、国連は、米軍が対テロリスト攻撃などに使っている「武装無人機(UAVs)」の実態を調査すると発表した。これを担当するのは、ロンドン常駐のBen Emmerson 国連テロ対策・人権特別報告官である。Emmerson 報告官は、就任に当たって、「遠隔地の目標を殺戮するUAVsに対して、国際的な関心が集まっていることを受けた調査である」として、「テロリズム及び初期段階の反乱に対してUAVsを使用することついて、国際法の原則に基づいて検証されなければならない。国連は、UAVsの使用についての国際的なコンセンサスを確立すべきである」と語った。 
 
 Emmerson報告官は、これまで、パキスタン、イエメン、ソマリア、アフガニスタン、パレスチナなどで使用された中から選んだ25の事例について、国際法違反がなかったか、専門家が現地調査する、と述べた。国境を超えた遠隔地をUAVsで攻撃することが、大勢の民間人の犠牲者を出したことについて、独立した、かつ公正な立場で検証する。 
 
 UAVsが、他国の主権を侵害し、多くの市民を巻き添えにしているというのが国際社会の批判である。 
 
 今秋の国連総会に対して、今後、このような調査を加盟国に義務づけることを勧告する。NGOは、Emmerson が調査を担当することになったのは、UAVs問題が、国際法の合法性を問うばかりでなく、人権の視点で調査されるとことになると、評価している。 
 
 Emmerson自身、BBCのWorld at One番組に出て、「UAVsの使用についての狭義の国際法に基づく検証にとどまらない。人口密度の高い地域に、安易に、かつ安上がりに使用されることについての広義の人権法に基づいて検証すべきだ」と語った。 
 
 勿論、Emmersonと彼のチームは、検証対象の範囲について、並びに国際法や人権法の規定について、多方面から圧力がかかることが予想される。 
 
 NGOは、単に、UAVsが目標地域で大量の市民の犠牲者を出していると言うことだけにとどまらず、UAVsが米軍に戦死者を出さない、つまりRisk Free、さらに安上がり、だということで、米軍ばかりでなく、多くの国が、他国に対してUAVsを使った攻撃を始める危険性がある。現に、最近のフランス軍のマリでの軍事介入に、UAVsが使われている。 
 
2.UAVs攻撃についてのロンドンで裁判開始 
 
 マスメディアは、米軍のUAVs攻撃についてはかなり報道したが、英軍のケースについては、全く取り上げてこなかった。 
 
 『ニューヨークタイムズ』の国際版である『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン(IHT)』紙は、2月1日付けで、「ロンドンの法廷で英軍のパキスタンでのUAVs攻撃についての裁判がはじまった」ことを報道した。 
 
 訴訟内容は、「2011年、英軍のUAVs攻撃により、パキスタンのNorth Waziristan州で部族長Malik Daud Khanが殺されたこと」をめぐる裁判であった。丁度、部族長会議が開かれていた最中であり、Khan氏以外にも多数が犠牲になった。 
 
 この裁判の原告は、英国籍を持っている犠牲者の息子Noor Khanで、英軍当局を「第2級殺人の罪」で訴えた。この訴えをロンドン裁判所が受理したので、裁判が始まった。 
 
 裁判でスポットライトを浴びたのは、米CIAが、英軍だけでなく、ヨーロッパ諸国でも、パキスタンだけでなく、あらゆる地域の軍事情報を共有しているという点だった。英国のみならず、ヨーロッパの情報機関は、ロンドンのUAVs裁判によって、米CIAとの関係が暴露され、各地で訴訟が始まることを恐れている。英政府は、この裁判について、コメントを拒否し、「肯定も否定もしない」と言っている。 
 
3.米国内の空で飛び交っているUAVs 
 
 米軍が、対テロ戦略にUAVsを使ったのは、ブッシュ大統領時代の2004年、オサマ・ビンラディンたちアルカイダの指導部が逃げ込んだという理由で、パキスタン北西部の「連邦直轄部族地域」をUAVsで攻撃したことから始まった。通常、UAVsの使用は、CIAと連携して行われる。 
 
 通常UAVsは海外のテロや反乱に対して使用されると考えられているが、驚くべきことには、大量のUAVsが米国内の空を飛び交っている。現在、連邦政府は30,000機のUAVsの使用を認めている。その中で、すでに300機が、警察によって情報偵察の飛行中である。 
 
 これまで、UAVsは、森林火災、農業、芸術写真家、不動産業、観光協会などによって使用されてきた。これらは、非攻撃的な目的で使用されている。 
 
 しかし、米国には、連邦、州ともにUAVsが米国の空で使用されることの法律は存在しない。このことを知っている人たちは、(1)UAVsが航空機、ビルなどにぶつかる危険性がある。(2)UAVsが空から落下してくる。 
(3)騒音と大気汚染をもたらす。 
(4)UAVsが個人を家の中でも、公共の場でもスパイする。 
(5)UAVsが個人のプライバシイを保障した米国憲法修正第4条に違反する。 
(6)警察が敵と見なす市民に対して、UAVsからゴム弾、催涙ガスなどを使う。 
(7)最後に米軍とCIAが、テロ容疑で、UAVsでもって攻撃する、などの可能性がある。 
 と恐れている。実際、すでに3人の米市民がUAVsによって殺されたという事実がある。 
 
 地方で、UAVsについての法律を制定しようという運動が起こっている。例えば、バージニア州のシャーロットビルでは、市条例の草案が作られている。また、バークレイ、バファロー、マジソンなどでも条例制定の運動が起こっている。 
 
国際問題評論家 


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